第17話 能力者の秘密その2

 そんな私の態度にさほど気にする様子はなく、雨切は話し始めた。 

 「……まあ、他の国は知らんが、少なくとも日本の能力者ってのは、大きく分けて2種類に分けられるんだ」

 そう言うと、雨切は丁寧な字で黒板に文字を書き始める。そこには、《ADAM》と《EVE》と書かれていた。

 「まあ、呼んでそのまま、アダムとイヴだ。何でこんな呼び名になったのかはわからん。が、どうせ集団には名前を付けたがる奴らが適当にかっこつけて付けた名前だろ。気にしなくていい」

 と、本当に心底どうでもよさそうな顔で黒板に書いた自分の字を見ているので、とりあえず私も、2つの集団があるということだけを頭に入れておく。

 「それで、この2つの集団はどのように分けられているの?」

 「ああ、俺もちょうどそれを言おうとした。これは、どうでもいいようで、案外大事なことだ。覚えておいて損はないぞ。その違いってのは、その能力の本質にある」

 「……えっと、どういうことですか?」

 「俺たち能力者っていうのは、隕石による《覚醒エネルギー》というものに影響されて能力を得た人たちだ、っていうのは星村さんから聞いたよな?」

 「あ、はい。そのエネルギーを賭けて、危うく戦争が起こりそうになったというのも聞きました」

 「そうかそうか。んで、その能力なんだが、俺たち《ADAM》は、主に神様の能力を少しばかり頂いているんだ。神様以外だと、まあ昔の偉人とかそんなあたりかな?例えば俺の能力は《妖精》から借りているんだが、この妖精ってのは、厳密に言うとケルト神話に出てくる妖精だ。こいつらは色々な種類が存在するようだが、俺に宿った妖精は、鍛冶の妖精らしい。だから、あのように武器を作って攻撃を……って、お前は気絶してたから見てないか。まあ、だからお前の能力も、何らかの神様の力を借りたものだと思うぞ」

 「なるほど。確かに、私は《ソティス》という神様の能力を使えることが出来ますね。 ……って、あれ、どうして知ってるんだ?」

 しれっと口にしたが、よく考えたら《ソティス》という名前を私は知らないはずだし、恐らく聞いたこともないだろう。それなのに、その言葉はまるで条件反射のように、さっと私の頭の中で出てきたのだ。

 何が起こったのか分からずに困惑している私を見て、雨切は笑う。

 「そうか、知らないのか。《覚醒エネルギー》を浴びて能力を得た人間ってのは、頭の中に能力の情報を全て、詳しく叩き込まれるんだ。不思議な気分だろ、知らないはずのことを何故か知ってるんだからな」

 「はい、すごく不思議です。でも、それよりも……」

 「それよりも?」

 「……何だか、怖いです。まるで、私の身体なのに、中身は別のものになってしまってるというか、乗っ取られてしまっているというか。そんな感じなんです」

 「ああ、その感覚は間違っちゃいないだろう。能力者は別の存在から能力をもらってるんだ。その時点で、この身体はとっくに自分だけのものではなくなっているんだよ」

 「……私、こんな能力なんていらなかったな。未来が視えても別につまんないだけだし、こんなものがあるせいで、死にかけたし……何にもいいところが、ない」

 そう、ポツリと呟く私の頭を、雨切は優しく撫でてくれる。いつもなら声をあげて抵抗するところだが、彼の手の感触が気持ちよく、不安でいっぱいだった私の心が温まっていくため、私はそのまま動かないでなでられ続けた。

 ひととおり撫でてくれた後、雨切は手を戻して再び話を続ける。

 「あんたの言う通りだ。俺たちは《覚醒エネルギー》というエネルギーを受けて、そこらの人間を超越した存在だ。でも、人間を超越したからってなんだと言うんだ?俺たちは別にこんな能力がなくても生きていける。むしろ、能力者になってしまったからこそ、俺たちは日常を脅かされている。……でも、なってしまっったもんは仕方がないんだ。俺たちは与えられた使命を果たすだけだ」

 「与えられた、使命……?」

 「ああ。俺たち能力者に与えられた使命。それは、『自分たちと対を為す組織に所属している人間を皆殺しにする』というものだ」

 「……!」

 それを聞いた私は、あまりの恐怖に身体を身震いさせる。何となく、今日の出来事に加え、戦争などという言葉を聞いていたから予想はついていた。が、実際に内容を聞いたとき、やはり怖かった。何故かって?それは、人を殺さないといけないからという、単純ではあるが残酷な理由だ。 雨切も星村さんも、見ず知らずの私にこんなにも丁寧に教えてくれるし、親切だ。そんな彼らが、人の命を奪う様を私は見たくなかった。それに、もしも私があの弓使いの方の能力者だったら、2人はあの時に私を殺していたのではないだろうか……という想像をしたくなかった。

 「おっと、なんだか話が脱線してしまっていたみたいだな。ちなみに俺たちの集団は《EVE》の方だ。……んじゃあ次は奴さんである《ADAM》についての説明をしよう。《ADAM》は、俺たちが神様の能力が使えることに対して、星の能力を使うことが出来るんだ。だから、お前を襲ったあの弓使いは恐らく射手座の力を得ている。あいつらは能力を見れば大体どの星の力なのかすぐにわかるのが特徴だな。百数十種類しかない星座に対して、神様は数え切れないほど存在するからな。……まあ、星座も神様をモチーフとして作られているから、俺たちと同じ神様の能力と言っても、別に間違いじゃあないんだけどな」

 「ふぅん……」

 私は、星の力の方がよかったな。そうすれば、私はお母さんから力をもらえたかもしれないのに。と思ってしまったが、どうしようもないことだ。きっと、相手がお母さんの大好きな星を利用して悪さをしているんだ、と自分に言い聞かせることで無理やり闘争心を沸き立たせる。

 「うん、これでお互いの組織の能力者の特徴は終わりかな。それじゃ最後に、さらに特徴的なところを教えよう!」

 そう告げて、説明は続く。私はもう帰る時間を気にする暇もなく、メモ帳に大事だと思ったことを書き留めていった。

 

  ***


 雨切の話が一通り終わると、すでに時刻は9時になっていた。さあそろそろ帰るのかなあと思ったのだが、急に星村さんが「終わったー!」と叫んだ後、ゲームをしようと言い出した。それを聞いた雨切が、自らの能力でテレビを作り出し(妖精さん万能ですね)、星村さんがなぜかハードとソフトを持ってきていて、ゲームコントローラーも人数分しっかりと用意がしてあったため、私たちは1時間ゲームに没頭した。そのゲームは、私も知っている有名なレースゲームだった。

 「ちょっ、星村さんドリフトの時に火花起こすの速すぎじゃね!?ボタン押すときの手が全く見えんぞ!」

 「ふっふっふ。雨切、お前は私の能力を忘れてしまったのか?」

 「うわ、ずるっ! ……おっと、足が滑ったぁ!」

 「効くか、子供かお前は!」

 「そういうあんたは大人げねえよ!」

 星村さんは、2人の知らない隠しルートや近道を進んで、さらに雨切のリアルアタックも回避して、無双していた。結局1度も1位の座を譲らず、すごく大人げない気がしたが、みんなと一緒にゲームをして盛り上がっている2人はとても無邪気で、とても貴重な時間だったと思った。

 ゲームも終え、帰りの支度をする時に、神白は今まで聞いた話をメモ帳にざっと箇条書きでまとめたものを眺める。

 ・私たちは、隕石によるエネルギーによって能力者になった。

 ・このエネルギーをかけて戦争すら起ころうとしていた。

 ・私たち《EVE》は神様の能力を、そして《ADAM》は星の能力を  使える。

 ・私たちはこれから組織間での殺し合いをしないといけない。

 ・《EVE》の能力者は基本1、2種類の能力と《制約技能》や《制約  魔術》という必殺技みたいなのが使える。また、集団戦による恩恵な  どもある。

 ・《ADAM》の能力者は、基本的にスキルが多くて、しかも

  《star code》という必殺技のようなものも持ち合わせており、威力  や攻撃範囲も《EVE》と比べて優れているが、集団戦による恩恵は  ない。

 ・この戦争で勝った組織には、生き残った人それぞれに一つずつ、どん  な願いも叶えてもらえる権利が与えられる。


 なんか、知らない間にどえらいことに巻き込まれてしまったなあと心の中で思いながら、神白はメモ帳をポケットの中に入れる。

 「おーい神白、帰るぞー」

 雨切の急かす声が聞こえ、急いで保健室を出ようとしたが、入り口のドア付近に一枚のタオルが置かれてあった。落とし物かな?と思って名前がないか確認してみる。……あった、そこには『雨切 仁』とはっきり大きく書いてある。

 私はそれを見つめながら、今日のことを思い出す。

 どう考えても、今日は高校生活の始まりとは思えないほどの最悪な一日だった。けれど、私はさっきまでの話や、その後3人でやったゲームの楽しさの方が強く頭に残っている。どんなことがこの先待っていても、あの2人が一緒ならなんとかなる、と根拠のない自信すらあった。今まで独りだった私の日常は、こんな歪な形ではあるが、変わろうとしていた。

 「……ふふ」

 そして、雨切に頭を撫でられたことを思い出す。彼は朝の第一印象はとても悪かったが、本当はこんなにも親切で優しい存在だったんだと分かった。そして、雨切に撫でられた時、私は、独り取り残された暗闇の世界に、一条の光が差し込んできたように思えた。救われたと感じた。

 「おいこらー、早くしろよー!警備の人が見回りに来ちゃうって!」

 「はーい、今行くよ!」

 私は撫でられた辺りの頭を右手で少し撫でた後、満足したように保健室を出て、2人のもとへと駆けていった。

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