第19話 FFG

 神白が寝たのと同時刻の、深夜1時頃。

 「んー、遂に戦いが始まったか」

 カタカタカタ、と暗い部屋でキーボードを打つ男が一人。パソコンは二画面となっており、片方は文章を書くアプリが、そしてもう片方には神白たちと黒野の戦いの様子が記録されていた。

 「あー、それにしてもまさかこの俺が文章を書くことになるとはねえ。俺は一応理系なんだけどな。関係ないか?」

 ブツブツと文句を言いながら、全く慣れていないようなタイピングのスピードで文字を打ち込んでいく。が、やがてそれも面倒になったのか、椅子に寄りかかり、目を瞑って大きく伸びをする。

 「えーと……『電子と電子を、つなぐ、回路を乱し、侵略せよ。』《プログレス・八ッキング》」

 男は昨日の食事を思い出すかのように途切れ途切れに間をいれながら能力を発動する。すると、キーボードには全く触れていないのにも関わらず、パソコンには文字が驚異的なスピードで表示されていく。

 『人除けの結界使ってるから邪魔者はいない。これから能力者同士の戦いが始まる。……と思っていたのか?実はこの娘、能力を未だに使えないのであった!』

 そして、男の思いのままに見るも耐えない文章がどんどん打ち込まれていく。

 「お、いいねいいね。この能力ありゃ文学賞総ナメ出来るんじゃね?」

 その文章のひどさにも全く何とも思わず、ただひたすら文字を表示させていく。やがて、今日一日の出来事を書き終えると、報告をするためにポケットから正八角形の物を取り出し、電源を入れる。そして目の前に現れるホログラフィック・ウィンドウを人差し指でスクロールし、目的のボタンを押す。すると、ノイズのような音が鳴り、少したってようやく向こうから声が聞こえる。

 『はい、もしもし』

 「ちっす、今日の分の原稿は書き終えたぞ」

 『おお、そうか、お疲れさん。どうだ、初日の感想は?』

 「いやー、なんというか……」

 男はポリポリと頬をかき、言いよどんでいたが、やがて吐き捨てるように言う。

 「クッソつまんない。まず、人が誰も死んでないし。《EVE》を優遇しすぎじゃないか?ルール無用だったら、あいつら3人のうち1人くらいは殺すことが出来ていたはずだぞ?」

 そして、だらーんと足を伸ばす。つまり、彼はこう言いたいのだ。

 この戦争は、あまりにもアンフェアすぎる、と。

 『ハ八ッ、そんな簡単に死んでもらっては困るよ。君の仕事がすぐに終わってしまうからね。一人くらいなら、まあ読むときにつまらなくならないかもしれないけどね』

 だが、電話越しの相手も、人の死を何とも思っていない様子だ。むしろ、これから作られる小説を盛り上げるためのイベントの一つとしか思っていない。そんな感じであった。

 ひとしきり話をした後、電話を切ると、一応出来上がった文章を読んでいく。そして満足したようにため息をつき、アプリを閉じようとしたところで……その手が止まる。

 「あ、そうだ。この小説のあらすじ?それを書かなきゃだな」

 男は新しいページを開き、頭に思いついたことをそのまま書き殴っていく。そして最後に、締めの言葉を書く。

 『これは、星に選ばれた者同士があらゆる願いを叶える全能の媒体、黄金の果実を求めて命懸けで争い合う、互いの欲望がぶつかりあうゲーム。そのゲームの名を……

 《フォービドゥン・フルーツ・ゲーム》。略して《FFG》。うん、こんな感じでいいでしょ』

 ここまで書き終えた男は、ついに力尽きたのか、そのまま倒れるようにして眠りについた。

 

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罪の烙印 ~Prototype~ 宵霧春 @yoigiri

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