入籍にいたる過程・・・いろいろすっ飛ばしました

 家に帰宅してスマホから佳代さんにメッセージを送る。いつもの習慣になりつつあるやり取り。普段はすぐに「おかえり」ってメッセージが来るんだけど、今日は珍しく電話が鳴った。


「あ、もしもし、ゆーくん、ちょっとお話したいことがあって」

「うん、どうしたの?」

「ちょっと知らせたいことがあってね」

「どんな話?なんか怖いな」

「んー、いい話、なのかな?」

「うん、聞かせてくれる?」

「えっとね、赤ちゃん、できたの」

「え?えええええええええええええええええええええええええええええ??」

「あ、ごめんね、迷惑だった?」

「やったああああああああああああああああああああ!」

思わず大声で叫んでしまった。けどふつう叫ぶだろ!?

「きゃっ!?」

驚かせてしまって申し訳ない。けれどうれしかったから仕方ない。

「とりあえず明日有給とる!待ってて!」

「あ、あの、ゆーくん?」

「うれしい。すっげえ嬉しい。胸がなんかあったかい、これって幸せってことだよね?」

「うん、うん。そうだね。わたしもいますごく幸せ」

「あははは、夢みたいだ。佳代さんがお嫁さんで、子供も生まれるって」

「夢じゃないよ。わたしはちゃんといるよ」

「そうだね。とりあえず明日はそっち行くから」

「あ、うん、待ってるね」


 電話を切った。思わず飛び跳ねる。一人で騒いでいると、ドアがノックされた。アパートの大家さんだ。

「あ、ごめんなさい、うるさかったですよね」

「いいけど何かあったのかい?やったーとか聞こえたけども」

「えーとですね、婚約者がいるんですが」

「ああ、この前来てたお嬢さんね。奇麗な人じゃない、このこの」

「あははは、それでですね。赤ちゃんができたと連絡がありまして」

「あら、それはおめでたいね。あ、けど、まだ籍入れてないのかい?」

「そうなんですよ。結婚準備中でして。けどそうも言ってられないですよね」

「そうだね。早く行っておあげなさい。喜ぶよ」

「はい、お騒がせしてすいませんでした」

「はい、おやすみなさい」


 とりあえず上司にメールを送る。返事はないが、明日朝一で電話すると決めて布団に入る。心臓の音が響く、テンション上がりすぎて眠れない。けど無理やり目を閉じる。けど眠れない。とりあえず子供の名前を考えることにした。あーでもない、こうでもないと考えているうちに俺の意識は眠りに落ちていった。

 スマホの音で目を覚ます。上司から電話だ。申請やっとくからとっとと規制しろとのありがたいお言葉だった。着替えて電車に飛び乗る。最寄駅からバスに乗り換えて1時間。初夏の故郷は相変わらず海風が潮の香りを運んできていた。バス停を降りるとお迎えが来ていた。母と佳代さんだ。思わず二人そろって抱きしめてしまう。母はあきれたような、佳代さんは満面の笑みを浮かべていた。


「えっと、まずは籍を入れましょう」

「いいの?」

「いやまって、順番が変わっちゃったのは事実だけどさ」

「だって、あのその・・うー」

「佳代ちゃん。わたしはね。娘もほしかったの。だから、お嫁さんに来てくれたらうれしいな」

「はい、ありがとうございます、おばさん」

「違うわよ?」

「え?」

「ママって呼びなさい!」(ドヤァ

「わかったよ、ママ」

「気色悪い!」

「ひどい、何だこの差は」

「あはははは。えっと、おかあさん。末永くよろしくお願いします」

「うん、じゃすぐ役場いって書類もらいましょ。証人欄は病院行ってきなさい」

「あ、そうだね。わかった」

「あ、お父さんに言ってなかった」

「え?それはひどくない?」

「・・・てへ?」

「あー、かわいいから許す」

「あー、あー、オアツイコトデスネー」

「母さん、すねてもかわいくない」

「いいもん、お父さんはかわいいって言ってくれるもの」

「ゆーくん、20年後もかわいいって言ってくれる?」

「当り前じゃないか!」

「とりあえず、その所かまわずいちゃつく習性は私とお父さんの影響かねえ?」

「「いちゃなんかついてません!」」


 病院へ向かう。おじさんはまだ入院していた。婚姻届けに俺と佳代さんの名前を記入する。そしておじさん・・・お義父さんに証人欄を買てもらえるよう頼んだ。最初は疑問の表情を浮かべていたけど、佳代さんに赤ちゃんができたことを伝えると、泣き笑いの表情で、おめでとうと言ってくれた。ちょっと震える手で記入してもらい、役場に出しに行く。窓口は顔なじみの近所のおばちゃんで、もちろん噂話などは回っており、ややにやにやしつつ書類を受理してくれた。

 今後のことだけど、佳代さんは出産まではこちらに住む。生まれた後で、俺のほうで、家族向け住居などを探すことにした。

 俺たちの先行きには、明るい未来しか見えなかったのだ。

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