中居芽衣

「ま、マイティ?」

 電話越しに述べられた紹介に思わず聞き返す。

「うむ、私がマイティマンだ」

 一度スマートフォンに表示された画面を見る。野崎千恵が通話相手だと表示されていた。

「――どちら様ですか?」

「うむ、私はマイティマンだ」

 やはり、野太い声が返ってきた。

「マイティマンってあのヒーローのマイティマンさんですか?」

「そのマイティマンで間違いない」

「どうして野崎ちゃんの携帯に出ているの?」

「うむ、拾った!」

 野太い答えが帰ってくる。

「え、落ちていたのですか」

「声をかけたら逃げられてしまってな」

 マイティマンの容姿を思い出す。無駄にある筋肉を強調するピチピチのボディスーツ。とりあえず、逃げる野崎ちゃんの気持ちは痛いほどわかる。半裸の男に追い回された私でもアレはちょいと刺激が強い。なんていうか酷く圧迫感があって怖いのだ。あれを受け入れられる女性は余程肝が据わっている女性なのだろう。

「その娘が逃げた時に、落としていった」

「それじゃ取りに行きます。今どこにいますか?」

「川崎駅東口辺りだ」

「すみませんが少し、そこにいてもらえません。私も近くにいるのですぐに行けます」

「ではここで待っているよ」

「はい。分かりました。――一つ確かめておきたいのですけど、あのピチピチボディスーツ姿ですか?」

「いや、ビジネススーツだが。それが何か関係あるのかい」

「いいえ、ただ安心しました。今から取りに向かいますので失礼します」

 電話を切ると、亜美ちゃんが私の裾を引く。

「どこかに行くの?」

「うん。ちょっとだけ付き合って貰える?」

「いいけど」

 睦月ちゃんに少し出かける旨のメールをして私達は出かけた。川崎駅にはすぐについた。その中ではちきれそうなスーツの男性はすぐに見つかった。そして、安心する。ボディスーツではなかったことに。

「こんにちは」

 マイティマンはこちらを向くと、おお、声をあげた。

「君はあのニュービーのガールフレンドじゃないか」

「どうもお久しぶりです」

「それに――」とマイティマンが私の後ろに隠れる亜美ちゃんを見る。

「この携帯を落とした娘さんと一緒にいた子じゃないか」

「そうなの?」と亜美ちゃんに確かめるとマイティマンの顔を見て「へんしつしゃ」と呟いた。

「あの娘さんとこの子の誤解を解いてくれないか」

 項垂れるマイティマンさんを見て、同情半分、コスチュームセンス直せばいいのにという感想半分だった。悪い人ではないと思い「野崎ちゃんの方は今度言っておきます」と同情寄りに慰めた。とここであることを思いつく。

「あの、困ってることがあるのですけど手伝ってもらってもいいかしら」

「うむ、何でも言い給え!」

「この子、ある組織に追われているらしいの。だから今日一日だけでも護衛をお願いしてもいいかしら?」

 厚い胸板を叩いて肯定を示される。

「それではどんな組織から守ればいいのかな?」

 亜美ちゃんから聞いた脳とハサミ怪人のことをほぼそのまま伝える。けれどその内容だけでは情報が少ないらしく「他に何かめぼしいものはないのかい」とおかわりを求められた。

「ごめんなさい。それ以外は何も……」

「そうか。それでは一緒に来てもらえないか。紹介したい奴がいる」

「どなたですか?」

「フフフ、情報屋だ」

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