第21話

****


「何かあった?」

 翌日、篤人が俺に聞く。

「・・・・・・まあ、ちょっとな」

「あ。珍しく素直」篤人はあっけらかんと言う。

「輝そういうの抱え込むタチじゃん」

 ――まあ、確かに。

「わざわざ認めるってことは、聞いてほしいんだな?ほれ、言ってみろ」

「・・・・・・流石にそれはウザい」

「いっまさら~」

 とはいえ、高校時代のことから話すのは憚られ、厚めのオブラートに包むことにした。

「ちょっと話が複雑だから、まあ、簡単に言うと、高校時代の友達を深く傷付けた。その事で相手の友達は深く心を痛めた。その、相手の友達が・・・・・・」

「葉多ちゃんだった?」

 流石に鋭い。俺は黙りこくってしまう。

「なるほどね。まあ、何があったか詳しくは聞かないでおくけど」

 篤人はアイスティーをストローでズズッと啜り、続ける。

「輝は意図して傷付けたのか?」

「そんな訳」俺が反論を言い終えるより早く、無いよな?と篤人が言葉を次ぐ。

「だったら、ちゃんと話すべきだろ。それ以外にないよ。全部、正直に、話して、謝るべきなら謝る。できるなら、高校の友達も一緒に、だけど・・・・・・」

 篤人はチラッとこっちを見る。

「よく分かんないけどそれは難しそうだから、取り敢えず二人でいい。ちゃんと話しな」


「なんか・・・・・・当人ですら簡単に辿り着く当たり前の結論でも、さ」

「ん?」

「誰かに言われると、凄く、ありがたい言葉に思えるよな」

「・・・・・・お前、それを言うなよ、てか、そこは素直にありがとうっていうところだ」


####


「あーもう!」

 柄にもなくイラついてしまっている。イマイチ何も手につかない。

「どうかしましたか?」

 信哉くんが声を掛けてくる。

 とても授業を受ける気分になれなかった私は、少しは気が晴れるかと数人に声を掛け、本来の活動日ではないにも関わらずサークル活動を行うことにした。かといって当日になって声を掛けて参加する人数などさほどいるはずもなく、私と信哉くん、他に2名といった具合だった。

「もしかして、奈月先輩と喧嘩でも?」

「あー、やめて。今輝の名前出さないで」

 我ながら図星を突かれたことをあからさまに教えるようなものだと思いつつも、どうしても我慢ならなかった。

「それはすみません・・・・・・僕でよければ話聞きますよ?」

「いい。話すつもりもない」意図せず返答がぶっきらぼうになってしまう。

 その時、着信音が響く。


****


「なあ、なんで再来週なの?なんで今日とか明日じゃ、てか、それでもせめて来週じゃない?」

「テスト前だし、俺にだって色々あんの」


『再来週の水曜、ちゃんと会って話したい。』

 俺はそう萌実にメッセージを送った。


 再来週にしたのは、もちろんテスト前だというのもあるが、町村に対して気を遣った部分が大きい。

 どういう理由かは知らないが知られてしまった倉地は兎も角、この事を誰かに話さなければならないとすれば、最初に話すべき相手は、恐らく町村だ。それに、何も言わず萌実と会ったなど、知れれば町村とていい気はしないだろう。口に出すタイプでこそないが、俺が思うにただでさえ町村は俺によく絡んでくる萌実のことをあまりよくは思っていない。


####


「・・・・・・」

 なんで再来週なの?普通今日とか明日説明しに来るものじゃないの?

  私が光希の親友だと知って、なんでこんなに間を空けるの?


 だけど一応、輝はそこまで非常識ではない、と私は思っている。きっといろいろ思うところがあるのだろう。

 頭を冷やすとか、話を整理するとか、テストとか、

「町村さんのこととか」


 自分で言っていて悲しくなる。そこで初めて、どんなに怒っていても自分が輝のことを好きなんだと自覚する。だがしかし、彼には今現在彼女がいて、さらには、少し前まで唯一無二の親友の彼氏だったのだ。


 怒っているのは当然光希のこと。当然、“光希を飛び降りさせたかもしれない彼氏”が輝だったことにショックは受けた。でも同時に、輝はそんなことをしない、という自信もあった。


 本当はわかっている。私が怒っているのは、行き場のないこの気持ちをただ輝にぶつけているだけなのだと。でもそれを認めたくもなかった。


『わかった。光希の病院の前の喫茶店で、18時に』



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