第3話 影の守り人 シャドゥマン

 

 あれから鬼龍は、陰からゆきを見守る事に徹する事にした。


 すると、数日後の強風が吹き付ける夜、またあのストーカー男が執念深く、仲間を二人連れて待ち伏せていたのであった。

 そして、少し暗い場所に差し掛かったところで、ゆきに襲いかかってきた。

 ゆきは遭えなく、三人の男たちに押さえ込まれた。

「キャー! 助けて―」

 ゆきは悲鳴を上げたが、強風でその声は掻き消された。

『ビュー~ ビュー~ ビュー~………・・・』

「口を塞げ! 服を脱がせろ!」

 恐怖に戦くゆきには、鬼龍が言った言葉が思い出せなかった。

 その為、龍とは叫ばなかった。

 やがて、男達の手がゆきの体を弄りだそうとした。


「……なぜ呼ばない? もう、限界だ!」 

 陰から見守っていた鬼龍は、ゆきに呼ばれなかったけれども、堪り兼ねて、男達の前に飛び出した。

「やめろっ! 変態め!」

 すると男達は、鬼龍が現れると予測していた為、にやりと笑い鉄パイプを出した。

『カラン、カラン、カラララン……』

 鉄パイプが道路のアスファルトをなぞり叩いた。

「虱爺、また来やがったな!」

「爺さん、怪我しないうちに失せろ!」

「こいつが例の乞食爺か、俺に任せろ。さっさと片付けちまおうぜ」

『カラン、カラン、カラララン……』

 そう言い、男達は鉄パイプを振りかざし襲って来た。

 相手は三人、鉄パイプをかわしながらも、その場に倒され、何も持たない年寄りの鬼龍は苦戦を虐げられた。

「邪魔な爺め、いいかげんにくたばりやがれ! やー!」

 鉄パイプが鬼龍の頭めがけて振り下ろされた。

『ま、まずいっ! やられる……』

 その時、左手に目映い閃光が走った。

『キィン! ピカッ! ガチン!』

 すると、盾が出現し、鉄パイプを食い止めた。姿は老人のままに。

『やっと、出て来たか! 少し力が漲って来たような……』

 鬼龍はにやりとし、すっくと立ち上がった。

「ま、眩しい……」

 相手はその眩しさで、目が眩み一瞬ひるんだ。

「さあ、掛かって来い! 変態野郎!」

 そして、鬼龍は盾に右斜めに収納されていた剣を素早く引き抜き、男達の前に進みより立ちはだかった。

 鎧兜は付けてなかったが、いくら年寄りでも剣と盾さえあればこっちのものと、三人に立ち向かっていった。

『ズバッ、ズバッ、ズバッ!』

 すると、鉄パイプは、宙に回って下に落ちた。

『カラン、カラン、カラン! コロコロ、コロン!………・・・』

 鬼龍の剣は、あっという間に鉄パイプをバラバラに切り刻んで、相手三人を手と足や胴など剣で打ちまかした。

『ヤー! バシッ、バシッ、バシッ!』

 当然、邪悪な心を持った人間であったとしても、すべての人間に対しては剣は切れず、相手には打撲程度の傷を負わす事となったのであった。

「痛たたたっ! なんだーこいつは化物か?」

「武器を持ってるとは聞いてないぞ!」

「やばい、俺は抜けるぞ!」

 ストーカー男達は驚きビビった。

「二度と悪さをするな! 次は首がふっ飛ぶぞ!」

 強風の中、足を引きずり、逃げていくストーカー男達に叫んだ。

『ビュー~ ビュー~ ビュー~………・・・』

 

 ゆきはびっくりしながら、鬼龍に礼を言ったが、強風でゆきのスカートが、ふわっと、少しめくれた。

『なにっ! やはり、これが原因だな……』

 鬼龍は見なかったふりをしたが、内心そう思った。

「なぜ、龍と心の中でもいいから叫んでくれなかったのですか? もっと早く助けに来れたのですよ」

 険しい顔でゆきを見た。

「ごめんなさい、まさか本当に助けに来てくれるなんて思ってもいなかったんですよ。

 でも、ありがとうございました」

 ゆきは誤り礼を言ったが、鬼龍は再度言った。

「龍です。この名前を忘れないでください。ピンチになったら絶対助けに来ますから、信じて叫んでください。必ず、あなたを守ります!」

「わ、解りました」

「それと、少し言いにくいのですが、その短い裾の着物はなんとかならないかな? 男の眼がある事を忘れるな。また襲われる可能性があるぞ!」

「は、はい……気をつけますね。でも、これは服のスカートで着物じゃないんですよ」

「そ、そうか……いらぬお節介だった。済まない」

「い、いいえ……でも、スカートに見えるガウチョにしますね」

「えっ、ガウチョ?……では、また呼んでくれ、さらばだ!」

 とりあえず、先日から気になっていた事を注意し、名前はあえて鬼龍とは言わず、その場を立ち去り闇に消えた。

『キィン!…・・・ピカッ! シュバッ!』


*          *          *


 ついに地獄の使者鬼猫は、後の世に復活しようとしてした。

『キィン・キィン・キィン!………・・・ピカッ! バァーン!………・・・』

 鬼猫は目映い閃光と衝撃音と共に、鬼龍のいる21世紀に出現した。


「ここが後の世か?」

 地獄からの使者鬼猫は、先にゆきを探した。その近くにはきっと、鬼龍がいると睨見、秘かに隠れていた。

 結果、早くも居場所を見つけ出し、ゆきは銀行勤めの為、その帰りを待ち伏せていた。

 そして、鎧兜姿の盾と剣を持った奇怪な姿をした、第一弾目の鬼猫がゆきの前に突然、出現したのだ。

「えっ、誰?」

 危険を察知したゆきは、咄嗟に大きな声で叫んだ。

「龍!………・・・」

 その声は即座に鬼龍に聞こえた。

『……? ゆきが危ないっ! まさか、またあのエロ親父か? いや違うぞ、地獄の使者の気配がする……』

 呼ばれた鬼龍は即座に地獄の使者と、ゆきの目の前に現れ鬼猫を睨んだ。

「やはりお前か? 相手が違うだろう。卑怯な真似をすると許さんぞ!」

 鬼龍はそう言い放ったが、風体は老人のままだった。

「なんだー? その老いぼれた姿は。これは楽勝だな。ビビっただけ損したよ。そんな怖い顔するなよ。おー怖っ」

「その声は…鬼猫なのか?」

「そうだとしたら、どうする? 爺! ふっふっふっふっふっふっ……」

 笑いながら剣を引き抜き、鬼龍の方に向けた。


 するとその時、鬼龍の体から目映い閃光を発し、変身が開始された。

『キイン・キイン・キィン!………・・・ピカッ!』

 そして、一瞬に鬼龍は若返り、黒い鎧兜を着けた鎧武者の戦士シャドゥマンが出現した。

 鬼龍は元盗賊の仲間であった鬼猫に言った。

「久しぶりだな、鬼猫! 俺に用があるんだろう?」

 そう言い、盾に収納されていた剣に手をかけ、いつでも抜ける体制を取った。

「えっ、爺と思ったが、畜生! 若返りやがったぜ。これはやばいかも?」

 しかし、最初の戦いは始まったが、格下の鬼猫は鬼龍の相手には弱くふさわしくなかった。それは鬼虎も承知で送り出していた。

 それでも鬼猫は、すばやく手裏剣を放った。

『シュッ、シュッ、シュッ!』

『キィン! キィン! カキィン!』

 鬼龍は即座に剣を引き抜き、手裏剣をいとも簡単に払い落した。

「もうやめておけ、おまえの腕では俺は倒せないぞ!」

「仕方ないだろう……帝王Zの命令なんだからな。覚悟しろ! や―っ!」

『カキン! カキン! カキィン!』

 鬼猫の剣を瞬時に払いのけ、鬼龍の剣が地獄の使者、鬼猫の胸板をあっけなく貫いた。

『ズバッ!』

「し、しまった! やっぱりな……」

 鬼猫は敗れ、その場に倒れ消滅していった。

『キィン!…・・・ピカッ! シュバッ!』

『すまない、鬼猫よ、成仏しろよ……』

 鬼龍は元盗賊の仲間だった鬼猫に手を合わした。


「あ、ありがとうございました」

「ゆき様、別に礼は不要ですが、まだまだ難が降り掛かりますから、充分に注意をしてくださいね」

「えっ、なぜ?……」

「では、また呼んでくれ、さらばだ!」

『しかし、Zとは? 地獄の帝王が動き出したという事だな……』

 勝利した後、変身した鬼龍はゆきに迷惑かけてすまないと、言葉をかけ、その場を影となり立ち去った。

『キィン!…・・・ピカッ! シュバッ!』

 ゆきは一瞬、何が起こったのだろうと、放心状態がしばらく続いたが、あのお爺さんがあの鎧武者の戦士シャドゥマンだと知る。

「えっ! でも、なぜなの?」


*         *          *    


 鬼龍は陰ながらゆきを見守りながら、闇で生活を続けていたが、ゆきの方は全く気付いていなかった。


 ある日、ゆきの勤める閉店前の銀行が、五人組の武装した銀行強盗に襲われた。

 それは、銃とナイフで脅し、巨額の金を奪おうとしていた。

『バン! バン! バン!』

「静かにしろ! 騒ぐと殺すぞ!」

「キャー、強盗……」

「金を持って来い! 急げ!」

「なんで内の銀行に……とんだ災難だ」

 支店長は脅え、おろおろしていた。


 店員がすきを見て非常ボタンを押していた為、数分後、警察のパトカー及び機動隊なども到着し、報道車両も続々と駆け付け、銀行の表では非常に慌ただしく騒がしくなっていった。

「くそ! 誰だ、警察を呼んだのは? おまえら全員人質だ!」

 結果、ゆきを含め銀行員全員が縛られ人質となった。

『臨時ニュースを申し上げます。ただ今銀行に数人の武装した強盗団が押し入り、人質を取って立てこもりました。尚、安否など詳細は不明です』

 テレビでも大々的に放送され出した。

 ゆきを含めた人質達は、銃とナイフで脅されながら一ヵ所に集められていた。

 ゆきは心の中で助けを呼んだ。

『龍、助けて!』

 声は出さなかったが、そう叫んだ。

『……? ゆきが危ないっ!』

 するとその時、銀行前に一人の老人が忽然と現れた。

 それは、ゆきの声を聞きつけた鬼龍だったが、周りは騒然としていた為、老人が銀行内に入るのは大変だった。

『ブォォォオン!……バタバタバタバタバタバタッ! ブォォォオン!……』

 空には報道ヘリが飛び交い取材していた。

『なんだーあのやかましいどでかい鳥は?……』

 鬼龍は見た事もない空飛ぶ物体に驚き気にはしたが、ゆきに危機が訪れていた為、それどころではなかった。

『よし、行くぞっ!』

 迷わず、周りが騒然とする中、警察の制止を振り切り、銀行内に突進して行った。

「やめろ―危険だ。誰かあの老人を止めろ!」

 後ろから、警察の制止させる為の声が聞こえた。


『ガツン! ドスン!』

 鬼龍は勢いよすぎて、不覚にも自動ドアのガラスにぶつかり、尻餅をついてしまった。

「しまった! 痛たたたっ、透明のギヤマンの戸がある事を忘れていたぞ」

『ウイーン………・・・ウイーン………・・・カタン』

 鬼龍は立ち上がると、自動ドアのセンサーが感知し、ドアは左右に開き中に入った。と同時に閉まった。

「これは助かった。だが、いったい誰が開けて、また閉めてくれたんだ? 誰もいそうもないが、まさか罠か?」

『ピンポン…・・・いらっしゃいませ』

『だ、誰だっ!』

 センサーが鬼龍を感知し、自動音声の声が聞こえた。


『ブォォォオン!……バタバタバタバタバタバタッ! ブォォォオン!……』

「こちらJHKの報道ヘリです。た、大変です。心配した人質の家族の方でしょうか? 一人の老人が警察の制止を振り切り、銀行内に入って行きました。なんと無謀ともいえる行動をしたものです。新しい情報が入り次第、またお知らせします。では、スタジオに戻します」

 報道ヘリのカメラは、透かさず生中継で、その様子を捕らえて放送していた。

 

 内側の自動ドアも開き、まだ武器などは所持していなかった老人の鬼龍は、銀行内に入るや否や、震えている人質のゆき達に言った。

「もう、大丈夫だから安心しなさい。ここからは私に任せなさい」

『良かった。意外と早いわね……』

 ゆきは鬼龍を見て、少し安心した。

「助けが来たと思ったら、よぼよぼの爺さんか、とんだ茶番だ。がっかりだよ……」

「ゆき君、あの老人と知り合いなのか?」

「ええ、正義の味方だから、きっと助けてくれますよ」

「まさか、とてもそういう風には見えないぞ。大丈夫かな? かえって心配になって来たよ」

 頼りない臆病の支店長と店員達は、がっくりと肩をおとし、ゆきの後ろへと隠れた。


 強盗団は鬼龍が入って来た為、一瞬、銃の引き金に手を掛けた。

「気を付けて、銃を持っているわよ!」

「黙ってろ、でぶ女!」

『わ―! 私が一番気にしてる事を悔しい……」

 ゆきは仕方なく、黙りおとなしくした。


「な、なんだー? おまえは……」

 だが、五人組の強盗団は軽く一笑しただけだった。

「馬鹿な爺だ。おまえが来たって人質が一人増えるだけだ!」

 笑いながら、ナイフと銃を鬼龍の方に向けた。

 するとその時、鬼龍の体からあの目映い閃光が発せられて、変身が徐々に始まった。

『キイン・キイン・キィン!………・・・ピカッ!』

 そして、若返った鬼龍は黒い鎧兜を着けた鎧武者の戦士シャドゥマンとなった。

 強盗団も一瞬ひるんだが、人質となっていた銀行員達も、なにが起こったのだと、驚くだけだった。

「眩しい……な、なんだ、こいつは! 化物か?」

 ビビりながら強盗団五人は鬼龍に向け、銃を発砲してきた。

『バン! バン! バン!』

 しかし、戦士シャドゥマンは動じず、すばやく鎧と盾で弾をはじき飛ばした。

『カキン! カキン! カキィン!』

 盾から剣を引き抜き、盾で防戦しながら、強盗団の前にすばやく進んで、あっという間に剣で銃とナイフを払い落とした。

『カキン! カキィン! ガシャッ!』

「くそっ! どうなってるんだ? やばいぞ!」

 シャドゥマンの剣がさらに強盗団の五人に向けられ、真っすぐ下に振り落とされた。

「これでもくらえっ! やー!……」

『バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ!』

「うわ―、やめてくれっ! 痛い……」

 そして、一瞬に強盗団は鎧武者の戦士シャドゥマンに倒され、ゆきと人質達全員を救出し、急いで外に出るよう指示した。

「ありがとうございます。やっぱり助けに来てくれたのですね」

 ゆきは鬼龍に礼を言いながら、急いで外の出口に向かった。

『でも、なんかカッコ良かったな……』

 解放された喜びでそう思った。

 外に出た人質全員が無事保護されたと同時に、警察の機動隊が銀行内に突進して、倒されていた強盗団全員を逮捕したが、銀行強盗団も何が起きたのかと唖然としていた。

『…………』

 機動隊も強盗団全員が、すでに何者かに倒されていた為、訳が解らなかった。

「いったい、誰が……あの老人は何処に行ったんだ?」

 全員手錠が掛けられ、外に連れ出された。

『ピンポン…・・・有難うございました。またの御来店をお待ち申し上げております』

 皮肉にも、自動音声の声が強盗団五人に向け発せられた。

「くそっ、二度と来るものか!」


 しかし、影の守り人・戦士シャドゥマンの姿は影となり消えうせ、すでに銀行内にはいなかったのであった。


         *          *         *


 その頃、鬼虎率いる地獄の使者達は 一人では無理と考え、さらに二人の戦士を21世紀に送り込もうと決めた。

『やはり、鬼猫一人では無理だったな……』

「鬼犬兄弟よ、さあ行け!」

『キィン・キィ・キィン!………・・・ピカッ! バァーン!………・・・』

 鬼犬兄弟は目映い閃光と衝撃音と共に、後の世の21世紀に出現した。


「どうやら後の世に着いたようだが、微かに臭って来たぞ。ふっふっふっふっふっ……」

 第二弾目として、奇怪な鎧を身に付けた、鼻が効く鬼犬兄弟が早速、鬼龍の居場所を探し当て現れた。

「何処だ、何処だ、何処だ? 臭うぞ、臭うぞ! よし、見つけたぞ……」

 そして、鬼犬兄弟は、笑みを浮かべながら、即座に剣を引き抜き、老人の姿の鬼龍に襲いかかって来た。

「鬼龍―覚悟しろっ!」

「えっ、誰だ?」

 頭の鬼虎は、鬼龍抹殺使命を、おまえたち兄弟二人がかりなら余裕で倒せるだろうと考え、送り出して来たのであった。


「……なにっ、俺達はこんな爺と戦うのか? まあいい、さっさと倒して帰ろうぜ!」

 地獄の使者鬼犬兄弟は、鬼龍を甘くみて、油断をしていた。

「鬼龍、爺になったとはいえ、相変わらず怖い顔してるよな。はっはっはっはっはっ!」

 そう言って、剣を向けた。

 しかし、鬼龍はさらに強くなっていた為、少しも動じず即、目映い閃光を放ちながら若返り、鎧武者の戦士シャドゥマンに変身した。

『キィン! ピカッ!』

「おまえ達、今なら怪我せずに帰れるぞ!」

「ちっ、若返りやがったな。馬鹿な事を言うな、おまえを倒す事が俺達の使命だ!」

 そして、最初は二人を相手にする為、さすがに苦戦はしたが、剣と盾を巧みに使いこなしながら戦った。

『シュッ、シュッ、シュッ!』

 二人の放った手裏剣が鬼龍に襲いかかった。

『キィン! キィン! カキィン!』

 盾ではじき飛ばし、鬼龍も反撃に出た。

「爺の割には意外とやるじゃないか」

 敵二人とは怯む事無く戦い、その内鬼龍の剣が鬼犬兄弟の胸板を貫いた。

『ズバッ、ズバッ!』

 結果、敵二人を倒す事ができたのであった。

「しまった! 鬼龍を甘く見過ぎてしまったぞ!」 

 鬼龍の剣に敗れた地獄の使者、鬼犬兄弟は、その場に倒れ消滅していった。

『キィン!…・・・ピカッ! シュバッ!』

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