第4話 『奴ら』

「あいつら、何者なんだ?」

 従業員トイレを出て、廊下を進みながらマックスは前を行くリオに話しかける。

「なんで撃ってくる?」

「後で話す」

 ばっさりと切り捨て、リオはどんどん先に進む。

「少しでいいから今話してくれよ」


 チラとこちらを確認し、リオは口を開く。

「……あいつらの事、ワタシたちは『Theyやつら』って呼んでる」

「奴ら?」

「勝手にそう呼んでるだけ」

「何者なんだ?」

「能力者を殺そうとする人たち」

 ごく、と喉が鳴る。


「何で殺そうとする? 能力者って何だ? あと、俺らはどこに向かってる?」

 今度は振りかえらず、歩きながらリオが返す。

「今、それを落ちついて話すために移動してる」

「どこに向かってるんだ?」

「フードコート」

 更に疑問が増えた。飯食ってる場合か?


「助けを求める……って事か?」

「半分正解。『奴ら』は人目が多い所では仕掛けてこない」

「だがもし――」

「マックス、角まで戻って!」

 廊下の先、『奴ら』だ。ぞろぞろと現れ、銃を構えている。

 その数、五人。

「これ持って! 走って!」

 突然の事に動けずにいるとバットが手渡された。

 それをきっかけに、バトンを受け取った最終走者アンカーのように必死に駆け出す。


 が、マックスは振り返る。

 背後にリオの気配を、一緒に逃げてくる気配を感じなかったからだ。

 リオはマックスに背を向け、『奴ら』と向かい合うように立っていた。


 少女は両の手を自分の耳元に持っていく。

 肩にかかる金髪をかき上げるようにして持ちあげ、くようにして広げる。

 そしてその髪が手から離れきった時、彼女の右手には短機関銃サブマシンガンが握られていた。

 左手にはその弾倉マガジンが握られており、慣れた手つきでそれらを組み合わせる。

 構えると同時に銃声が響き、『奴ら』が二人、崩れるように斃れる。

 残りの『奴ら』は、身を隠し応戦してこない。


 制圧射撃を続けながら、少しずつ後退する。

 そして壁際の柱に身を隠す。小柄なリオなら小さな柱も十分な遮蔽物になる。

 右手で髪を梳き、新たな弾倉を握る。

 次で全員仕留める。と――


「危ない!」

 その声に振り向く、と目が合った。

 バットを手にこちらに駆けこんでくるマックスと、ではない。

 二人の間にある、スタッフルームの扉から顔を出した『奴ら』の一人とでもない。

 リオが目を合わせてしまったのは、その『奴ら』が構えた銃口だった。


 次の瞬間には、マックスが『奴ら』に飛びつき、二人はスタッフルームにもつれ込んだ。二発の銃声。

「マックス!」

 動こうとするリオに銃撃、廊下の先の『奴ら』だ。

 柱の陰に身をすくめながらリオは叫ぶ。

「返事して!」

 声は返ってこない。あるいは銃声でかき消されているだけかもしれない。

 そうであってほしい、ここで彼を失う訳にはいかない。


 弾幕の切れ目にリオは飛び出し、残りの『奴ら』を撃ち倒す。

 そのまま踵を返しスタッフルームに向かう。

 そこにはマックス一人がうつぶせに倒れていた。血の気が引く。

「大丈夫!?」

「撃たれた……くそ……」

 最悪の状況だ。リオは扉を閉め、傍にしゃがみこむ。

「どこを撃たれたの?」

「分からん……もう、痛みも感じない……」


 リオは、マックスの体を上下一往復、目で確認し――

「ホントに撃たれたの?」

 ある事に気がついた、血が出ていない。

「ああ、体が動かん……死にたくない……」

「失礼」

 腕を掴んで、ごろりと仰向けにする。やはり傷は無い。

 ぐるりと見回すと壁に二発分、弾痕がある。

「深呼吸して」

「ダメだ……傷が開く……」

「傷なんて無いから! さあ!」

 バシバシと腹を叩かれてマックスはむせた。

「待て、よせ」

「銃声に驚いて体が動いてないだけ、立って。ほら」

 支えられながらマックスは立ちあがり、自分の体をあらためる。


「なるほど、確かに。いや焦った」

「焦ったのはこっち。心臓に悪い」

 汗をぬぐいながらリオは言う。

「あと少しでフードコートだから、走れる?」

「大丈夫だ。くそ、喉がカラカラだ」

「さっきのは助かったし、飲み物ぐらい奢るわ」

「ありがたいね」

 命の恩を飲み物で返すのはどうなんだ、と思わないでもなかったが、喉が渇いていたので口を開くのをやめ、バットを拾ってリオに続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る