第25話
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午後五時三六分、約束の喫茶店に到着した。まだ萌実がいるとは甚だ思っていなかったが、店に入ると、そこには既に萌実がおり、マグカップを口に運んでいた。萌実の前に置かれた平皿の上が少し汚れている。パスタか何かを食べていたようだ。
「悪い、待たせた」
「あ・・・・・・うん、随分早かったね」
本当に萌実なのかと思うほどテンションが低い。だがしかし、これからする話はそれ程萌実にとっては重要なのだろう事は、想像に容易かった。
俺は店員にアイスコーヒーを一つ頼む。店員は平皿を持って戻っていった。
「一つだけ、確認してもいいか?」
俺は口を開く。状況から、光希が言っていた“友達”、いや、“親友”が萌実の事だと判断したが、念の為本人の口から確かめなければならない。
「そうだよ。光希とは中学でクラス一緒になって、ちょっとしたきっかけがあって仲良くなった。逆に私からも訊いていい?」
俺は頷く。
「輝が光希の・・・・・・えと、光希と、付き合ってたんだよね?」
「そう、だな」
それを聞くと、光希が続ける。
「輝が、光希を、殺したの?」
俺は首を縦にも横にも振れず、下を向いたまま押し黙る。
アイスコーヒーが運ばれてきた。
「・・・・・・ごめん。私も輝が直接光希を殺しただなんて思ってない。何があったの?なんで光希は死のうとしなきゃいけなかったの?」
ゆっくりと、俺は話し出した。
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俺が光希と出会ったのは高校一年の時。俺と光希はクラスが同じだった。
新しいクラスで中学からの友人と戯れる生徒が多い中、ポツンと一人でいる女子生徒がいた。中学が同じクラスメイトに恵まれた俺は、そういった仲間達と話しつつも、その女子の事が気になっていた。
小学校時代親しかった、萌実に重なるものがあったのだ。
当時、萌実は人付き合いが苦手だった。それを俺が無理矢理引っ張り上げ、友達を作る手伝いをしてやった。傍から見れば余計なお世話もいいところだが、俺がそうしたのは訳がある。何人かが固まって話すところに、萌実は、あからさまでないレベルで、入りたそうな素振りを見せて、でも勇気が出ず、引っ込む。そんなことを繰り返していた。その女生徒も、同じだったのだ。
そんな素振りをしていても、大きく動きをしている訳ではない為、誰にも気に留めて貰えず、また逆に突然話し掛けられても、心の準備が出来ていないようで上手く返せていないようだった。
「陽炎さん?」
俺は彼女――陽炎光希に声を掛けた。
「あ、は、はい。えっと、奈月、君?」
「覚えててくれたんだ。てかさ、カゲロウって珍しい名字だよね、なんか格好いい」
「格好いいかは分からないですけど・・・・・・まあ、珍しいとはよく言われます。奈月って名字も珍しいですよね」
「そうなんだよねー、男なのに、ナツキちゃ~んとかさ」
俺は肩を竦める。光希はクスリと笑った。
「あのさ、変なこと訊くけど、陽炎さんって、すっごい人見知りってだけで、実は明るいタイプでしょ」
光希は驚いたようだった。
「俺、そういうの見抜くの得意でさ。だったらまず、俺と友達になってよ」
「あ、うん・・・・・・ありがとう、奈月く――」
「輝でいいよ。俺も、えっと、光希、でいい?」
ドラマティックでもなんでもない、かなりのお節介と、かなりの人見知りの、二人の出会いだった。
光希は一度俺という足掛かりを作ってしまえば、クラスに馴染むのに時間は掛からなかった。おまけに成績もよく、クラスメイトからもよく頼られる、平たく言ってしまえば人気者になった。
そんな中、理系科目が得意だった俺に対し、文系科目が得意な光希は、お互いの得意分野を教え合うようになった。学力のレベルが近い事もあり、お互いがお互いのこれ以上ないパートナーだった。
そんな状態が一年も続けば、自然と距離は近付き、さも当然かのように俺達は付き合いだした。
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「うん、二人が付き合い出すまでは分かった」
しかし、私はどうにも腑に落ちない。
「でも聞いた感じじゃ、光希が飛び降りる要素なんてどこにもないよね」
「単純に俺が・・・・・・鈍感過ぎたんだ。気付けずに、見過ごして、結果、俺が追い打ちを掛ける結果になった」
私は黙って輝の言葉を待つ。
「ここからは、後から聞いた話だ。直接見た訳じゃない。だから、どこまで正しいとは言い切れない」
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