中居芽衣
心配と親密になるチャンスだという意気込みが空回りし、深琴くんを見つけた瞬間私の脳内物質が爆発した。あまりにも安直な例えだと自分でも思う。でもきっと私はそんな安直な人間なのだと思う。大雑把ってよく言われるし。
だから固まった深琴くんの視線が麗しい女性に向けられていたのを見ていて、自分では太刀打ち出来ないと思ってしまった。
儚げな格好良さとでも言うべき魅力をその女性は纏っていた。その女性の周囲はまるで舞台の上にいるようだった。住んでいる世界が違うという言葉ですらもの足りない。同じ世界観なのかすら不安になってしまう、そんな不思議な女性だった。
「久しぶりだね。あいも変わらず人目を引くことをしでかすんだね」
深琴くんに向けられた言葉。二人の関係性の深さを表すような言葉だった。まるで暗に「私のものから離れろ」と咎められている気がした。
「俺はしでかしてねえよ。そういうことが身近で起こるだけだ」
「さすがヒーローともなる人はそういう星の下に生まれるみたいだね」
「別に嬉しくねえよ」
「昔は戦隊ごっこよくしてたじゃないか」
まだ私は深琴くんと密着したままだった。だというのに酷い疎外感を味わっていた。女性の世界の中で私は端役にすらなれないでいた。
「そこのおっさんが助けてくれたっていう人か?」
スーツの上からでもわかるぐらいに盛り上がった筋肉のおじ様が女性の隣にいた。ボディビルダーかプロレスラーをしているのだろうか。何から助けたのかわからないけれど、あのおじ様にひと睨みされたら大概の事件は引っ込んでいきそうな気がする。
「そうだよ。彼は鈴木次郎。君と同じヒーローさ」
女性から紹介された男性は白い歯を見せて笑う。
「やあ! 君がニュービーヒーローか! うむ、いい顔をしているな」
おじ様は両手を腰に当て、ハハハハハと豪快に笑った。
「そちらの娘さんは君のガールフレンドかな? 英雄色を好むというしね、大いに結構!」
娘さんというのが私を指していることを理解するのに時間がかかった。私がガールフレンドということに頬が熱くなる。同時にこの人らは一体何者なんだという疑問が頭の中をぐるぐる回る。
「彼女じゃねえよ。昨日知り合ったんだよ」
あっさりと彼女を否定されて泣きたくなる。少しぐらい否定に戸惑ってくれてもいいじゃないかと泣き言も言いたくなる。
「おや、驚いた。その子は中居芽衣か。君みたいな奴がどうやって知り合ったのだい?」
女性が対して驚いていないような顔で尋ねた。
「そっちと一緒だ。怪人とやらに襲われてたらしいから助けた。それだけだ」
「ふむ、それはいいとしてたった一日で公の場で抱きつくとはなかなか手が早いのだね」
「ち違うわ! こ、これは私が勝手に抱きついちゃっただけで――」
そこで私はようやく言葉を発する。私の喉は震えていた。女性が静かに私を見つめている。睨んでいるともとれる視線に私は恐れおののいた。
そんな中、おじ様が突如「むむ! 怪人の気配がするぞ!」と大声を上げるとスーツの下に着ていたワイシャツごと引きちぎった。すると中からマイティと英語で書かれたピッチリした青地の衣装が現れた。他も脱ぎ捨てると、おじ様は「助けを求める声が私を待っている!」とどこかへ去ってしまった。
呆然とする私と深琴くんに呆れた様子の女性が「これからどうするんだい」と尋ねた。
呆然としたままの私は、何も考えられなかったらしく「うちに来ますか?」と口にしました。性格には口走りました。女性も誘ってしまったことで、先に立つことのない思いがばんばんと私を圧迫したのは言うまでもない。
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