第7話 学校へ:内進と外進その1
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私が入学した明海高校は、現在新入生も合わせて計578人の生徒が在学している。そのうち、高校1年生は126人いる。この学校は、別段頭がいいとかそういうわけでもなく、だからと言って悪くもない、そんな感じである。
学校の昇降口に入ると、靴を脱いで上履きを履き、それから周りをぐるっと見回す。前方の窓から見える噴水。右側には教室棟へと続く廊下。左側には、管理棟へとつながる階段と、勉強スペースも設けてある図書室。受験の日に一度は見た景色ではあるけど、こうやって余裕を持って眺めると新鮮な感じがしてなかなかいいものである。
私は高校一年生の教室を探す。掲示板には、「教室棟5階」と書いてあった。うへえ、一番上の階じゃん……
私はやっとのことで5階へと上る。正直、毎日教科書を鞄に詰め込んだ状態でここまで上るのは、相当きつい。登校するだけで、体が鍛えられそうだ。
私のクラスである1年D組の教室に入ると、数人の生徒が話しているだけで、他のみんなは静かに座っている。おそらく、話している生徒は、お互いが中学生のころから友達だった人たちだろう。廊下からは、騒がしい声が聞こえてくるが、それは私たち新入生のものではない。中学校からこの学校で勉学に励んでいた、内進生である。
私たちの学校は、中高一貫校である。そのため、A~C組は内進、つまり中学生からこの学校に在学していた生徒たちのクラスで、D、E組は高校からこの学校に在学する、いわゆる外進の生徒たちのクラスである。5階までの階段を上りきると、左右に分かれる廊下があって、右側が外進生の教室、左側が内進生の教室と、はっきりと分かれている。
「はーい、みなさん席について!」
8時35分。担任の先生がやってきて、さっきまで話をしていた生徒たちが席に座る。それを見て、先生はうむとうなずく。
「さすが外進生。例年通り、内進生と比べてすぐにぱっと行動が出来ている。それに比べて今年の内進生は……」
と、後半部分のつぶやきに、私は疑問を抱く。確かに内進生は廊下で騒いではいたけれど、それは内進生がこの学校での生活に慣れていて、友達も多いからであって、仕方のないことだと思うのだけれど……
「始業式でも言われると思いますが、先に自己紹介をしておきましょう。私の名前は、稲田文夫といいます。担当教科は現代文です。これから3年間、みなさんに教えていくことになると思うので、よろしく。
では、早速体育館で始業式の方を始めたいと思うので、みなさん出席番号順に二列で並んでください」
その言葉に従い、生徒は出席番号順でさっと並び始める。私も早く並ばないと、始めから先生に悪印象を持たれてしまうと思い、席を立つ。
「なあなあ。内進生って、なんかしたの?」
「確か、男子数人が竹刀でちゃんばらしてて、窓ガラスを割ったとか」
「……マジ?」
2人の男子生徒による会話が、私の耳にまで届く。なるほど、そりゃあ先生も呆れるよ。まず今日は部活はない。だから、竹刀なんて持ってくる必要はないし、今日は早速試験があるから、ちゃんばらなんてしてる余裕はないのではないだろうか。それとも、内進生はやっぱり頭がいいから、当日に勉強なんてする必要はないのだろうか。……どちらにしろ、あんまり内進生とは絡みたくないなあと、そのときの私はぼんやりとそう思った。
だが、その望みは今日中に打ち砕かてしまうのであった。
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