第4話 登校中のハプニング、その2

「ん……?」

 私は衝撃がこないことに不思議に思い、目を開くと、そこには先ほどまで話していた大河さんの姿はなかった。

 私の眼前に広がっているのは。

 自転車に乗った男が私をひいて、まるで缶けりで跳ばされた空き缶のように飛んでいく光景だった。

 ああ、またか。

 それを見て、私は心の中でそう呟く。

 私は、過去に何度かこの現象の経験はしている。だから、今何が見えているのか分かる。

 この光景は、事実であって事実ではない。

 いわゆる、これから起きるであろう未来の予測とその投影。

 なら、私がするべきことは、この未来を避けるために考えることだけ。

 スローモーションで流れていく時間の中で、私は冷静に考えを処理していく。

 このままでは自転車は私へと衝突する。ならば、避けるまでだ。

 しかし、足がすくんでいて思うように動けず、バランスを崩している。どうやって避けろというのか。避ける事なんて、不可能ではないのか。

 …………いや、足はすくんでいない?

 いつもは映像を見ただけでこの現象は終わってしまうのだが、今回の現象では私の体がある。つまり、視界だけでなく、自分の体、そして感覚すらもこの現象での干渉を受けているということになる。

 私は自分の足を軽くさする。この空間にいる私は、はじめは足が震えていたものの、今は何ともない。

 であるならば、この空間から元に戻ったとしても、私の足は震えてはいないはずだ。なら、私がすべきことは……

 やがて、遅巻いていた時間はためらうように、けれども本来の時間の流れに順応するかのようにゆっくりと加速を始め、遠のいていた意識がしだいに現実へと戻っていく。

 そして、意識が完全に戻ると、私は後ろへと大きく跳躍した。

 その直後、シャアアアアアアッ!という音を立てながら、自転車は私がさっきまでいた場所を通過し、そのまま交差点の中央まで爆走したところで、転倒した。

 「あ、あっぶなー……」

 私は呆然として倒れた自転車を見ている。あんな重さの物体にひかれていたならば、先ほど視た未来のようなことになって、病院行きは免れなかっただろう。

 私には、未来が視える。

 初めてこのような現象が起こったのは、私が中学2年生の頃だった。昼食の時間になって、友達と食堂へ向かう時、急に意識が遠のいたと思ったら、突然意識が遠くへ飛び、「友達が転んで膝をすりむく」という、何とも下らない未来を視た(下らない、なんて言ってしまうのはその友達に失礼ではあるが)。あまりにも下らなくて、最初はぼけーっとしていたから、ついそんな想像をしてしまったのだと思った。

 しかし、その数秒後。その友達は何もないところで派手に転んだ。

 「あー、もう最悪!」

 そう言って立ち上がり、汚れてしまったスカートを叩く。しかし、その時私は見逃さなかった。

 その友達の膝から、うっすらと血がにじみ出ているのを……

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