第7話 勇者様、世直しを志す

「本当に……何とお礼を言えばよいか」

「まあまあ、あんな馬鹿を任命した王家にも責任はあるんだし」


 翌日、事件のあらましを知った村人たちはエミリア一行を見送るために集まっていた。

 結局クラインは捕縛。その部下たちは一部がエミリアに雇われる形で村の警備をすることになった。

 レイノルズの部下たちは、主が倒された混乱に乗じて逃げ出していた。またどこかで悪行を重ねるかもしれない不安が残る。


「それに……姫様とは知らず、御無礼を致しました。申し訳ありませんでした」

「気にしないでいいわよ。私はただの冒険者。魔王討伐のために旅をしている勇者の一行の一人なんだから」


 これからも旅をするために、自分の身分をおいそれと明かすわけにはいかない。

 実際、今回はすぐに名乗らなかったために王国内の問題が判明した。これからの道中もエミリアはこのやり方で市井に紛れ、まずは内情の調査から行う事を決めるのだった。


「勇者ディオン様。貴方の名前とこのご恩は決して忘れたりはしません」

「ええ、この村でずっと語り継いでいくことでしょう」

「む……そこまでのことをしたつもりはないのだが」


 彼にとっては部下の不始末を処理しただけだ。

 管理体制を責められることはあっても、感謝される謂れはないと思っていた。


「いいじゃない。これも勇者の役得よ」

「そういうものか?」


 魔族とディオンの関係を知らないエミリアは笑顔で言う。


「そうです。我々はあなたを中心に結成されたパーティ。この村こそ勇者ディオン一行の功績の第一歩です」

「そうやって色んな場所を助けて行くのが勇者の務めね。私も王族としてあちこち見て回らないといけないって、今回のことでよくわかったわ」

「色んな場所を助けて行く……か」


 ディオンはアンリとエミリアの言葉に頷く。


「ディオン様、姫様、アンリさん。そろそろ出発しましょう」


 ファリンが皆に呼びかける。

 名残惜しさは残るが、彼らの旅はまだ始まったばかりだ。村人も止めることはしない。

 彼らの姿が見えなくなるまで、村人たちは手を振り続けていた。


「……ファリン、私は決めたぞ」

「……何ですか」


 村を出てから思案に耽っていたディオンの言葉にファリンが表情を引きつらせる。

 また何か気まぐれが始まったのかと。


「私はしばらくこの勇者とやらを続けてみようと思う」

「何を今更……でも、何でまた?」


 エミリアとアンリは二人で話しながら歩いている。今ならディオンたちの会話は聞こえない。


「魔王軍の中には私の意に従わないものがいるようだ。その辺りは抑えたつもりだったのだがな」

「幹部ならばまだしも、末端までは行き届くとは思えませんからね」

「ああ、だからこそだ。幹部はそう簡単には動けないだろうが、人間に迷惑をかけるような奴は大体末端だ。魔王としてその辺りをしっかりと管理してやらねばならん」

「……粛清の間違いじゃないですか?」

「そうとも言う」


 結局こうなるのだ。

 この魔王の気まぐれに巻き込まれて散々な目に遭う。

 だが決してディオンは自分を足手まといだと切り捨てるようなことはしない。


「と言う訳だ。グランには上手く言っておいてくれ」

「それ、ディオン様がやって下さいよ!」


 そして結局後始末はファリン自身なのだ。

 激怒するのか、また倒れるのか。祖父への言い訳を考えながらファリンはため息をつく。


 旅はまだ、始まったばかりだ。

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