第23話「死の砂漠に御使いは舞い降りる」

 天に満ちたくらい光、あれは次元転移ディストーション・リープの波動に間違いない。

 先行して僚機りょうきと飛ぶ虹雪梅ホンシュェメイは、自分の心身に刻まれた恐怖を思い出す。人類同盟じんるいどうめいの一員、盟主国の一つでもある中華神国ちゅうかしんこくの一員として戦っていた、以前の空だ。あっという間に戦友も上官も、蒼穹そうきゅうを切り裂くビームの中に消えていった。気付けば一人で戦域外を飛んでいた、あの日の記憶が蘇る。

 自然と雪梅は、望天吼ウァンテンホウ操縦桿スティックを握る手が震えていることに気付いた。


『前方、金属反応。熱紋検索に該当ナシ、だが……この数は間違いないな』


 僚機の神柄かむからを操る篠原亮司シノハラリョウジの声は落ち着いていた。

 いつもと同じ、平坦な声音はまるで機械のよう……だが、雪梅は知っている。この男は、心を胸の奥に沈めて精密機械のように飛べるが、静かに燃える魂を持っているのだ。その熱が何度、戦場で雪梅を救ったかは数えきれない。

 そんな気持ち多くの思い出で、今もその熱量を失っていない。

 確かな仲間のぬくもりを確かめる雪梅の眼下に、恐ろしい光景が広がったのは次の瞬間だった。


「こ、これは……亮司!」

『後方のサンダー・チャイルドに打電。……こいつは酷いな』


 熱砂の海が血に染まり、無数の残骸が見渡す限りに散らばっている。戦車や装甲車、そして小型の砂上艦艇……巨大な戦艦や巡洋艦も大破炎上して傾いている。救助を待つ者たちは皆、灼熱地獄にうめいていた。

 それは、壊滅した中東連合ちゅうとうれんごう砂海艦隊サンドフリートの成れの果てだった。


『見ろ、雪梅。この溶断面や弾痕……ビーム兵器だ』

「じゃあ、奴らが……ッ!? 亮司、この光は!」


 再び空が眩く輝き、周囲が白い闇に閉ざされる。

 そして、逃げ惑う砂海艦隊の敗残兵たちの前へ、無慈悲な殺戮機械の群が無数に舞い降りた。

 ――パラレイド。

 この地球に存在する、ほぼ全ての国家を結びつける共通の敵……天敵。人類同盟に参集した国家群が三十年近く戦い続けている、謎の無人兵器群である。現時点での地球の科学力を遥かに上回る技術で作られた、自律兵器。ただ破壊と虐殺のためだけに、どことも知れぬ場所から次元転移してくる謎の敵だ。

 あっという間に砂漠を埋め尽くして、大量のパラレイドが展開を始めた。

 恐らく、これと戦って砂海艦隊は全滅したのだ。


『パラレイドの次元転移を確認。アイオーン級が約七千』

「亮司、回避を! 奴ら、撃ってくる」

『マニュアルで避けろ、雪梅。動き続けろ!』


 あっという間に散開ブレイク、雪梅は翼をひるがえす。

 急反転で空気との摩擦熱に、主翼の先端がビリビリ震えて赤熱化した。雲を引きながらロールを繰り返す中で、操る望天吼の残像を無数のビームが貫いてゆく。

 一秒にも満たぬ過去に並ぶ全ての雪梅を、次々と粒子の光条が殺していった。


「っっっっ! ……っはぁーっ! こんのぉぉぉぉ!」


 限界機動に震える機体を立て直しながら、加速。

 もはや亮司の神柄を、その無事を確認する暇もない。

 地上から屹立する光の柱の中を、ジグザグに小刻みな回避で回転しながら雪梅は避け続けた。そして、徐々に狭くなってゆく自分の機動領域の、その先のデッドエンドから逃げるように飛ぶ。

 過去の悪夢を塗り潰す惨劇の空が、突然の闇に覆われた。

 頭上に巨大な影を見上げた雪梅は、その威容に絶句する。


「これは……飛行戦艦ひこうせんかん!? 違う、こいつは……!」


 望天吼の上空に今、巨大な質量が浮いていた。

 それも、二機。

 咄嗟に雪梅は、敵の動力源が発する固有の波長、熱紋による照会を行う。人類同盟および地球の技術力で作られた機動兵器には、多種多様な動力部がそれぞれに持つ固有の熱量波形が存在する。それを読み取り識別するのが熱紋探知だ。

 だが、現在地球上にオンステージする全ての飛行戦艦の中に……該当はない。

 全長100mを超える敵は、まるで雪梅の望天吼を圧し潰すように高度を下げてきた。

 その見た目は、全身にハリネズミのように火器を搭載した飛行戦艦とは大きく異なる。まるで太古の爆撃機かロケットのような、古典のSF御伽草子スペースオペラに出てくる挿絵のようだ。


『雪梅、加速しろ! 今、行く!』

「駄目っ! 私に構うな、亮司!」


 咄嗟にフットペダルをせわしく踏み込みながらも、操縦桿を倒す雪梅。まるで巨鯨きょげいから逃げる小魚だ。そして、背後に遠ざかるかに見えた二機の巨大な影が、すかさず加速して追いすがる。地上からのビームの弾幕の中、光の瀑布ばくふを突っ切るように雪梅は飛んだ。


「振り切れない? あの図体でどうやって……速いっ!」


 パラレイドにはアイオーン級、アカモート級など、複数のタイプが存在するが、今まではどれも陸戦型だった。ここにきて空戦型、それも飛行戦艦クラスの巨大なタイプが現れた。

 そしてその巨影は今、雪梅の望天吼へと迫る。

 苛烈かれつな光が背後で煌めいたと思った、次の瞬間に衝撃が突き抜ける。

 二度三度と被弾して、続いて爆発音が背中に響いた。

 背骨を通じて全身に響き渡った衝撃の中で、きりもみに望天吼が天地をかき混ぜ始めた。雪梅は必至で機体を操る中、アラートの真っ赤な音を聴く。耳元でベイルアウトを促す音に、一瞬イジェクションレバーへと手が伸びた。

 だが、僅かな刹那だけ迷った後で、雪梅は再び操縦桿を握った。


「まだ立て直せる! 下は砂だし、なんとか着陸を……ここで機体を潰す訳には!」


 望天吼とは試作機時代からの付き合いだし、物資の深刻な不足が地球レベルで蔓延まんえんしている今は貴重な機体だ。故郷の中華神国でも、子供たちまで動員して兵器を量産している。人類同盟の勢力圏外であるこの中東で撃墜されれば、機体の回収は絶望的だ。


「自動消火装置、正常に作動中……タンクの爆発は消えた、エンジンは止まってるけど、四肢は生きてる。今は機体を軽くして! 降りることだけ考える!」


 次の瞬間、全武装をパージした機体に僅かな浮力が発生する。

 中東の砂漠を渡る気まぐれな風が、雪梅の声に応えたかのようだった。偶然生まれた気流に、軽くなった望天吼がつかまって浮く。その僅かな力を得て、雪梅は機体を安定させるや、目の前の砂丘に突っ込んだ。

 何度もバウンドしつつ手足をばたつかせながら、激しい揺れの中で望天吼が不時着する。

 その上を一対の影が、音速に近いスピードで通り過ぎた。


「よーし、よしよし……いい子ね。砂を噛んだエンジンの整備は大変だけど、今はそんなことより! 亮司!」


 コクピットのハッチを跳ね上げ、外気へと身をさらして雪梅は天を仰ぎ見る。

 太陽の光を反射して飛ぶ銀翼つばさは、亮二の神柄だ。地上から幾重いくえにも突き立つ光の槍を回避しながら、先ほどの巨大な空中パラレイドに挟み撃ちにあっている。

 もともと推力に物を言わせた加速が自慢の神柄だけあって、ギリギリの回避を続ける中で敵機を振り切りつつ、亮司は背後を取ろうとしていた。だが、二機の空中パラレイドはまるで互いに完璧な意思疎通をしているかのように、全く乱れぬ動きを続けている。


「くっ、亮司! 逃げて! 後続は、サンダー・チャイルドは……うっ!」


 息を飲んだ雪梅が、視線をけた大地へとおろす。

 既に周囲は、パラレイドの大群が包囲していた。まるで、墜落にも等しい不時着で命を繋いだ一人と一機に、とどめをさそうとするかのようだ。無数に並ぶ巨大な節足動物にも似た、八本脚のパラレイド……一番一般的な雑兵ぞうひょう、アイオーン級だ。虫の頭部にあたる部分にはカメラやセンサーの類と思われるターレットが密集しており、そこから後ろはビーム兵器やミサイルを満載した兵器庫だ。

 ザクザクと熱砂を踏みしめ、冷たい敵意が雪梅を囲む。

 思わず腰の銃を引き抜き、絶望的に思えながらも雪梅は撃鉄げきてつを起こす。

 ハンドガン一丁ではあまりにも心もとない、アイオーン級には掠り傷一つつかないだろう。だが、それでも彼女は手にして握る銃に自分の意思を込めて不屈を誓った。


「来るなら来なさい! 屑鉄野郎ッ! そのオイル臭いけがれた体で触ったら、蜂の巣にしてやるわ!」


 口汚いスラングも織り交ぜ、どうにか自分を奮い立たせる。だが、徐々に包囲の輪を狭めてくる敵意を前に、雪梅の視界はれてにじんだ。それでも気丈に銃を構えた、その時だった。

 突然、周囲でアイオーン級が火柱と化した。

 その爆発が次々と周囲に連鎖する中で、突風が砂を巻き上げる。

 思わず見上げた先に……機銃が吐き出すつぶての火線。救いの翼はまるで、死の大地へ突き立てられたつるぎのように急降下してきた。そして、地面へ向けた機首をわずかに上げながら変形、人の姿になってゆっくりと逆噴射。最後に20mmチェーンガンの一斉射で周囲を薙ぎ払った。

 次々と爆発が巻き起こる中で、叩き付ける風圧に雪梅は思わず顔をかばう。

 同時に、ヘルメットの無線に頼もしい声が響いた。


『雪梅さん、大丈夫ですか! 整備で遅れました、すみません! このまま援護します』

「クーガー! ユート・ライゼス!」


 ドン! と周囲に砂を巻き上げながら、鋼鉄の守護神が聳え立つ。背に雪梅と望天吼を庇いながら、ユートのRAYが左腕から抜き放ったブレードを構えた。

 次から次へと押し寄せる鋼鉄の津波を、切っ先鋭い刃で次々と撃破してゆく。

 攻防一体の機動は、空の王が舞い降りた地を鎮定するように殺意を平らげてゆく。斬撃と射撃を織り交ぜながら、ユートの操るRAYはアイオーン級を押し返した。

 そして、振動に雪梅は振り返る。

 徐々に強まる大地の震えが、強い縦揺れの感覚を徐々に狭めてゆく。

 見詰める先の砂丘に、

 輝くロザリオは、鉄巨人……そのかおに罪の十字をきざまれた、巨神が産み落とした私生児バスタードだ。見る者を圧倒する巨体が徐々にあらわになるにつれて、心も魂もないパラレイドすらも怯んだ様に後退してゆく。


『あーっ! 雪梅さんがやられてる? おやっさん、増速、加速! 急いで!』

『いいぞ、ブン回せ! シルバー! 最大戦速だ』

『全火器オンライン、オートで……ぶちまけるっ!』


 たちまち雪梅の頭上を、無数の砲弾が飛んでゆく。

 遅れて響く音が衝撃波を呼んだが、駆け付けた機体が壁となって雪梅ごと望天吼を守った。閉じたまぶたを開くと、そこにはホワイトとイエローに塗り分けられた重機のような機体が、背負ったコンテナをパージしながら立っている。


『来たか、零児レイジ! どうだ、直せそうか? ここは俺が食い止める!』

『ユートさん、応急処置してみます。駄目ならザクセンで運んで……とにかく、なんとかしてみせますっ!』

『頼む! 雪梅さんはコクピットに戻ってくれ、危険だ! ……ん? 妙だな、あれは』


 ユートの声がわずかにかげって沈んだのは、敵が奇妙な動きを見せるのと同時だった。

 現れたサンダー・チャイルドからの艦砲射撃で、地形すら変わりゆく中にアイオーン級は下がってゆく。砂海に沈んだ艦隊の残骸を盾に応戦しながらも、徐々に後退してた。

 しかし、空を舞って亮司の神柄と熾烈しれつなドッグファイトを繰り広げる影が、動く。

 そして雪梅は、信じられない光景に思わず声を失った。

 神々しくもおぞましい、絶望の名を想起させる姿が現れる。


「なっ……合体、した? あれは……!」


 100mを超える二機の機体が、そのまま垂直に太陽へと昇ってゆく。完全に逆光の中へと溶け込んだ一対の影は……そのまま結ばれるように連結され、合体した。

 そして、推進器を束ねたような後部が割れて、両の脚が生えてくる。

 機首が割れて肩となり、黒光りする剛腕が両の腕を成した。

 起き上がる首には巨大な一つ眼が輝き……完全に人の姿が、黒い影となって降りてくる。

 それは正しく、太陽の光を背負って降臨する、断罪の熾天使セラフにも似ていた。


「……嘘、あれは……もしかして、セラフ級」


 激震と共に合体したパラレイドが大地に着地し、降り立っただけで発生した衝撃波が周囲を薙ぎ払う。腕で顔を庇いながらも、手の指と指の隙間から雪梅は見た。

 その全長は200m程、ここまで巨大だともう距離感が完全に殺されている。

 まるで冗談のような巨躯きょくは、確かにサンダー・チャイルドよりは小さいかもしれない。だが……ガンメタリックに輝く中でオレンジ色のラインを輝かせる姿は、雪梅には何倍にも恐ろしく見えた。

 それは、神の御使いである熾天使に原初の恐怖を感じる咎人とがびとにも似た、畏怖いふ


『おやっさーんっ! なにあれ、合体した! ……セラフ級、って?』

『わからん! とにかく撃ちまくれ! 敵だってことははっきりしてんだからな』

『オーライッ!』


 サンダー・チャイルドの巨砲が唸りをあげて、たちまち強力な砲撃が合体パラレイドを……セラフ級と思しき巨人を至近弾で夾叉きょうさとらえる。

 だが、続いての直撃弾を前に、静かにパラレイドはてのひらを突き出した。

 そして、信じられない光景に誰もが息を飲む。


『おやっさん、弾かれた! なんか、砲弾が全部、吹き飛ばされた!』

『なんだありゃ、バリアなのか……?』


 サンダー・チャイルドが黒煙を巻き上げながら、灼けた砲身から次々と射撃を続ける。だが、そのすべてがパラレイドの前で虚しく同心円状の光を広げながら弾き返された。

 雪梅は目の前の異常な戦闘に、思わず発した声が上ずった。


「セラフ級だわ……この力、間違いない。データにないタイプ……完全に個体名で識別される、危険度最上位の絶対破壊兵器。セラフ級……ッ!」


 それは、エデンを追われた人間が地に満ちた今に伝わる神話。そして、煉獄れんごくへと続く黙示録アポカリュプシスである。パラレイドの中でも特別に強力な、個々に特殊な形状をした人型の個体を人類同盟はセラフ級と呼称している。個体名を持ち、それぞれが一騎当千であり、戦略兵器級の破壊力を持つ。

 セラフ級は空を引き裂き、大地を消滅させ、海を蒸発させる。

 全てを灰燼かいじんす破壊神、それがセラフ級。

 眼前に腕組みそびえる姿は正しく、未完の鎮魂歌レクイエムを歌う最終兵器と言える存在だった。


『各機、サンダー・チャイルドを援護……来るぞっ!』


 珍しく熱くなっている亮司の声と同時に、周囲の気圧が変動する。

 空はくもって雲が渦を巻き、その中心に立つセラフ級の単眼に光が集まった。

 息を飲む中で雪梅は、八尺零児ヤサカレイジがザクセンで修理作業を始めたのに気付いた。誰もが呼吸も鼓動も支配されたように委縮する中、彼は黙々とトーチの光で溶断面に修復を施し、砂の中から望天吼を持ち上げる。

 コクピットでハッチを開けたままの雪梅は、揺れる中でシートから首を伸ばした。


「零児! 危険よ、機体を放棄することも……残念だけど、みんなの命には代えられないわ!」

『まだエンジンは生きてます、このまま持ち上げて運びます!』

「そんな小さな機体じゃ無理よ」

『大丈夫です! パワーとトルクが違いますから!』


 眩い光が曇天どんてんを引き裂いたのは、望天吼の機体が持ち上がった時だった。

 周囲を警戒するRAYのユートも、頭部の首を巡らせる。

 その先で今、セラフ級が妙な腕のポーズと共に眼から発したビームが、サンダー・チャイルドを直撃した。

 300mもの巨体がゆらりと傾き、砂にくるぶしまで埋まった脚が一歩下がる。 

 だが、苛烈なビームの奔流がサンダー・チャイルドに風穴を開けることはなかった。


『おおっ! フォトン・フラッシュの使い方だって……バリアにっ!』


 セラフ級が発した光の濁流だくりゅうを、ピンポイントで受け止める声があった。それは、サンダー・チャイルドの胸部に立つゴーアルターだ。真道歩駆シンドウアルクの絶叫が、身を声に叫ぶ咆哮ほうこうが光を光で押し返す。

 真っ白なゴーアルターは、乗り手の表情を宿したようにえていた。

 そのままかざした両手に光を集めて、ビームを真正面から受け止める。

 やがて、照射される圧倒的な破滅の熱量は、細く集束して消えていった。

 ゴーアルターの周囲だけ、蒸発した塗料の下からジェラルミン色の金属素材を覗かせるサンダー・チャイルドは健在だ。


『ありがと、歩駆っ! よぉし、反撃……おやっさん、しっかり掴まって!』

『待て、シルバー! 亮司がなにか……なに? 高熱源反応? なに、こっちの方がガタイはデカいん――!?』


 轟音が響き渡った。

 セラフ級は盛り上がって尖塔のような肩から、ロケットモーターの光を炎で飾って浮かび上がる。雲を引いて飛んだセラフ級は、空中で一回転するや……飛び蹴りを突き出しサンダー・チャイルドへと突撃した。

 空気を沸騰させ砂塵さじんを巻き上げながら、セラフ級がサンダー・チャイルドへと吸い込まれる。それを視線で追って首を巡らす雪梅は、驚愕に震えた。

 ゴーアルターが再び展開したバリアを、蹴り脚でセラフ級が押し込む。

 サンダー・チャイルドはグラリと大きく揺れ動き……そして、背から地響きをたてて倒れ込む。保護を依頼されていた謎の不沈艦は、ドバイへの道なかばにして倒れた。巨大な砂柱が天へと突き立つ中に、一つ眼のパラレイドがゆっくりと振り向く。

 その足元では、高熱にガラス化する砂が渦を巻いて光り輝き沈み込む。

 おそらく地盤ごと蹴り抜いたのだ……ザンダー・チャイルドの巨躯は、その流砂の流れの底へと消えていった。

 雪梅は全身の毛穴が開くような悪寒に、総身を震わせた。

 恐怖という言葉ですら生温なまぬるい、本物の絶望が腕組み立ち尽くしていた。

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