第10話

「突然呼び出してすみません、奈月なつき先輩」

 指定された場所に赴くと、背後から声を掛けられた。倉地だ。

「構わないけど……突然何の用だ?」

 指定された場所は授業が行われない別棟の裏。コンクリートの壁に挟まれた薄暗くじめっとしたそこは普段誰も近寄らないような場所。こんなところに近寄るのはよっぽどやましい事か話をしようとする奴くらいのものだ。

「先輩についてちょっと変な噂を聞きましてね」

 正直、そんなところに呼び出された時点で何の話をされるのか、大体予想は付いていた。俺の認識としては、身の上にそんなところに呼び出されてまでされる話というのは一つしかない。そして今の言葉で確信した。が、えずしらばっくれる。

「へえ、初耳だな。どんな噂だ?」

 その間、俺がずっと考えていたのは、“何故大して関係が深くもない倉地が知っている”のか。そして、“それを俺に話して何をするつもりなのか”。いくら考えても、明瞭な答えは浮かばない。

「いえ、突拍子もない話なんですけどね……」


 倉地が続ける言葉は、今も俺を苦しめる、紛れもない事実。


「先輩、高校時代に人を殺したとか」

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