第68話「再会は死の恐怖に飾られて」
アレックスを襲う
目の前に今、信じられない光景が広がっていた。
ピージオンの姿を盗んだ、
そして、女神像に代わって捧げられたのは、
暴力的な光が浮かぶ
思わずアレックスは、攻撃を
「クッ、エラーズ! 攻撃中止だ、現状維持! 映像を後続と司令部に送って!」
『了解』
「バルト大尉や
脳裏を最悪の事態が
この東京を火の海にしている怪物達を、野放しにはできない。
そして、目の前の偽ピージオンが、これから広げる被害をも考えなければいけないのだ。
答のない問答を自分に課していたその時、目の前のモニターで偽ピージオンが銃を向けてくる。本物と全く同じだが、表面の泡立った流動体でできたベイオネットライフル……その銃口が火を吹いた瞬間、アレックスは操縦桿を握って回避運動に愛機を投げ出す。
『ちょっと世代! ほらっ、もっと避けて!
『パワーを温存してるんです、美央さん。あと、ちょっと痛いです。
『あっ、こら! また振り返って! 見るなっ!』
『スカートの中なんか見てる余裕はないですけど。でも、これはまずい』
リジャスト・グリッターズが誇る二機の高機動型が、そろって脚を殺されたまま包囲されている。徐々に周囲では、
敵意をひきつけ集めることで、市民の避難や建物の被害を減らせるなら、それでいい。だが、今の状態では八方塞がりというものだ。
「とにかくっ、周囲の
『ん、じゃあそういうことで……アレックスは周囲を頼めるかな? こっちはちょっと、省エネでいかないといけないので。それに……アレックス、戦えないよね』
「それは君だって同じだろう! あれは攻撃できないっ!」
『まあ、僕は攻撃しないだけなんだけども。今は。ただ、なにか手があると思う』
「ならっ、そっちは任せる! でもっ、あの人達の無事を最優先だ!」
アレックスが
効率よく順々に、アレックスは群れなす
ベイオネットライフルの火線が走り、次々とぬめるような破裂音が体液を撒き散らす。この世のものとは思えぬ怪物が相手であれば、アレックスは
だが、世代のヴァルクが動きの
「クッ、邪魔を! バルカンクー・クーで足止めだけならっ!」
有線制御の浮遊砲を打ち出す。
空気を切り裂き飛翔する銃口へと、アレックスは威嚇射撃を命じた。
直撃を避けて周囲に弾幕を張るバルカンクー・クーは、やはり重力下では動きが鈍い。それでも、手加減を念じて飛ばすだけなら十分だった。
しかし、偽ピージオンはそんなアレックスの内心を見透かすかのように飛び込んでくる。
慌てたアレックスに生じた迷いが、制御用のワイヤーを伝ってバルカンクー・クーを停止させた。
『バルカンクー・クー、一番二番共に停止。敵に抑えられました』
「くっ、巻き戻せない! ……パワーまでピージオンと同じだっていうのか?」
『ワイヤー制御用モーター、
偽ピージオンは、左右の手でそれぞれ一基ずつバルカンクー・クーを
そして、アレックスは目撃する。
偽ピージオンの手が徐々に、バルカンクー・クーを侵食、一体化しようとしているのを。
模造獣に関しては資料で読んだが、不明な点も多い。宇宙からの侵略者とされているが、こちらの地球……惑星"
徐々に偽ピージオンに取り込まれるワイヤーを通じて、人々の助けを求める声が響いてくるような気がした。
焦れるアレックスはその時、砲声を聴く。
『援護射撃、後続の到着を確認』
「助かった! 仲間がいるなら頼れてしまうからっ!」
背後からの狙撃が、二つのピージオンを結んでいたケーブルを撃ち抜く。
同時にバルカンクー・クーを
リジャスト・グリッターズの本隊は、本格的に都心部への展開を開始したのだ。
そして、今しがたの射撃でアレックスを救ってくれた声が響く。
『大丈夫か、アレックス! ありゃなんだ? 偽ピージオン、っていうか、デビルピージオン! 的な! ありえる展開っぽくて凄いな!』
片道三車線の大通りを踏み締め、ゴーアルターがアドバンスライフルを構えている。白亜の神像は今、無骨な外部動力を兼ねた装甲に包まれていた。現用火器を中心とした武装形態で、本来の姿を封印されているのだ。
それでも、搭乗する
彼は群がる周囲の化物へと、満載された射撃武器を解き放つ。
爆発と黒煙が広がる中から、ズシリとゴーアルターが踏み出してきた。
「歩駆っ! 助かった、だが待ってくれ。この偽物にはまだ、人が!」
『ピージオンが送ってくれたデータで見たっ! 今、対策をバルト大尉達が考えてくれてる。だから今は……やるぞ、アレックス! 世代も! 少しでも周囲の被害を食い止めるんだ』
そして、頼れる援軍はゴーアルター・アームドウェアだけではなかった。
機体の小ささを上手く使って、小型機の仲間達が足元をすり抜ける。ピージオンより二回りほど小さい、それは
白い閃光と赤い
それは、ジェネスを駆るシファナ・エルターシャと、アカグマに乗る
『アレックスさん、こちらの
『フィリアさんは後方を! 俺は
偽ピージオンから
巧みな回避運動を続けるジェネスが、広げた両手を組み合わせて複雑な
ほのかに光りだした純白の
その一瞬を、流狼の拳は見逃さなかった。
『今です、流狼さんっ!』
『アル、サポートを頼むっ! ……動いてくれよ、俺の拳……俺の拳となれ、アカグマッ!』
『歩駆のデビルピージオンってネーミング、イイネ! で、ボクが見るに……取り込んだ人間達と完全に一体化してる訳ではないみたいだヨ。あと、デビルピージオンの取り巻きをまずやっつけないとネ!』
ジェネスは何度も複雑に印を結び直して、その
『アレックスさんのピージオンから地図をもらっています。この地形……強い霊脈の流れがあるならっ! 土地に宿る全てよ、力を!』
放たれた矢は偽ピージオンの足元に突き立った。
そして、地面の矢を中心に
あっという間に偽ピージオンは、魔法陣のような輝きの中へと封じ込められた。だが、その巨体を押しのけようと、背後に無数の魔物が群れなし迫る。
その正面に真っ直ぐ、流狼のアカグマが飛び出していった。
握る右の拳は今、ナックルガードのせいもあって巨大な
そして、武道と体術で鍛えられた搭乗者の技を、アカグマは完全に表現するだけの力を持っていた。
『マスター、いけるヨ! デビルピージオンのことはとりあえず置いといて……まずは周囲の掃除だよネ』
『ふぅ、はぁぁぁ……ッ! ――
迷わずアカグマは、真っ直ぐ正拳突きを繰り出した。
渦巻く空気が
アレックスの目にも、はっきりと見えた。
1
だが……
硬直した偽ピージオンの背後で、突き抜けた衝撃が荒れ狂う嵐となった。まるで、アニメかゲームのワンシーンを見ているようだ。アカグマの拳が静止したその先、偽ピージオンを挟んだ向こう側へと流狼の闘気が膨れ上がって
「凄い……エラーズ! あれなら!」
『偽ピージオンと呼称される模造獣へのダメージ、ナシ。後続の模造獣8、黄泉獣14、イジン7の撃墜を確認。なお、小型の神話生物に関しては撃墜確認不能な数です』
「ああいうやり方もある、これが……リジャスト・グリッターズの戦い」
アレックスが小さな興奮に身を乗り出していた、その時だった。
不意に背後で、無線越しに悲鳴が響いた。
慌てて振り向くと、そこには立ち尽くすゴーアルターの背中が見える。
そして、その向こうでは……信じられない光景が広がっていた。
一機の人型機動兵器が、怪物達の中に埋もれて沈もうとしている。それは、サイズや意匠からアカグマと同じ
『平気です、ロウ! 皆さんもっ! 私とて、これくらいのことでは……ッ!』
フィリア・アイラ・エネスレイクの声が
だが、王族である彼女にはまだ、慣熟した操縦技術は身についてはいない。
それでも出撃してきたのは、王族故の誇りと自尊心……なにより民を見捨てられぬ気性からだろう。それが今は
すぐに歩駆のゴーアルターが援護に向かった。
『っと、お姫さん! 待ってろ、今すぐ助けるっ!』
『アル・クゥ! しかし、私は足ばかり引っ張って、こんな』
『お姫さんは暗黒大陸で、俺達を沢山助けてくれたからな。気にすることないさ!』
アレックスはフィリアの未熟さも気高さも、知っていた。そして、それ故に支えたいと思う気持ちは歩駆と一緒である。
だが、今はそうした少年少女の
重々しい足取りで向かうゴーアルターが停止する。
そして、回線越しに歩駆の声がひきつる気配をアレックスは拾った。
『なっ――人が? お、おいっ! 危ないぞ、逃げろ! そんなとこにいられちゃ』
『フッ……
『な、なにを……邪魔をしないでくれ、フィリアさんがっ!』
『ならば見よ、少年。その目でしかと見届けよ……
アレックスは、徐々に異形に沈んでゆくエネスリリアの上に、見た。
黒いスーツ姿の、壮年の男だ。
この距離からでも、エラーズがズームしてくれるのではっきりとわかる……その男は、笑っていた。歓喜と感動に打ち震えるように、穏やかな
そして、振り返るゴーアルターの中で歩駆の絶叫が響く。
偽ピージオンの
数奇な運命に縛り上げられた彼女の名は、
歩駆は礼奈の名を叫んで、動揺も
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