第8章 独白

第24話

 約束の時間が迫る。あと1時間といったところか。今さら緊張してくる。

「なんで18時なんかに指定しちゃったんだろう・・・・・・」

 その言葉は行き場も無く地に落ちていく。

 授業後すぐに光希の病院近くまで来た私は、それまで光希のお見舞いに行こうと思っていたものの、いざとなると気が引けて向かえず。かといって約束2時間前に喫茶店に入って時間を潰せるほど心穏やかでもなく。何の気なしに周りをぶらつく。

 光希の入院している病院ということもあり、光希の家には近く、当然彼女と中学が同じである私の実家も近いのだが、一度帰る気も起きない。一人暮らしの娘が突然帰ってくるなど、「何かありました」と言っているようなものだ。光希のお見舞いついでに帰った事もあるが、それも年に2回あるかといったところ。いずれにせよ時間を潰す場所ではない。

 住宅街が広がっているため特別栄えているという訳ではないが、駅前はそれなりに人通りも多く、ちょっとしたショッピングモールもある。そこでなら時間を潰せるだろうと専門店街を歩いてみると、お気に入りのキャラクターの新作グッズが出ていた。いつもなら飛び付いていくつか買ってしまっているのだろうが、今ひとつそんな気も起きず、そんな調子で1時間が過ぎていた。


 1時間も歩いたため、さすがに疲れた。だがまだ1時間ある・・・・・・。

「軽く何か食べれば、いいくらいに時間潰せるかな」

 一人小さくそう言うと、約束場所の喫茶店に向かった。


****


「あと一時間か・・・・・・」

 俺が約束の場所、正確には光希のいる病院に着いたのは午後五時の事だった。だが、まだ約束の時間までは一時間ある。想定としては三十分前に着くくらいのつもりだったのだが、こういう時に限って乗り継ぎが上手くいってしまったのだった。

「・・・・・・光希の顔でも見に行くかな」

 早めに来るつもりではあったが、一時間も前に着いても特に時間を潰せるようなこともない。スマホを眺めながら無駄な時間を過ごすよりはいいだろう。

 俺は喫茶店とは反対側に歩を進め、病院に入ると、通い慣れた病室までの道を辿る。


「光希、萌実に全部・・・・・・話してもいいかな」

 当然光希の反応はない。

 今更訊くのは遅すぎる事はとっくに分かっていた。だが、もし光希が返事を出来る状態でも、首を横には振らない、という自身も俺にはあった。それを、光希の顔を見ながら確たるものにしたかったのだ。

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