第27話
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最後。
その言葉が俺に重くのしかかる。
「最後って・・・・・・どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。これで全部おしまい。全部」
相変わらず光希は目を合わせようとはしない。
「取り敢えずさ、ほら。大丈夫、私服だから未成年とかバレないって」
光希は俺の腕を引っ張るが、俺はそれを振り払う。
「ちょっと待てって!」
思わず声を荒げる。それに気付き、努めて声を鎮めて言う。
「やっぱりお前今日はなんか変だよ。一端落ち着こう。な?どこか喫茶店にでも――」
「あーあ、残念だな!」
俺の言葉を遮るように、光希は言う。
「ごめん。私、もう、輝とは一緒にはいられないんだ」
光希はその日一番の笑顔を俺に向けた。でもそれは、その日・・・・・・いや、今まで俺に見せてきた中で一番、泣き出しそうな顔だった。
「光希――」
「じゃあね。私よりいい人見つけてね。今まで・・・・・・ありがとう」
その語尾は消え入りそうで、その場を去ろうとする腕を掴んでしまうと、彼女も、何もかもが壊れてしまうような気がして、俺の指は空を切った。
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「まあ、そこで光希の腕を掴んでいれば、彼女を壊さなくて済んだかもしれない訳だ。馬鹿な話だよ」
輝は自嘲的に苦笑する。私が言葉を失い何も声を発せずにいると、輝が言葉を続けた。
「・・・・・・多分、光希は、自分の状況に言葉にしないままで気付いて欲しかったんだ。俺があいつの望みを聞いて、その異常な身体の傷や痣に気付いて、助けてくれることに賭けた。でも、俺はそうはせず、あいつの問題を言葉だけで解決しようとしてしまった。多分、光希はその足で」
「そっか・・・・・・」
それが、私の発することのできる、精一杯の言葉だった。
一番の親友の、昏睡直前の一連を知り、それで頭がいっぱいだった・・・・・・訳じゃない。
もちろんそれもある。でもそれだけじゃない。
光希が、最後に頼ったのが、輝であったこと。
親友を奪われたような、身勝手な嫉妬。
輝が、そこまで光希のことを想い、彼なりに救おうとしたこと。
恋い焦がれた相手の心を今も占めている事に対する、嫉妬。
茫然。嫉妬。嫉妬。
今も眠ったままの親友の自殺未遂の経緯を知り、考えることがそれか。きっとそう思われるんだろうけど。実際自分でもそう思った。
きっと、今もまだ、どこかで光希が自殺未遂をし、今も眠ったままでいることを認められていないのだと思う。毎月のお見舞いの相手は、光希なんかじゃなかった。ただの自己満足、いやそれにすらならない、「満たされない自己満足」。そんなことに今更気付いた。
だってこんなの、全然リアリティがない。光希が植物状態なんて。まるで映画かドラマの世界だ。それに輝の話の中に出てきた光希は、どれも私の知る光希とはあまりに違っていて、でも
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