第16話 能力者の秘密その1

「まず、あんたは今、自分がどういうことに巻き込まれているのか、わかってる?」

 「いえ、何も……」

 星村さんの質問に首を横に振ると、星村は鞄からノートパソコンを取り出し、一つの動画を見せる。

 それは、ただ隕石が地球に落下するというものであった。しかし、その隕石は、ただどこかにあった星屑が軌道に沿ってきたのではなく、ある時間に突如発生し、そのまま地球めがけて落下したのだ。

 「これは、一体?」

 「この隕石によって、私たちはは能力を得ることが出来たの。もちろん、あなたもそうであるはずよ」

 「あれ、なぜ私の能力のことを?」

 「ああ、能力者は、私たち以外にも他に何人かいて、そのうちの一人が結構情報を持ってるのよ。それに、黒野を妨害してあなたをここまで運んだのは私たちよ」

 「ああ、やっぱりそうだったんですね……ありがとうございます」

 ぺこり、とお辞儀をしながら神白は考える。

 私たち以外にもまだ何人か能力者がいる。それが一体どういう能力なのか、そして、どんな人なのか……そして、そんな見知らぬ人に今日のように襲われのかなあということを想像するだけで、体が震える。私は慌てて話の続きを促した。

 「それで、その隕石は一体何なんですか?」

 「ああ。落下したこの隕石はすぐに解析され、地球には存在しない膨大なエネルギーを秘めた超物体だと分かったんだ。その時の研究者たちの驚きぶりはもう、凄かったらしい」

 そう言って乾いた笑いをするが、すぐに真剣な顔に戻り、続ける。

 「そしてついに、このエネルギーの正体がわかった。このエネルギーは、ヒトの身体の内部構造を大きく変え、限界をはるかに越える力を得ることが出来る一種の信号だったんだ」

 「限界を、越える……」

 私は、過去に急激に運動能力が向上し、黒野に襲われた時もバック宙でかわしたことを思い出す。これらは私の優れた運動能力ではなく、他から与えられたもので、『私個人の』力ではない、借り物の力だということだろうか?

 「もちろん、それが分かったとき、研究者たちは手を取り合って喜んだ。人類が、新たなステージに立つことが出来る。皆そう思っていた。

 しかし、とうとう一人の研究者があることに気づいた。足りなかったんだ」

 「えっ、どういうことですか?」

 「このエネルギー  ───研究者たちは《覚醒エネルギー》と呼んでたらしい───そのエネルギーには、量に限りがあった。適切な量を与えれば100%覚醒エネルギーの恩恵を受けることが出来るが、少量だと、確率で失敗するんだ。結果、100%覚醒するようにエネルギーをヒトに与えていった場合、わずか100人くらいが限界だということが分かった。この知らせを聞いた各国の政府は、そりゃあもめにもめたらしい……。こんなすごいエネルギーを手に入れない理由なんてない。よって、各国は最悪の結論を出した。戦争で勝った国だけが、そのエネルギーを独占出来ることにする、と」

 「えっ!……でも、戦争は実際には勃発してませんよね?それに、そんなことがあったなんて、初めて知りました」

 「ああ、社会の教科書を見れば誰にでも分かる。そんなことは起こってなんかいない。そして、今まで知らなかったのも無理はない。アメリカやロシアはすぐに国民に知らせたが、日本は軍事衝突では勝てないと即座に判断し、最初はアメリカを支持。その間に化学兵器を作りだし、最後に裏切ってそれをアメリカにぶちまけるという作戦だったらしい。だから時が満ちるまでは国民には話そうとしなかったんだ。だから、それを知ってるのはその関係者だけだ。実際、私も他の人から聞いた。まぁ、戦争が中止になったんで、作戦は水の泡になったけどね」

 「一体、何が戦争を中止させたのですか?」

 「ああ、それはだな……」

 ちょっと失礼、と言って星村さんはコップに水を注ぎ、一気に飲み干した。

 プハァ!という声とともにコップをたたきつける様子は、まるでおじさんのようで、私は星村さんをしばし見つめていたが、やがて気付かれたのか、赤面しながらごほんごほんと咳ばらいをした。

 「研究者たちは、当然政府の決断に驚いた。そして、このままではいけないと考え、政府の許可ナシで、なんとかこの隕石を処理しようとした。結果出てきた意見は3つだ。一つ目は『落下したのはアメリカの領土内なんだから、アメリカの地域内でエネルギーを拡散する』という案。二つ目は『このエネルギーを危険物と見なし、宇宙に放り投げる等の処置を施してなかったことにする』という案。そして三つ目は、『もう適当にランダムに放出すればいいんじゃないか』っていう案。この討論は3日にも及んでもなお続いていた。そして、戦争開始予定のちょうど1日前に、ついに一人の男が動いた。彼は、みんなが寝静まった頃にひっそりと研究室へ行くと……3つ目の案を実行に移したのよ」

 「ええっ、でもそれやばくないですか!?」

 「ええ、やばいわね。その夜のうちに男は研究所から脱走。残された研究員はみんな解雇され、脱走した研究員は国家反逆として、今も指名手配されているわ」

 「そうなんですか……」

 私は、顔も知らない一人の研究員をひっそりと心配する。どんな気持ちで行動したのかは分からないが、きっとその人には強い思いがあってやったことなのだろう。もし自分が研究チームの一員だったら、どうしていただろうか。きっと、解雇される方になっているに違いない。国家反逆という形にはなっているが、その研究員は自分を犠牲にすることで他の研究員を救ったのではないか、と思った。

 「それでまあ、私たちもその拡散された微小のエネルギーで恩恵を受けることが出来た一人ってわけ!それじゃあ次に話すのは国の戦争じゃなくて、私たち能力者の戦争についてなんだけど……」

 と、そこまで話したとき、夜8時を告げる通知が星村の携帯から鳴る。その瞬間星村さんはさっと携帯の方を振り向くと、神風のごときスピードでそれを手に持ち、アプリを開く。《now roading……》という画面になっているうちに、星村さんは声をあげる。

 「雨切、続きよろしく!」

 ただ、それだけを告げると、星村さんの目は液晶画面に完全に釘付けであった。ここまで集中している人を妨害してまで、星村に話の続きを催促出来るだろうか。いや、出来ない。

 「あいよ、了解」

 そして、さっきまであまりにも静かだったのでその存在をすっかり忘れてしまっていた雨切が、イスをこちら側へと寄せる。

 「わりーな、星村さんはゲームがとっても好きだから、イベントの時間は極力それに参加できるようにしてるんだ。いくら俺たちが能力者でも、もともとは普通の人間。今までの生活は出来るだけ維持出来るようにしておきたいからな」

 なるほど、確かにそうだ。と私は頷く。たとえ私がこれから戦争に参加しないといけなくても、私には学生という表向きの存在がある。逆に言うと、どんなにつらいことがあっても、この表向きでの生活を崩すわけにはいかないのだ・・・

 そんな私の真剣な表情を見て深く頷いた雨切は、少し前までのへらへらしてた顔ではなく、神妙な面持ちで、口を開いた。

 「よし、んじゃあ続きを話そっか。でもその前に……その、なんか、色々とごめんな」

 と、別に故意があったわけでもない出来事のことを謝ってきたので、なんだかこちらがすごく申し訳ない気分になったが、話を聞きたいがために、いえいえ。と、素っ気ない返事をしてしまった。

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