友人に報告だ! 1 (報告)

「――と、いうわけで。

 俺の長年の夢がついに叶ったとです!」

「いやそれホープ的な方じゃなくて明らかにスリープの方の夢だろ」

「あれだ。机蹴って椅子を滑らせた時にスッ転んで気絶して、そん時見たんだ。

 宝城、全てはお前の妄想が生み出した『ふぁんたじぃ』だったんだよ」

 意気揚々としたタカラの報告は即座に『夢』だと判定された。


 タカラが運命の少女と相対してから三日。

 大学の一角、文科系のサークルが使用している通称「文サ棟」の一室。

 講義後、「二次元と動物に対する情動を研究する会」の部室を訪れたタカラは、先に来ていた友人二人にゴールデンウィーク中に起きた運命の出会いを説明した。

 つまり、『嫁が欲しいと叫んだら、思い描き恋い焦がれていた少女が現れて、嫁に立候補してきた』と。

 それに対する友人の反応は、シビアなものだった。


「大体『ふぁーーー』って何その叫び声。

 お前はゴルフのキャディーか」

 新作アニメのポスターを壁に貼りながら二楷堂が顔だけタカラに向けてツッコミを入れる。高身長を生かして椅子なしで天井近くにポスターを貼る姿は、イケメンゆえに無駄にカッコよく見えた。

「ある意味危ない。しかも避ける間もなくお前の妄想に被弾した。

 イタタタタタ。色んな意味で痛いよ、ホント」

 ペットの犬の抜け毛を使用した手製のぬいぐるみ型ストラップを揉みながら、奏谷そうやがパイプ椅子ごとタカラから距離をとる。ガタガタと引きずった為、アフロに近いもしゃもしゃの髪が連動して揺れる。

「え? 何で真実を話してこんなアウェーな空気をぶつけられる?」

 カバンから画用紙を取り出しながらタカラが首を傾げると、奏谷が更にパイプ椅子を引きずる音が室内に響いた。

「タカラ。お前、越えてはいけない一線を越えてしまったようだな」

 ポスターを貼り終えた二楷堂のタカラを見る目は、先程まではなかった憐れみに満ちていた。

「いいか。『二次に紳士に』と最初に教えただろう。

 決して越えられない次元と言う壁があるからこそ、俺たちは純粋に彼女たちの可愛らしさや美しさを堪能できるんだ。

 いくら好みドンピシャだからって自分だけのものにしようとするな。――それが、例え妄想の中でもだ。

 戻ってこい、現実に」

「何度も言ったけど二楷堂は誤解してる。

 別にチビの頃に見たアニメのキャラにずっと惚れとるわけじゃない。

 俺の中で彼女は二次元じゃなく三次元だ」

「じゃあ3Dアニメか」

「そういう意味でもない」

 二楷堂に淡々と反論しながら、タカラは机の上に置いた画用紙に鉛筆を走らせる。

「さっき言っただろ。ホントに目の前に現れたって」

「ああ、宝城が見た夢の話な」

「違うって。

 それに俺の話はまだ終わってない」

「えっ、まだ続くのかよ?」

「帰っていいか」

「奏谷が俺のことをもう友人のカテゴリから外しているなら、むしろ聞かない方がいいと思う」

 画用紙から目を上げないままタカラがそう言うと、「くそむかつく」という言葉と共にパイプ椅子に座り直す音が聞こえてきた。

 同時に、タカラの近くに二楷堂が座るのも気配で感じ取る。

 無言のまま話の続きを促されて、タカラは手を止めないまま口を開いた。



 ――三日前、突然目の前に現れた少女から聞いた話をする為に。


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