第2話 スタート
1
私は現在約20万の人々が生活している東京都蔵観市の、とあるアパートに住んでいる。狭くもないが大きくもない、そんなイマイチ特徴のない部屋である。
午前5時。ベッドの横に置いてあるクマの目覚まし時計が、起床を促すアラームを鳴らす。
「うーん……」
私は、睡魔の誘惑に負けることなくベッドから飛び起きる。毎日こんなに朝早くに起きる女子は、恐らくこの辺では私だけであろう。
なんでこんなにも朝早くから起きるのかというと、私は高校1年でありながらも、既に一人暮らしをしているからだ。ゆえに、私は学校生活を送りながら、家事を全てこなす必要があるのだ。
布団を綺麗に折りたたみ、洗面台に立って口をゆすぐ。それが終わると、朝ご飯と昼ご飯を作るためにエプロンを着る……そこには一切の無駄は排除され、まるで機械のようにせっせと作業をこなしていく。
「今日は、卵焼きとベーコン、味噌汁でも作ろうかなぁ。昼には、残りものとサラダ、冷凍食品のハンバーグでいいよね」
そう言って、冷蔵庫を開ける。昨日スーパーに行って二週間分の食材を買い込んだため、一人暮らしの身ではあるが、冷蔵庫の中だけは大家族の家のそれのようになっている。
私はそこから、卵とベーコン、味噌、豆腐、油揚げを取り出す。
まず卵焼きを作る。だし、砂糖、醤油、塩で特製の甘露だしを作る。本当はここに酒を加えたいところではあるのだが、前にスーパーで酒を買おうとしていたのを店員に止められた過去があるため、実現するのはあと数年かかるだろう。
卵焼きは、あのゆるふわっとした食感が私は好きだ。そのため、卵を折り返して形がある程度完成した時、時折ツンツンと箸で卵をつつく。そうすることで、少しでも多くの空気を入れようとしているのだ。
卵焼きを作り終え、今度は味噌汁を作り始める。この時、卵焼きに使わなかった残りの卵を使っていく。とは言っても、卵焼きもそうではあるが、味噌汁はさほど難しい料理でもない。
だし汁を沸かし、豆腐、油揚げを入れる。そしてその後、味噌を入れて味をつける。
そうしたら、中火にして卵を割り、火を消してふたをすること1分。計5分ほどで、味噌汁は作れる。
ベーコンだって、難しいわけではない。ただ焼くだけなのだからテレビを見ながらでも出来るだろう。
耐熱性の皿に紙タオルを3、4枚ほど重ねて敷き、その上にベーコンを置いて電子レンジで焼くだけ。これだけで美味しくなるのだから、科学の進歩とはすばらしいものである。
炊飯器からお椀一杯のご飯をすくい、こうして30分足らずで作った朝ごはんを食べる。うん、今日もちゃんと美味しい。
残ったおかずは昼ごはんで食べるために弁当へ入れ、その後弁当箱に空いた空白を埋めるようにしてサラダ、冷凍食品のハンバーグを入れ込む。 よし、これでご飯の準備は万端だ。毎朝、自分やお父さんの分まで美味しいご飯を作ってくれていたお母さんには、感謝しなければいけないと、こうやって料理を作っていると思えてしまう。
朝の支度を全て終えた私は、ぼけーっと昨日録画しておいた番組を眺める(実は、これが毎日私が早起きする理由でもあったりする)。最後まで見終わってふぅっと息を吐くと、テレビを消して自分の部屋に戻り、時間割とバッグの中を交互に見て忘れ物がないか確認してから玄関を出た。
「よし。それじゃあ、行ってくるね、お母さん!」
これもすっかり慣習となってしまっている。もうすでに青くなっている空を仰ぎながら、私は星となって今も私を見守っているお母さんに挨拶をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます