Act.13「大地と月を繋ぐ者」
第73話「出撃は茜色に燃えて」
危機は去ったかに思われた。
だが、
なんとか異形達の群れから逃れ、晃は
晃は今、黙ってバックスクリーンのモニターに映る緊急ニュースを眺めていた。
『都民の皆さん、命を守る行動を最優先して下さい。現在、
緊迫した声を見詰める周囲の人達も皆、表情の消え失せた顔を強張らせている。
晃もそれは同じだったらしく、不意に背後からポンと肩を叩かれた。
「よ、アキラ。ちゃんと食ったか?」
「あ、優さん。はい、ちょっとだけ……でも、食欲がなくて」
「食える時に食っとけよ。本隊に合流できれば、俺達だって戦える。今、戦わなきゃいけない気がするんだ」
そう言って優は、固形食料をかじる。
山梨の
それでも優は、強い心で戦っている。
再び学園生活を皆で取り戻すため、自分を奮い立たせている。
そして今は、それだけが彼の目的ではないと知っていた。
そんな優は、味気ない配給食を平らげるや喋り出す。
「なあ、アキラ……なんとか本隊に、リジャスト・グリッターズに連絡を取る方法はないかな」
「えっ、それは……今、携帯も
「……まだ、怖いか? 〝オーラム〟のことが。戦うことが」
「す、少しは。でも、平気です!」
嘘だった。
やはりまだ、怖い。
怖いが、同時に恐ろしい。
自分が恐ろしいのだ。
震えが込み上げる程に
それは、ただの中学生だった晃には恐ろしかった。
短い期間での
だから、晃もまた優と一緒に今は待つ。
背後で声が響いた恩は、そんな時だった。
「連絡なら
そこには、先程まで気絶していた
どうやら彼女は、メイドとして臨時で雇っているロキを本隊へ走らせたらしい。晃は、ロキがどういった事情でリジャスト・グリッターズに身を寄せてるかを知らされていない。
そもそも、彼が男だとすら知らなかった。
ただ、先程の運転を見ても只者ではないことはよくわかった。
「あのメイドさんが? 女の子が一人で危ないんじゃ……確かに凄い人でしたけど」
「ああ、アキラ。ロキはな――」
「いけません! 優さん、それ以上はいけません。……まあ、ここを出て既に一時間以上
どういう訳か、優は苦笑しつつ晃から目を
もう手が打たれているなら、あとは気持ちを
ふと周囲を見渡せば、ボランティアを手伝って
自分も身体を動かしていた方が気が紛れる……手伝おうと思った、まさにその瞬間。
突然、巨大モニターのニュース映像が乱れた。
そして……ノイズで歪む向こう側に、突然一人の女の子が映し出された。
その姿を見て、晃は絶句する。
それは、晃がよく知る少女の初めてみる表情だった。
『地球の皆さん、ごきげんよう。突然のことで驚きかと思います。まずは、公共の場を一時的に専有する無礼をお許し下さい。私は――』
そう、美しい少女が軍服姿で映っている。だが、髪を結ってティアラを頭に飾った姿は、どこか幻想的な騎士を思わせた。
『わたくしは
そこに映っているのは、十六夜かぐや……晃の初恋の人、そして恋人のかぐやだった。
彼女は、まるで別人のように表情を凍らせている。
隣でなにか優が言ってくれているが、全く晃の耳には入ってこなかった。
『今、日本列島を無数の
晃は耳を疑った。
かぐやはいったいなにを?
時々ぶれて
『日本、
アースリング? 地球人のことか? なら、かぐやだって……だが、彼女は先程ルナリアンと名乗った。それより……月の真実? なにを言っているのだろうか。
球場内の雰囲気が不穏な冷たさに包まれる中、かぐやの声は続く。
『かつて月の資源開発のため、多くの貧しい者達が不当に月へと追いやられたのです。移民の名を借りた
騒がしくなる周囲の音が遠ざかってゆく。
月への移民が、棄民政策だった? その衝撃は、晃の
『今こそルナリアンに自由を! そして、
放送は一方的に切れた。
だが、晃にはわからないことだらけだ。何故、かぐや達ルナリアンは地球ではなく、スペースコロニーを求めるのか? そして、日本の軌道エレベーターを占拠する意味は?
その問に半分だけ、麗美が答えてくれた。
彼女は形良いおとがいに手をあて、ふむと唸るや喋り出す。
「私もこちらの日本の事情は聞いていますわ。ゲルバニアンからの技術提供により、謎の
「日本中の、いや……地球中のエネルギーが停止する?」
「そう考えて差し支えないわね。だからこそ、占領して交渉材料にするつもりよ。逆を言えば、まだ交渉の余地を残しているということ。あの
麗美の洞察力に晃は舌を巻いた。
そして、スタジアム内が騒がしくなったのは、そんな時だった。
避難民達が指差す空は今、夕焼けに染まりつつある。
まるで、バケモノ達に
その空から、二機の人型が舞い降りる。
スタジアムの中央を避難民達が開けると、その場所で二機は片膝を突いた。
「あ、あれは……俺のアイリス・プロト
「〝オーラム〟……僕の、〝オーラム〟だ」
アイリス・プロトVを連れて誘導しながら現れたのは、〝オーラム〟だった。バックパックを装着せずとも、短距離ならジャンプ飛行ができる。恐らく、リジャスト・グリッターズの母艦から飛んできたのだろう。
そして、〝オーラム〟のコクピットから意外な人間が顔を出した。
「アキラッ! お前の〝オーラム〟だ、持ってきた!」
「あ、あれは……
降りてきたのは、
彼はすぐに晃を見付けると駆け寄る。
「俺のスサノオンも今、リリスが運んでくる。……乗るだろ? アキラ。もう、乗れる
響樹はずっと見守ってくれていたのだ。
優達と同じく、晃の
訓練で身体を鍛える間、ずっと〝オーラム〟が怖かった。それはゲームの中の愛機ではなく、慣性と重力という物理法則に従って動く人型機動兵器だ。ゲームのように操作しても、晃の肉体は耐えられなかった。
だが、今はわからない。
短い訓練期間だが、肉体以上に晃の心は強くなった。
それは、仲間達がいてくれたから。
優がバシン! と背を叩く。
「行こうぜ、アキラ……俺のプロトVでお前を宇宙に連れて行く。飛行形態のパワーなら」
「優さん」
「詳しくは聞かないさ……ちょ、ちょっと
晃は大きく強く
見上げる〝オーラム〟は今、夕日の最後の
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