第7章 告白
第22話
1週間が過ぎ、さらに翌日、金曜日。7月も終わりに差し掛かり、夏季休暇が手前まで迫っているそんな日に、俺は町村を呼び出した。
「珍しいね、輝くんの方から誘ってくれるなんて」
「ああ、悪いな、テスト明け早々。ちょっと話したい事があってさ」
瞬間、町村の顔が強張る。想定内の反応ではあった。
「あ、先に言っておくけど、別れ話とかじゃないから」
「じゃあ何?改まって話なんて」今度は怪訝そうな顔をする町村。
「まあ、別れ話じゃないんだけど・・・・・・話したら町村の方から別れるって言い出しそうな話、かな」
「・・・・・・葉多さんと何かあったの?」
やはり萌実の名前が出るか。だが文言上間違いではないから、敢えて否定はしない。
「取り敢えず、順番に話すよ」
まず、高校時代に彼女がいたこと。これは町村にも何度か話している。逆に言ってしまえば、それ以上のことは何も話していない。
「その彼女、高2の終わりに、学校の屋上から飛び降りたんだ」
町村は言葉を失っている様子だった。そして、続けて、原因。俺が光希にしてしまったこと。
「一命は取り留めたんだけど、未だに目を覚まさなくて・・・・・・
町村は何も言わず次の言葉を待つ。
「前に一回、デート断ったことあったろ。あれ、見舞いの予定入れてたんだ。あの時は、ちゃんと話さなくて、ごめん」
「いいよ、もう・・・・・・でも、どうして急に、その話を?」
「それが・・・・・・彼女に、中学の頃から仲がいい友達がいる、って聞いてはいたんだけど。それが、萌実、だったらしい」
「え・・・・・・?」
信じられないというような顔だった。萌実ほどではないにしろ、今日の町村は表情がコロコロと変わる。場違いながら、そんなことを考えていた。
「それで今度、萌実とちゃんと話さなきゃいけないと思った。俺がしたことをちゃんと話して、ちゃんと謝る。それで、この事を大学の知り合いに話すなら、一番最初に話すべきは、町村だと思った。だから、打ち明けようと思った」
「・・・・・・なるほどね。要は、葉多さんとのデートの許可をくれ、と」
「いや、そういう訳じゃ・・・・・・いやでも、そういうことに、なるかな」
予想外に直接的な言葉に、思わず口ごもる。すると、町村は不機嫌そうな顔を崩し、クスッと悪戯っぽく微笑む。
「冗談よ。私だってそこまでヒステリックじゃない。まあ、葉多さんとの因縁がそんなに深いってのがちょっと気にはなるけど、でも、私のこと、ちゃんと考えてくれてて、嬉しかった。高校の時の話だって、そんなことで別れるなんて言わないよ」
俺があれこれ考えていた町村に関してのことは、どれも杞憂のようだった。
「たださ、これだけ聞いてみていい?」
「ん?」
「輝はさ・・・・・・えっと、ミツキさんだっけ?その彼女のこと、まだ好きなの?」
考えてもみなかった。俺はまだ光希の事が好きなのだろうか。だから見舞いに行くのか?
多分、恋人にする返答としての正解は『好きじゃない』なんだろう。だが。
「敢えて正直に答えるなら・・・・・・分からない。今光希が目覚めたって連絡が入れば、多分飛んで会いに行くと思うし、多分凄く喜ぶんだろうけど、もう一回付き合い直すかは、その時になってみないと分からない。そこは、ごめん」
俺は敢えて正直に答えた。下手に町村を期待させたくなかったし、実際そうなった時、俺が光希を選んでしまって、必要以上に傷付けることも避けたかった。
「・・・・・・そっか。じゃあ、私の目標は、光希さんが目覚めてもフラれないこと、かな」
「え?」
「それよりさ、この後時間ある?」
「え、あ、ああ」
「なら、付き合ってよ!」
町村との時間は、何事もない、いつもの日常のままだった。
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