Episode2 見捨てられた村

第1話 従者、ため息をつく

「ば……馬鹿もぉぉぉぉぉん!!!」

「ひゃうぁ!?」


 事の顛末を説明したファリンは水晶玉を通して早速怒られていた。


「よ、よりによって若が……魔王である若がゆ、ゆ、勇者などと……お前がいながら何をしておるか!」

「私が言ってどうにかなるなら、お爺様が手を焼いていないです!」

「む、むう……それはそうじゃが」


 もっともなことを孫娘に言われ、グランは黙り込む。

 そしてファリンは最も伝えにくい事について報告を始める。


「……それと、もう一つ」

「何じゃ、これ以上驚きようもないから言うてみい」


 呆れ顔のグランに、例の件が告げられる。


「人間の娘とこ、こ、こ、こここ婚や…ぐふっ」

「わぁあ!お爺様―っ!?」


 倒れたグランに側近たちが慌てて駆け寄る姿を映しながら映像は途切れた。



◆     ◆     ◆



 暫くして、映像は回復したが、グランはベッドに横たわり、やつれた顔でこちらを見ていた。


「何とか隙を見つけてこちらに戻ってこれればよいのだが……」

「無理でしょうね……魔王様が乗り気ですから」

「強引に連れ戻そうとしても無理じゃな」

「魔族の腕利きを何人か使ってもですか?」

「『赤き月夜事件』聞いたことはあるじゃろ?」


 グランが告げたのは、魔族の間では有名な事件だった。


「はい。新体制を嫌った反魔王派が何者かによって一夜で全滅させられたというあの事件ですね」

「犯人は若じゃ」

「ええええ!? あの中には魔族の中でも屈指の方々が揃っていたのにですか?」

「『反対派と新体制についての意見交換をしたい』と仰ってな。反対派全員を一人で迎えて、その後まとめて……じゃ」

「でも、そんなこと表沙汰になったら」

「揉み消すのが大変じゃったわい」

「……大変でしたね」


 遠い眼をするグラン。その苦労が偲ばれた。


「あの事件以降、国の勢力図が変わってしまって、事後処理も苦労したわい……まあ、『新魔王に粛清された』と噂を流しておいたお陰で反対意見も出なくなったがの」

「それ、噂じゃないじゃないですか!」


 森の奥からファリンを呼ぶ声が聞こえる。

 エミリアの声だった。


「そろそろ合流します。これ以上は怪しまれますので」

「うむ。気の長い話じゃが、また気まぐれを起こしてお帰りになられることを待つしかないようじゃな」

「そうですね」

「くれぐれも若の正体を悟られぬ様、気を付けるのじゃぞ」

「もちろん、それには十分に気をつけます。魔王様の御身が危ないですから」


 ファリンは、グランの言葉に決意を固める。


「うむ。それにしても……」

「はい」

「若の気まぐれにも本当に困ったものじゃ」

「ですよねぇ……」


 祖父と孫は二人そろって深い溜息をついた。

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