第2章 真実
第5話
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「あれ、今日はいないのか……」
いつもなら既に彼女はここに来て勉強をしている時間だ。
僕は少し落胆しつつ、適当に空いている席を陣取る。いつもはすぐに自分の世界に入ってしまうのだが、今日はどうも
連絡をしてみようか、と少し考えてみたものの、
「……まあ、先輩にだってこういう日あるよな」
一度つけた携帯電話の画面をもう一度閉じる。
学習室、そう名がついた大学付属図書館の一室も僕にとってはそれ以上の意味を持ち、そしてそれがすべてだった。すなわち、彼女のいない今、これ以上ここに留まる理由もない。
僕は一度広げかけた荷物をすべてひとまとめにし、学習室を後にした。
図書館を出ると、
「さーて、これからどうしようかな」
すると、予想外のところから予想外の人が顔を出した。
「どうした少年、いつもなら学習室で勉強してる時間じゃないかい?」
その人はベンチの背もたれ側から顔を覗かせている。
「大川さん……少年じゃなくて
「いやー、君の童顔とウブな態度を見てるとどうしても少年と呼びたくなってしまうのだよ」
大川さんはグルッと回り込んで僕の隣に腰掛けた。
「ウブって何を根拠に……っていうか先輩、なんで僕がこの時間学習室にいるって知ってるんですか」
まあこんな質問など「鬼の地獄耳」という、「地獄耳」に「鬼」まで重ねた異名を持つ大川瑠璃に対しては愚問なのだが。
「いやあ、よく見かけるからね。大概近くに萌実がいるのも知ってるよ~」
平常心。こんな揺さぶりに簡単に動じる僕ではない。
「偶然ですよ。いつもいる時間がちょうど同じくらいで、席の定位置がたまたま近いってだけです」
その言葉に大川さんはあからさまにつまらなそうな顔をする。
「
「どうでもいいですけど、僕はシンヤじゃなくてノブヤです、ってこういうのが余計なのか」
呆れ返った僕は立ち上がる。とりあえずこれ以上学校にいる意味もないし帰ろう。
「2個も上の先輩をそんなに邪険に扱うんじゃないよ~、あれだろ、一回学習室行ったけど萌実がいなかったんだろ?さっき門から出てくの見かけたよ」
そこまで言い当てられると流石に僕でも一瞬反応してしまう。いい言い訳も思いつかずしらばっくれるしかない。
「気が変わっただけです」
そう言って一度止めた足をまた進める。
すると大川さんが近寄って来て肩を組む。その表情を見ると、これ以上ないほど嬉しそうに緩んでいる。やられた。
「ん~可愛いな~シンヤちゃん。愛でさせてもらったお礼に萌実のことが好きなシンヤちゃんに耳より情報あげちゃおうかな~」
「葉多さんのことは別に……って何言っても無駄か。じゃあ、耳より情報って何ですか」
貰えるものは貰っておくに限る。
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