第23話

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 聞くところによると、来週の水曜に奈月さんと話をすることになったらしい。頑なに詳細を話したがらないが、恐らく高校時代の友人=奈月さんの前の恋人のことだろう。

「で、大川さんはどこから聞きつけたんですか」

 横には例の「鬼の地獄耳」、大川瑠璃先輩。

「連れないなー少年。私の事は『瑠璃ちゃん』とでも呼んでくれ給え」

「帰ります」

「あー待って待ってノブヤくん!でも大川さんはアレだから瑠璃さんとかで!」

 この人は引き留める気はあるのか。しかも譲歩してはいるが、恐らく「瑠璃さん」呼びが狙いだ。ドアインザフェイスだったか。それを知りながら乗せられるのは癪だが、これ以上やっても話が無駄に長くなるだけだ。取り敢えず要求を飲む。

「それじゃあ“瑠璃さん”、貴女はどこから約束の時間と場所を仕入れたんですか」

「やだなあ、知ってるクセに~」

 一つだけ思い当たる節はある。

「まさか・・・・・・クラッ――」

「そうそう、それそれ」

 おおか・・・・・・瑠璃さんは僕の口を人差し指で塞ぎつつ事も無げに言う。

「・・・・・・なんでそこまで?まさか奈月さんに惚れてるとか言いませんよね」

「馬鹿なの?殺すよ?」

 先程までと同一人物なのか疑わしくなるほど低い、ドスの聞いた声。これだからこの人は掴めない。

「じ、冗談ですって・・・・・・理由も・・・・・・もう、聞きません」

「んー?別に教えないとは言ってないじゃん。んーとね、その眠ってる女の子、萌実ちゃんだけじゃなくて、私自身にとっても大事な子なんだ~」

 瑠璃さんはまた元のフワフワとした雰囲気で、爆弾を投下してくる。


「それは、どういう――」

「ところで、なんで今日少年を呼び出したかというとだね」

 あからさまに話を中断して、話を切り出す。僕は「少年」呼びを訂正する気すら起きず。ただ一つだけ、嫌な予感がして訊く。

「あの、犯罪臭がするんですけど。まさか僕を巻き込んだりしませんよね?」

「やだなー、私が平気で罪を犯すような人に見えますか?」

「平然と個人のスマホをクラッキングしてる人が何言ってるんですか」

「だーいじょうぶ、“偶然”居合わせて“偶々”話聞いちゃうのは犯罪じゃない!」

 僕は軽い頭痛に頭を抱えた。


****


 また時は巡って、水曜日。金曜以来、いつもと変わらない、穏やかな日々が続いていた。

「さて、と。俺そろそろ行くわ」

 今から萌実との待ち合わせ場所に向かえば丁度いい時間に到着できそうだ。

「約束の時間?」

 町村に問われる。本来ならサークルに行っているところだが、「なんとなく」と言って今日は休んだ。休んだことも言いたがらないことも、理由に察しがつくため俺はそれ以上は訊かなかった。

「ああ。・・・・・・なんかごめんな」

「謝らないでよ。本当にデートしに行くみたいじゃん」

 俺は町村の頭をクシャッと一度撫でると、萌実との約束の場所へ向かった。

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