第4章 過渡
第11話
高校時代。確かに俺は、人を……当時付き合っていた彼女を、殺してしまった。
「……ああ、そうだな」
その言葉を聞くと、倉地は少し考え、こう続けた。
「それは……本当に手をかけたんですか?それとも……小説とか映画とかでよくある、『あいつが死んだのは俺のせいだ』みたいな、悲劇のヒーローぶってるだけですか?」
こいつのセリフはやたら癪に障る。だが、流石鋭い。確かに俺は彼女を直接手にかけた訳ではない。それを伝える。
「やっぱりですか……まあ、高校時代に人を殺して、現役で今ここにいられるとは思えませんしね」
「だが」俺は間を入れず続ける。
「……なんです?」倉地は不思議そうに問う。
しかし、口を挟んでおきながら、俺は言い淀んだ。恐らく俺が言葉を続けたところで、倉地は『俺が殺した』とは認識しない。それ以前に、倉地を説得する理由など1ミリもない。
「なんでもない。まだ何かあるか?」
「いえ、裏が取りたかっただけなので。ありがとうございました」倉地はそう告げる。
俺は踵を返し、その場を立ち去る。
倉地の推測は、確かに当たっている。俺は直接彼女を殺してなどいない。言ってしまえば、彼女は死んですらいない。
しかし、今も眠り続ける彼女が眠り姫なら、俺は彼女にキスをして目覚めさせる王子ではない。
****
ひとまず篤人に連絡を入れた俺は、まだカフェにいるという返事を受け、カフェに戻ることにした。
カフェに向かう間、俺は倉地との会話を思い出し、考えていた。
確かに倉地の言ったことは事実だ。しかし、何故
それに、裏を取って何になる?噂として広めるにしても
カフェの入り口で、丁度カフェを出ていく萌実を見つけ、俺は声を掛ける。萌実も俺に気付き、応える。俺は、ここぞとばかりに、気になっていたことを訊いてみる。萌実の態度もそうだが、今は兎に角“噂”の事を確かめたかった。
「あのさ……ちょっと気になってんだけど」
「へっ!?」萌実の奇声に、逆に驚かされる。
「何て声出してんだよ。それよりさ、お前、俺の噂とか聞いたことあるか?」
「え、あ、何でもない。噂?んー、聞いた覚えはないけど。信哉くんに何か言われたの?」
「信哉くん……ね」
とにかく、俺のそこまで広くない交友関係の中で、比較的顔の広い萌実に聞き覚えがないのなら、そこまで広がっている噂という訳ではないようだ。
「ならいいんだ、ありがとな。」
「ん、ううん、どういたしまして」
萌実の受け答えがどこかぎこちないことにようやく気付くが、その事やこれまでの事を訊く前に、萌実は走るように去っていった。
「……変な奴」
俺は誰に言うでもなく呟くと、篤人の座る席へ向かった。
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