第9章 変化
第31話
「・・・・・・それで?」
「・・・・・・・・・・・・それだけです」
私は灰屋君と昼下がりのカフェでテーブルを挟んで向かい合って座っていた。
「いや、だって、その流れって完全に付き合う流れでしょ?」
「そうは問屋が卸さない・・・・・・みたい」
輝とは、あの公園以来ろくに話してもいない。なんとなくお互いに気まずいし、付き合う雰囲気らしいものも一切無かった。
「まあ、あの輝が二股掛けるとは思えないし、町村さんと別れる理由があるわけでもないしね」
「理由って、他に好きな人が出来たって、十分な理由じゃない?」
「別に私はコクられた訳じゃないもん・・・・・・ただ・・・・・・抱きしめられたってだけで・・・・・・」
思い出し、急に恥ずかしくなる。私今、間違いなく顔が赤い。
「俺が見る限り、輝は葉多ちゃんのこと、かなり好きだと思うんだけどなあ。逆に町村さんのことどう思ってるのか、正直読めない」
「好き・・・・・・なんじゃない?付き合ってるくらいだし」
「あの二人はさ・・・・・・多分、かなり釣り合い取れてない」
釣り合い?私は首を傾げる。
「つまりは、町村さんの気持ちが大分大きくて、輝の気持ちはそうでもないと思う。輝はそこまで気持ちが表に出るタイプじゃないけど、葉多ちゃんに対してと比べて、町村さんに対しては“出なさすぎ”でさ。告白したのも町村さんらしいし、無自覚でも相手の事を傷付けまいと考えて、告白を受け入れてそのまま振ることもできない、ってのも輝ならあり得る」
確かに、輝は輝自身が思っている以上に優しい面がある。自分の見返りなど関係無しに人に親切に出来る人間だ。それなのに輝は自己評価が著しく低い。自分の善意を全て偽善、打算と言い放つ。最初はただ照れているだけかと思っていたが、彼と付き合いを続ける内、それが本気なのだと分かった。
「だけど・・・・・・輝が本当に町村さんのことを好きじゃないって輝が言ったわけでもないでしょ?」
「ま、そうなんだけど」
灰屋君は自分のアイスティーをずずっと音を立てて飲みきる。
「何にしろ、俺が輝に聞いてみるよ」
そう言いながら灰屋君は席を立つ。
「え、いやちょっと・・・・・・」
「大丈夫、“俺の”興味本位だから」
そう言われると私は二の句が継げない。灰屋君も、私の扱いにすっかり慣れたようだ。それは少しだけカンに触るけど、輝の気持ちを確かめたいのも確かだ。
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