第70話「覚醒、アルターエゴ」
ピージオンの姿を盗んで
その額には、
そういえば
避難民達の中で、とても優しく強い少女に会ったと。
それはやはり、間違いなく礼奈だったのだ。
「クソッ、誰だ! 誰が撃ったんだよ! あれには、デビルピージオンには人が! 礼奈が!」
思わず
だが、今は戦うことができない。
黒いジェネス……シエルに取り込まれた、フィリア・アイラ・エネスレイク。
そして、偽ピージオンことデビルピージオン。
そのどれもが、今までの歩駆達リジャスト・グリッターズの戦いとは違う状況を
しかし、振り向けば自衛隊の部隊が銃口を向けている。
通信には、若い自衛官の声が響いてくる。
『
『貴様……
『犠牲が前提だって言うのかよ、アンタはっ!』
『私情を殺せ、流郷! 誰かがやらねばならんのだ……オレとて、オレとてっ! だが、ならばオレが部下達の代わりに
再度、尾張十式・改はマイクロミサイルを放った。
白い雲を引く無数の弾頭が、デビルピージオンに爆発の花を飾る。
悲鳴と絶叫が響けば、思わず歩駆は自衛隊へとゴーアルターを向けた。
そうしている間にも、ジェネスとシエルは硬直状態で動けず、デビルピージオンに
自衛隊の決断を前に、総介だけが
まるで、全てを
歩駆は回線の向こうへと叫ぶ。
「おいっ、アンタ! 攻撃をやめてくれ! あのデビルピージオンには……人型の模造獣にはまだ市民達が!」
『なんだ、貴様……ん、その機体は! IDEALの
「なにっ……ゴーアルターを知っているのか!?」
『そう、知っているぞ……あの時、新宿で! オレの身体をも奪い、今も命を縮め続けている事件……その中で、お前のその機体はぁ!』
なんと、尾張十式・改が両手で抜き放ったオートマグナムをゴーアルターに向けてくる。自衛隊の部隊は味方、今は帝都を襲った怪異を
その自衛隊の隊長機が、歩駆とゴーアルターに敵意を向けてくる。
害意、そして殺意をも
追従する部隊の多くは右往左往していたが、一機だけすぐに動いた。アーマーギアの
『やめろぉ、楯野隊長っ! 今は模造獣や
『ぬるいことを抜かすなっ、流郷!』
内輪もめをしだした自衛隊の救援部隊だったが、隊長機は一回り小さな戦陣を引き剥がす。そしてなんと……ゴーアルターへも攻撃を向けてきた。
強固なアームドウェアの装甲が、高速徹甲弾の着弾で激しい衝撃を歩駆に伝える。
だが、歩駆は混乱の中で自分をよく
あの中東、砂の海の
例えダイナムドライブを封印していても、ゴーアルターの力は強過ぎる。
神にも悪魔にもなるゴーアルターに、人の心と魂を
それに、歩駆には一緒に戦う仲間がいる。
今も回線の向こう側では、その一人が声をあげていた。
『自衛隊の皆さんっ! 僕はIDEALの協力者、リジャスト・グリッターズのアレックス・マイヤーズです。この異変に際して、上層部同士で協力体制の確認があった筈……今は共に、バケモノ達への対処を提案しますっ!』
だが、理性を総動員するアレックスの言葉が裏切られる。
自衛隊の隊長機は、他の機体にも銃を向け始めた。
『自衛隊
『そういう定義の話をしてるんじゃないんです! 今は僕達の仲間だってピンチだし、回りを見て下さい! 人間同士でいざこざをやってる場合じゃないんですよっ!』
『人間同士? ……フン、人間同士か。そいつは、人間の自衛官に言ってやるんだな!』
『な、なにっ……貴方だって人間の人でしょうに!』
『オレは、もう……人間をやめた! そこのexSV、ゴーアルターとかいう機体のせいでな!』
ツルギが語る話に、誰もが言葉を失った。
人間をやめた? その意味とは?
歩駆も言葉を失った、その時だった。
黒き偽りのジェネス……シエルの肩に立つ総介が手を叩いていた。
『いやはや、愉快。なかなかに面白い出し物かと。されど、
「な、なんだって……!?」
『突如再び姿を現した模造獣を前に……あの日、新宿で君はゴーアルターに乗った。人の身ながら、神を
「そ、そういえば……あ、ああ」
あの日、新宿へと歩駆は珍しく遠出していた。大人気ゲーム『
真っ直ぐな正義の心を持った少年は。己という
その時、確かに近くにいた。
大破し
『彼は、あの時の負傷と模造獣の侵食、そして次元転移の余波によって……死線を
総介の言葉尻を拾って、ツルギが絶叫する。
彼の乗る尾張十式・改が全ての武器を周囲に向けた。威圧に異形達が
『そうっ、オレは人間を捨てた……失ったんだよ! 真道歩駆、お前が……お前がゴーアルターに乗った時にな!』
「な、なっ……それは」
『全身を
尾張十式・改の全武装が解き放たれた。
それは今、デビルピージオンを全てロックオンしている。
ありったけの火力が歌う中、歩駆はゴーアルターを走らせる。
その背中は、歓喜に笑う総介の声を聞いていた。
仲間達も決死の行動で道を開けてくれる。
アカグマやピージオン、ヴァルクが怪物達を抑える中、ゴーアルターは走った。
だが、
僅かな距離が、なかなか縮まらない。
ミサイルが、弾丸が向かう先へと進めない。
気付けば歩駆は、手を伸べ絶叫していた。
「逃げろ、逃げてくれ……礼奈あああああああっ!」
爆発がデビルピージオンを包んだ。
炎に包まれた人型のシルエットが、燃え盛る中で
取り込まれた人々の悲鳴が
そして……デビルピージオンの額に縛られた少女は動かなくなった。
揺れる炎の
次の瞬間、歩駆の世界から色彩が消える。
声と音とも消え去る。
あらゆる五感が霧散する中で、別の感覚が全てを飲み込んでゆく。
己の発した声さえも今、彼の知覚へと響いてはいなかった。
「お前……お前はあ! なにを、したか、わかっているのかあああああっ!」
瞬間、天へと
ゴーアルターを中心に、低く垂れ込めた暗雲が消し飛んだ。
全身に装着されていたアームドウェアの鎧が、次々と外れてゆく。ボルトが飛び散り、特殊素材の装甲板がひび割れてゆく。そして……人の怒りが
そして歩駆は、激しい怒りの中で限りなくゴーアルターと一体感を感じる中……自分ならざる自分の声を聴くのだった。
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