第18話 不安
学校を出た後、星村さんが私と雨切を車に乗せてくれたおかげで早く帰ることが出来たが、それでも9時半と、かなり遅い帰宅となってしまった。もし私が一人暮らしでなかったならば、両親に「入学早々夜遊び」と、心配されてしまうだろう。2人は大丈夫なのだろうか、そう思った私は、携帯のSNSのアプリ(2人に言われてインストールした)を開くと、雨切と星村さんの個人チャットへ移動し、おぼつかない手つきで文字を打っていく。
『今日は私のせいで帰るのが遅くなってしまい本当に申し訳ありません!ご家庭の方で何かお叱りを受けませんでしたか?』
すると、送信してわずか10秒後に星村さんの個人チャットに既読のマークがつくと、10秒で返信が届く。
『なんだ、そんな心配はいらないよ。私はもう大人だ。これくらい遅く帰るのは珍しいことじゃあないさ』
……私ではとても10秒で返せる量ではないと思う。まさか、こんな返信にも能力を使っているのか!?
驚愕しているあいだに、雨切の方からも返信が届く。なになに……
『俺、今日から星村さんの家に居候することになったから大丈夫。まあ、はよ飯作れってうるさいけど。これから色々家事をこなさないといけないから、すまんが明日また話そう』
「はいぃ!?」
ちょっと待て、この二人一緒に住んでるの!?いや確かに、今日戦いが始まったにしてはめっちゃ仲いいとは思ったけど!それにしても関係ありすぎでしょ!エネルギーは全世界拡散って言ってたけど私たち距離的に近すぎると思うよ!?
ああもうなんかすごいいいいいいと興奮する自分を抑えるのに時間がかかり、その後は残った家事をこなし、深夜1時にベッドに飛び込む。
「うー、布団は私をいつでも優しく受け止めてくれる……」
疲れ切っているのか、よくわからないことをポツリと呟く。だがその布団の心地よさが馴染んでくると、考えていることも変わっていく。
「……死にたくないな」
私は、枕に顔を埋めながら言う。それは、今自分が思っていることの全てだった。
実際、黒野に襲われたときは死を覚悟した。なんかよくわかんないけど罰が当たったのだろうと思ったくらいだった。
けれど。あの声に励ましてもらってから、そしてあの2人に出会ってからは、今のこの人生を生きたいと強く思うようになった。
命がけで生きる意味は、まだ分からない。でも、私は死にたくない。あの2人にも死んで欲しくはない。ただ、私たちは生き残って、この戦争が終わったら精一杯遊ぶんだ。
私は、目をつむる。頭の中に浮かべるのは、自分の能力だった。私は何故かよく分からないが、2人にやたらと応援された気がする。あんたは私たちの役に立つはずだの、一緒に頑張っていこうだの、色々車内で言われた。しかし、結局一度も私は自分の能力を教えなかった。その理由は、どんなに探しても、私の能力には《制約技能》や《制約魔術》が1つもなかったからだ。これらは《EVE》における最強の一撃。それがないと知った時の2人の顔を、私は見たくなかったのだ。哀れむような表情でこちらを見て、足手まといというレッテルを貼られ、邪魔者にされ、ついには縁を切られる、なんてことは絶対に嫌だったからだ。
よくよく考えてみれば、この感情は私にとっては不思議でもあった。中学の頃からのけ者にされ、すっかり慣れてしまったと思っていたのだ。けれども、実際は慣れていなかった。慣れているはずがなかった。だって私だって人間だから。孤独を感じて悲しくならないはずがない。私は、能力という、借り物の力を使ってでも、誰かに頼られたいと思った。
だが、それこそ大きな迷惑であろう。戦闘になった時に初めて私の能力が使い物にならないと知ったのでは、遅すぎる。下手すれば、2人をそれで殺してしまうかもしれない。
「一体、私はどうすれば……」
涙を流し、声をあげるが、一人暮らしの私には、誰からも救いの言葉はこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます