第6章 未練

第18話

 随分久しぶりになってしまった。時間さえあればほとんど毎週来ていたものの、夏休み前とはいえ、同時にテスト前のこの時期、あくまで学生の身分では、学業を優先せざるを得ない。

 しかし、流石にこの日――彼女の月命日・・・・・・と呼んでいいものなのか、兎に角彼女が眠ってしまったこの日くらいは、彼女と一緒にいようと思った。


 ここのところは、見舞いに訪れるのは自分くらいのようだった。彼女の両親だろうか、誰かは定期的に来ているようで、花は新しいものが生けてあることも多いが、見舞いに来た際に誰かと出くわす、ということは、ここ1年ほどなかった。


 彼女が高校の屋上から飛び降りて、2年半が経とうとしている。


****


 漸く彼女――光希の病室に辿り着いた時、夏とはいえ日は傾き掛けていた。

「あ・・・・・・誰か来てたみたいだな」

 枕元の花瓶には生けたばかりらしい花が飾ってある。紫陽花。病室に生ける花としては大分珍しい気もしないでもない。冬場に椿とか持ってくるよりは何倍もマシだが。

「お母さん・・・・・・じゃなさそうだよな、やっぱり」

 光希の母親は俺が知る限りそのような独特のセンスは持ち合わせていない。

「でもお前、あんまり友達作るの得意なタイプじゃなかったよな・・・・・・あ、例の彼女か?」

 傍から見ていて、お世辞にもコミュニケーション能力が高いとは言えない光希が俺に唯一話した、“友達”、それが、今では少なくなってしまった、光希を見舞ってくれる俺と、家族以外の、誰か。今に考え出したことでは決してないが、一度くらいは会って挨拶してみたいと考えてはいるものの、いつもニアミスしてしまっているようだ。

「・・・・・・そんなにお前は俺に友達を会わせたくないのか?・・・・・・いや、友達が俺に会いたくないのか」苦笑が漏れる。

 その時、病室の扉がガタッと音を立てた。そちらを見ると、扉についた磨りガラス越しに、髪の長い女性のようなシルエットが通ったのが見えただけだった。

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