第2話
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四限の英語の授業を終え、いつものようにサークルに行くと言う町村に別れを告げると、俺は篤人とカフェのお気に入りの席に向かい合って腰を下ろした。
「はーーーー……マジであの人の英語ツライ。何が『ゆーきゃんどぅーいっと』だ。できねーもんはできねーっての!」
篤人のこんな愚痴は毎週の恒例行事だ。
「まあまあ。なんか飲むか?」
俺は篤人をたしなめながら席を立つ。
「あー、アイスティー」
町村と同じくクラスメイトの篤人とは、入学式、地元の友人など一人もいない俺に向こうから声をかけてきたとき以来の仲だ。恐らく大学の友人の中では一番多くの時間を共有している。
「あいよ、アイスティーとガムシロ二つ、な」
「よく分かってんじゃん」
「それほどでも~」毎度毎度同じ注文をされていれば嫌でも覚える。
そんなくだらない会話をしながら、二人分の飲み物をテーブルに置くと、俺は自分の席に座った。
「にしてもさ、お前まだ町村さんのこと苗字で呼んでんの?」
突然篤人が話し出す。
「なんだよ、藪から棒に」
「いやさ、お前俺のこと篤人って呼ぶじゃん?なのに、町村さんのことは未だに『町村』って呼び捨てなのはどうかな~、と」
何故「恋人」に対して「友達」、しかも男である自分を引き合いに出したのか俺には今一つ分からないが、そこは
「俺には俺のペースがあんの。ドラマとかアニメとかでもいるだろ、付き合いだしても苗字で呼びあうカップルとか」
「でも、町村さんの場合、明らかに下の名前の方が呼びやすいでしょ。『サワコ』とか。いや、『サワ』もいいな」
俺の問題を、俺以上に深く考え出す。それが篤人の良いところ、なんだろう。きっと。
「それにさ、輝、
「あいつは……」
葉多萌実。小学校からの幼馴染、とはいえ俺が小学校の卒業と同時に引っ越して以来、実に七年ぶりで、最初はお互いがお互いだと気付きすらしなかった。いや、正確には俺は萌実に気付かなかった。逆に萌実は俺に気付いたらしいが、声を掛けられたのは最初に顔を合わせてからだいぶ後になってからだった。
「ほら、小学校の頃から知ってるからさ、そのときの呼び方が染み付いちゃってるっていうか」
……というのは実は嘘だったりするのだが。
「へ~、じゃあ小学校の頃の輝くんは女子を気軽に下の名前で呼び捨てられるプレイボーイだったわけだ」
篤人は相変わらず解釈が飛躍する。
そんな篤人にやや呆れ気味に軽くため息をついたとき、「私が何だって?」と、萌実が俺の横の席に座りながら話しかけてきた。
「いや、萌実とはただの腐れ縁だって話」
七年ぶりの幼馴染に腐れ縁という言葉が正しいのかは知らないが、そんなことまでは気にしない。萌実が話に割って入ってくることも含めて、日常茶飯事だ。
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