ウジュメリミ

 電車に揺られること3時間、最終の便に間に合ってなんとか実家に帰り着いた。母より状況を聞いたところ、回覧板を持って行ったところ、おじさんが倒れていたらしい。すぐ救急車を呼んで、命には今のところ別状はないらしい。面会時間も過ぎてしまっているので、とりあえず実家に泊まる事になった・・・って俺も追い出される?!婚約者についていなさいと母がドヤ顔で告げる。けどさ、親指を人差し指と中指の間から出して拳をこっちに向けるのってどうよ?


 おとなりのインターフォンを押す。佳代さんが出てくる。ぱああああああって表情が明るくなる。ていうか抱きついてくる。やわらか・・・じゃなくて、とりあえず事情を話す。


「母さんに追い出された。弱ってる彼女を放置するような朴念仁に育てたつもりはないって」

「ええええええ、ゆーくん優しいよ?」

「うん、そういう問題じゃないからね」

「んー、でもすごく心細かったの。で、そう思ってる時にゆーくん来たの。嬉しくなっちゃって」

「あー、実は親が寝たら来るつもりではあった」

「おお、夜這い?」

「どこでそんな言葉覚えたの!?」

「おばさんがいろいろ本を貸してくれて?」

「母さん、あとでO・HA・NA・SHIだね」

「親子の会話って大事だね」


 客間の布団を借りる、そしてウトウトし始めた頃、まあ、予想はしていたが佳代さんが布団に潜り込んできた。涙目でしがみついてくる。ちょっと震えてる。優しく抱きしめ言葉をかけてゆく。


「どうしたー?」

「ごめんね、ちょっと怖くなっちゃって」

「うん、うちも親は元気だけどさ。なんかあったらって思うとちょっと涙でた」

「うん、ずっとわたしとお父さんと一緒だったから。怖くて寂しくて」

「俺がいるよ」

「え?」

「俺も家族だよ」

「ゆーくん?」

「えーとね、夕べのことがあったからってわけじゃないんだけどさ」

「ゆうべって・・・あっ」

「ずっと一緒にいてくれないかな?家族として」

「それって・・?」


起き上がって姿勢を正す。佳代さんも正座してこっちを見つめてくる。次のセリフを予想してか目が潤みちょっと震えてる。んで、俺も心臓がバクバク言ってる。けどここまで来て後には引けない。引きたくない。だから思いの全てを言葉に乗せ口から送り出す。


「結婚して下さい。これからの人生を佳代さんと一緒に歩きたいんだ」

「わたしバツイチだよ?いいの?年も上だし、それに、それに・・・」

「全部知ってる。けどね、ずっとずっと好きだったんだ」

「ありがとう、ありがとう。ありが・・・と・・・」

後は声にならなかった。声を上げて泣く。俺も涙を零す。この人の心に入ったヒビを埋めてくれたらいい。そう思ってきつく抱きしめる。いつか泣きつかれて眠った佳代さんを抱きしめて俺もいつしか眠りに落ちていた。


 朝日が差し込む。腕が痺れてる。なんかすごい可愛い寝顔が目の前にあった。思わずおでこにチュッとやってしまった。その刺激でか、うにゅーとか言い始める。なにこの可愛い生き物。ゆっくりとまぶたが開かれる。で、目が合う。かーって顔が真っ赤になる。夕べのことを思い出してるのか、なんかあわあわしてる。


「おはよ」

「お、おはよ」

「なんか恥ずかしいね」

「あー、そうだねー」

 そのタイミングで呼び鈴が鳴る。佳代さんが応対に出て行った。すぐに戻ってくる。うちの母だったようで、朝ごはんできたよ~と呼びに来たらしい。ひとまずの身支度をして移動する。

 なんかジロジロと観察される。なんだよと睨むとおほほほーって笑いながら台所に入っていった。トーストとスクランブルエッグ、サラダに珈琲、珍しく洋食風だ。


「ご飯食べたら病院行くのかな?」

「あ、はい」

「総合病院の309号室よ。気をつけてね」

「ありがとうございます。いつもお世話になって」

「あら~だって息子のお嫁さんでしょ?だったらうちの娘だしねー」

「むぐっ!?」

「げふっ?!」

「あらあらー、慌てなくてもおかわりあるわよー」

「母さん、珈琲おかわり」

「自分でやんなさい。そこにサーバーあるでしょ」

「ああ、うむ・・・」

やべえ、父さんの背中に哀愁が染み付いてやがる。じゃなくて。

「母さん、嫁ってなにいきなり!?」

「えー、あんたまだ手を出してないの?」

「いや出したけども」

「ゆーくん・・・あのー・・・」

「ああああ、ごめん、いやあのその」

「じゃあ、責任取りなさい、男らしくね」

「取るに決まってるでしょ!」

「んじゃ決まりねー。うれしいわーわたし娘も欲しかったの!」

「えと・・あの、不束者ですがよろしくお願いします?」

「うん、これで挨拶は完了だな」

「えーと、良いのかこんなので?」

「あー、いいとおもう・・・よ?」

「佳代さんが良いなら、分かった」

「おお、早速ラブラブですね!ひゅーひゅー」

「母さん、その煽り方、オバハンっぽい」

「オバハンだよ、悪いか!息子が嫁さん連れてくるんだから年も取るわよね」

「あー、母さんの勝ち。やっぱ頭上がらんわ」

「ふふん、まだまだ若いのには負けないわよ」

食卓は賑やかな笑い声に包まれていた。これからの人生を祝福するかのように。


 病院でおじさんと面会した。過労らしい。この際だから精密検査をすることで、半分検査入院との事だった。二人で胸をなでおろす。そして昨日の話をおじさんにする。


「佳代さんと結婚させてください。必ず二人で幸せになります」

「ありがとう。勇司くん。娘をよろしく頼みます」

「あー、お父さん、お前になんか娘はやれるかーって暴れるんじゃ?」

「おいおい、いつの冗談を覚えてるんだい。それにねこの上もない婿さんじゃないか」

「うん、ありがとう。お父さん」

ここでも和やかな笑みが漏れる。病室の他の人達も祝福してくれた。胸がいっぱいってこういうことかといろんな人生初を味わっていた。


 こうして俺達は婚約した。ひとまず俺は元の部屋に戻り、佳代さんはこちらでいろいろと準備をしてゆく。二人で話し合って式は挙げないことにした。ただ、ドレス姿が見たいという俺のわがままで、貸衣装で写真を残す予定だ。夏前には佳代さんがこっちに来ることになっていた。そう思うと待ち遠しくて仕方がない。そんな最中ある日の電話で、俺はいろいろと衝撃受けることとなった。

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