レッド・ドリーム -赤い夢は覚めず-

赤間

映画館と少女

第1話 シアター

「帰ってくるのは遅いけど、晩メシは家で食べるからとっといて!」

 マックスは財布をズボンに突っ込み、母の返事を待たずに扉を掴んだ。

 映画? という母の声にそう、と返事をし扉を出てすぐの自転車にまたがる。


「八時か九時には戻るから――」「ハンカチ持った?」

 漕ぎだそうとした体を押さえ、溜め息をつきながら応える。

「持ってるよ!」「ちょっと待ちなさい!」

 あ゛ーと頭を掻きながら待つ事数秒。母がハンカチを持って出てきた。


「持ってるって!」

「それ一昨日のやつでしょ。はいこれ」

 ひったくるようにハンカチを受け取り、ポケットのハンカチを投げつける。

「車にぶつからないようにね! 帰りはライトつけなよ!」

 はいはい、とイラつきがしっかり伝わるように喉を鳴らす。

 彼の名はマックス=リム。

 母――シンディ=リムと二人で暮らす高校生だ。


 住宅街を一分も走れば気分もすっかり晴れ、朝のワクワクが戻ってきた。

 学校が終わって今は4時半ごろ。

 人通りのない歩道を飛ばすと風の抵抗が気持ち良い。

 今日は彼が楽しみにしていた映画の封切りの日なのだ。

 映画は急いで見るに限る。

 ささやかながら譲れない彼の持論である。

 彼は一路、街の映画館シアターを目指し急いだ。



 * * *



「くたばれ! 化け物!」

 男は脇に抱えた銃を怪物の鼻先に向け発砲。

 男の顔には大粒の汗が流れ、マズルフラッシュがそれにキラキラと反射する。

 怪物の悲鳴、なおも男は引き金にかかった指をゆるめず撃ちまくる。


 男の唇は覚悟と怒りを表すように固く結ばれ、歯を食いしばっている。

 怪物の苦悶と怒りの叫びに見てるこちらまで緊張して――こない。


「くどい……」

 『マグマ・モグラ2 ~NYニューヨーク沈没~』はハズレ。

 まだ上映時間は半分ほどだが、自分の評価がほとんど固まるのを感じた。

 一つ席を開けて座った客もこれ好機と銃声にまぎれてポップコーンを食べている。

 撃って、逃げて、撃って。

 さっきから似たような場面がずっと続いているのだ。

 あんまりに冗長でつらい。


 前作『マグマ・モグラ』の良さが全く残っていない。

 自分ならこうは撮らない、もっとモグラの恐ろしさが引き立つように……


 荒唐無稽で壮大な構想を膨らませながら、マックスはあくびをする。

 目の前のスクリーンにすっかり興味を失った彼の瞼はぐっと重くなる。

 彼の名は、マックス=リム、映画鑑賞が趣味の高校生。

 男がやっと銃を降ろす頃には、マックスの瞳は完全な暗闇を見ていた。



 マックスが目を開くと、世界は赤かった。

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