突然の知らせ
朝、目覚めると、味噌汁のかおりと暖かな空気。昨夜脱ぎ散らかした服はすでに片付けられ、俺の分の衣類が枕元に置かれていた。昨夜のことを思い出し緩む頬を引き締め、服を身につける。
「おはよう、佳代さん」
「あ、おはよう」
何だこの甘ったるい空気。頬が熱いって思ってると彼女も真っ赤だった。言葉が続かない。あれこれ頭をよぎるが口からはあうあうといった意味のない音だけが漏れる。そのとき、炊飯器がピー、ピーとビープ音でこの空気を打ち破ってくれた。
「あ、ご飯炊けたよ!」
「うん、そうだね」
「朝ごはんにしよう!」
「うん。そうだね」
「むう、ゆーくんそれしか言わない」
「ごめん、なんか気恥ずかしくて。けれど、すごい幸せな気分」
「あはは、そうだねっ!」
目玉焼きにほうれん草のソテー、うちの母直伝とかいうじゃがいものお味噌汁。そして山盛りのご飯。うん、美味しい。うちの母に料理を教わってきた理由を聞くと顔を真赤にして答えてきた。
「え、男の人を落とすには、まず胃袋をつかめっておばさんが」
カーチャン、なにを吹き込んでくれやがってるんですか・・・けどグッジョブ!
連れ立ってお出かけ。まずは散歩を兼ねて近くの公園を春先の柔らかい風を受けながら歩く。観光地にもなっている城址公園で桜が見頃になっていると聞いていたためだが、まあ、すごい人混みだった。比較的人の少ない場所を見つけ腰を下ろす。ふわっとした風でぱっと花びらが散る。お堀は花びらが浮かんで、流れていった。
「あ、ゆーくん、あれってなにかな?」
「ああ、亀だね。結構でっかいよ」
「ほええええ、すごい」
「あのサイズだと50年位育つのにかかるとか」
「へえええ、すごいねえ」
「そうだね。そういえば今無料開放らしいから庭園の方とか行ってみる?」
「あ、良いねえ、行ってみよう」
名園と名高い庭を歩く。最近では日本人だけではなく外国人もよく訪れるようだ。金髪の少女が太陽のような笑みを浮かべて親と思われる男性に話しかけていた。いきなり英語?で話しかけられる。俺はパニックになってしまい佳代さんが苦笑いしつつフォローしてくれる。写真をとってほしいらしい。彼女はニコニコしながらカメラを手にとる。そして俺達も写真を取られた。女の子が何故か間に挟まってきた。楽しそうに笑う姿にこちらもつられて笑顔になる。手を振り別れを告げる親子に合流する母親らしき人を見て、佳代さんは少し淋しげに微笑んでいた。
その後、少し離れたところの商店街を歩く。メロンパンの間にソフトクリームをはさんである新作スイーツが人気らしいと食べてみた。10メートル歩かないうちにカラスの襲撃を受け、佳代さんが普段のおっとり具合からは信じられない動きで見事に躱す。そして足を滑らせてすっ転ぶ。メロンパンを俺がキャッチする。まるでコントのような一連の動きに通行人が笑いが漏れる。当の本人も照れ笑いを浮かべている。トォ化して立ち上がらせて、キャッチしたパンを渡す。佳代さんはパンの一部をちぎるとカラスに向かって差し出す。クワッ?とかいいながら近寄ってきてパンをついばむとそのまま飛び去っていった。なんともほのぼのした光景だった。
夕方、さすがに半日歩いてちょっとばかり疲れたのでお風呂に入ることにした。いきなり乱入してきて強制的に背中を流された。流し返そうとするとお風呂から追い出された。なぜだ!?
風呂から出ると携帯が光っている。実家からの着信だった。かけ直すと母が出た。用件を聞いて目の前が暗くなった。おじさんが倒れたってどういうことだ?!風呂場に向かい、扉越しに佳代さんに伝える。明日は日曜で、月曜も祝日だ。佳代さんの身支度を待って電車に飛び乗る。俺には震える佳代さんの手を握ってやることしかできなかった。
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