第2話 赤い夢
マックスが目を開くと、世界は赤かった。
映画を映すスクリーンも、座席も、そこに座る観客の顔も、服も。
すべてがセルを通したように赤かった。
理由は分からないが、赤かった。
しかし、なぜ俺は、観客の顔と服を見ているのか?
映画館で、他の客の顔や服装なんて自然に目に入る物じゃない。
だが実際、普通に正面を向くだけで、赤い顔と赤い服がいくつも見えてしまう。
なぜ?
そう思い、赤い景色を眺め、はたと納得する。
……どうやら俺は空中に浮いているようだ。
ならしょうがない。
空中から眺めれば他の客が見えてしまうのは自然な事だ。
気をとりなおし、空を泳いで映画を見るのにいい場所を探す。
やはり真正面、視界いっぱいをスクリーンが覆う場所を取りたい。
ふわふわと泳ぎながら、スクリーンを眺める。
しかし、何故か俺はこの映画に違和感を感じた。
正確には、この映画が『何なのか』さっぱり把握できないのだ。
映像を流しているのは分かるのだが、内容が分からない。
会話も、何かを話しているのは分かるのに、理解はできない。
だが、めちゃくちゃ面白い。
それだけは理解できる。
音も、映像も、理解できていないというのに心が躍る。
食事で例えるなら、食べるという行動も、味や食感といった判断材料もスッ飛ばし、美味であるという結果のみを食べている気分だ。
長年求めてきた理想の作品が今、目の前にある。
脳みそに血が巡り、体が熱くなるのを感じる。
気付くと、両腕にはいくつもの燃え盛る火炎瓶が抱えられていた。
どうやらこれが、熱の原因のようだ。
そして俺は両手いっぱいの火炎瓶を客席にぶちまけた。
炎が自分の真下を中心に広がってゆく。
ひときわ濃い赤が燃え、より辺りを赤くする。
映画の音声にノイズが混ざる。
真に迫る本物の悲鳴。
それに気をよくした俺は銃を両手で構えスクリーンに乱射する。
大粒の汗が流れ、マズルフラッシュがそれをキラキラと反射させる。
震えるライフルの重みがより気分を高揚させ――「おい」
突然聞こえた声に振り向くと、一人の少女が立っていた。
まるで、そこだけ一人分、世界が切り取られたような印象を受ける。
肩までの金髪にグリーンの上着を羽織り、白い肌を……
赤くない肌をした少女がそこにいた。
「目を覚まして。ここは夢じゃない」
……? 意味が分からない。
「理解できないと思うけど、落ちついて――」
撃ってみるか。
銃声が轟き、弾丸は真っ直ぐに、壁に命中した。
「ん?」
少女は消えていた。
見間違いだろうか。見間違いだろうな。
「銃を降ろして、深呼吸しなさい」
声に思わず振り向く。
が、視界に少女を捕える事は出来ない。
「どこだ!」
「下よ、こっち」
その声に足元を見るのと、少女の手が俺の胸倉を掴むのは同時だった。
ぐい、と身体が引っ張られ、空中で踏ん張ることも出来ずに俺は回った。
背中に鈍痛、息が無理矢理吐きだされ、二度と息が吸えないんじゃないかと錯覚するほどの痛みが背中から脳天まで走った。
何が起こったのか? 空中から地面まで投げ落とされたのだ。
そのまま座席に叩きつけられ、背中に肘置きが直撃。目が熱くなり涙が浮かぶ。
そして少女は、宙に浮かびながら俺を見降ろしていた。
「深呼吸して」
できるか、と言い返したかったが、赤い視界は暗く揺らぎ、俺は気を失った。
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