第13話 神白明防衛戦その1

「な、なんだ……!?」

 黒野は目の前の現象がいったい何なのかが全く分からず、呆然としていた。

 仕事をいつもより早く終え、4時半に会社を出た黒野はすぐに行動を開始した。

 黒野たちの誤算は、今日が一般的な学校の入学日で、いつもよりも早く学校が終わるということをすっかり忘れていたということだ。《YURI》からの情報をもとに全速力で駆けつけていると、運良く学校から帰っている新能力者の少女を見つけることが出来た。

 そして、多少の茶々はあったが、やがて戦闘が始まった。

 黒野の能力ケイロンは思うがままに黒野の手元に現れ、久しぶりに使うにもかかわらず、相変わらず正確無慈悲なコントロールで少女を襲った。だが、驚くことに少女はしゃがんだり、バック宙をすることでそれをかわしてのけた。《ケイロン》の放つ矢が見えていたのだろうか?

 けれども、《YURI》の推測通り、少女は能力を一度も発動しない。そしてついに、矢が当たらないことに我慢できなくなった黒野は、矢が拡散する《弐ノ矢》を使うことにより、ようやく少女の身体を射抜くことに成功した。

 初戦にしては、あまりにも相手が弱すぎたな……と、血塗れになっている少女を見ながら、まだ戦い足りてないとでも言うかのように、胸の中の闘志が不完全燃焼を起こしていた黒野の目の前で、予想外のことが起こる。先ほど射抜いて少女の身体が突然光り始めたのだ。光はどんどん明るさを増し、ついには目を開くことすら出来なくなる。

 そして、ようやく光が収まり、視界が回復する。

 少女は、結局あの光を放った後も、倒れたままであった。

 普通なら、このまま出血死するのがオチであろうが、先ほどの光のことが気にかかり、このまま放って置くわけにはいかないと思い、確実にとどめをさせるように、少女の心臓を狙って、1本の矢を一気に引き絞る。

 「……さらばだ、哀れな能力者よ。だが、能力を使わずにここまで生き延びたのだ、十分であろう」

 そういって、放出された矢は、しかし。

 キィン!という甲高い金属音とともにはじかれた。

 「何者だ!」

 黒野は叫び、辺りを見回す。ここら一帯の地域は、《人除けの結界》によって一般人の出入りを完全に封じているはずだ。なので、黒野は、自分の矢をはじいたのが誰かは分からなくとも、それがどんな人なのかは、分かっていた。

 一軒の住宅の屋根から、その犯人は飛び降りてくる。しかも、二人。一人は制服を着た高校生くらいの少年で、もう一人はコートを着た20代くらいの若い女性だった。

 「よう。俺か?俺はあんたみたいな、かっこいい台詞と共に少女を襲って殺そうとしている変態厨二病を倒すもんだ、オーケー?」

 「おいこら、余計に相手を怒らせるようなこと言うな。私達は《EVE》よ。それで通じるよね?それに……ご丁寧に《人除けの結界》まで張ってあったんだから、言わなくても分かるでしょ」

 「……こいつを助けにでもきたのか?残念だが、このまま放っておいても死ぬぞ。あんたらの中に治癒の能力が使える奴がいるなら話は別だが、俺は甘くないからな、お前らを見逃すことは」

 「あーはいはい、長くてめんどくさい台詞を言うのなし!めんどくさいからな。まあ、一つ言っておくとしたら……そのこいつっての、もう一度よく見てみなよ」

 少年に言われ、倒れている少女の方をもう一度見る。そして、再び驚かされる。先ほど穿ったはずの身体の傷は完全に回復しており、血はもう一滴たりとも流れていなかった。

 「ほら、わかった?……というわけで、今のところ俺らの目的はそこの少女の回収だけだ。もしよかったら、この子を見逃して引き上げてほしいんだけど?」

 「調子に乗るな。たかが数の差で勝っているだけで、優劣が決まるとは思うな。お前ら二人くらいなら、すぐにでも殺し、今度こそそこの少女の息の根を止めるまでだ……!」

 黒野はそういって、《ケイロン》が一度に放つことの出来る最大本数である、8本の矢をつがえる。それを見て、これ以上話す余地はないと判断し、相手の方も戦闘態勢にはいる。

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