一日
「またか」
そう思ったのは出勤時間の10分前であった。
いつも通りといえばいつも通りであるが、それで多少なり迷惑を被る側は堪ったものではない、そう思いつつ開店作業に入る。
出勤時間ちょうどから働いても開店に間に合わないと学習しているからである。
彼が某なにがしのチェーン店のチーフに昇進したのはつい先月の16日のことである。
この店舗の店員の意識の低さを見かねて自ら名乗りを上げたのはいいものの、同時に学生である彼は今でこそ夏季休暇で働けるが、それが明ければどうなるかわからない。
ただ、今できることを懸命にやろうとしているのである。
しかし、同じ朝イチ出勤の先輩チーフが10分前になってもこない。
これは出勤時間に店につき、出勤時間を調整して遅刻をごまかそうというのであろう。
いつものことである。毎日ではないだろうが。
一丁前に先輩風を吹かしてはいるが所々手を抜く。
一つのことに時間をかけてのんびりしているせいでそのしわ寄せをこちらにくるのだ、堪ったものではないが、だからと言って頭ごなしに意見するにはまだ未熟だった。
わかっていることを指摘され、どうでもいいこと雑談でこちらの作業を阻害する。
それもこれもいつものことだが、客のことやその他のことでイライラしている自分をなだめてくれている要素であることは間違いないのだ。
それにあくまでも先輩、自分よりその気になれば仕事量は上だろうし、自分のわからないことも対応してくれる。
やはり意見するにはまだ未熟である。
そんなこんなでやりきれない思いを抱えつつ帰路に着くのは18~19時だ。
携帯を眺めつつ、電車に揺られて、約40分ほどの時間をかけて家に着く。
帰ると同居人は不在だ、それぞれ仕事があるのである。
コンビニで買ったものを摘みながらパソコンを開き、ほぼ専用機と化したゲーム機の電源をつけたらひとときの安息だ。
英気を養いつつ同居人の帰りを待って、何気ない一日を終わらせるのだ。
そんなことを考えながら、有意義でなかった、と思いつつ彼は自分の世界に没入するのである。
零時 橘偲 @shinobusan
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