6「拠点の防衛戦」


「そういえば晃人くん。そろそろ教えてもらってもいいかな?」



 それは、バトルの前日。

 ハガーアミューズメントからの帰り道で、バトルに勝とうと誓った後のことだ。

 突然リーナがそんな風に切り出した。



「教えてって、なにを?」


「晃人くんがチームモードをやりたくてしょうがなかった理由。なにか特別な思い入れがありそうだなって、ずっと気になってたんだよねぇ」


「そういやそうだな。沖坂、お前チームモードに尋常じゃないくらい拘ってたよな」


「コートのマジックシューターズの動機って、詳しく聞いたことなかったわね。なにか特別な理由あるの?」


「いや、それはその……」



 三人に言い寄られ、たじろぐ晃人。



「やっぱりなにかあるんだ! 晃人くん、教えてよ~。わたしのことだって、色々教えたんだから。ね?」


「そうね。あたしも色々話したんだから。今度はあんたの番よ」


「マジックシューターズのことだぞ? なにもすげープライベートなこと聞くわけじゃないんだ、それくらい話せよな」


「……参ったな。確かにゲームのことだけど、結構個人的な話なんだよ」



 晃人は観念して、自分の――チームモードに拘るようになった理由を話し始めた。



「俺さ、小学生の時に、すっごく仲の良い友だちがいたんだ。毎日のように遊んで、いつも一緒だった。いわゆる幼馴染みで、親友だった」


「おぉ~、いいね。わたしとヨミちゃんみたいな感じかな?」


「リーナちゃん……! そうだな、私たちみたいだな! っと……こほん。でも沖坂、過去形なのか?」


「……どこかに引っ越しちゃったんだ。クラスの誰にも……俺にも、話さず。突然いなくなったんだ」


「連絡先、交換してなかったの?」


「まだ低学年だったし……そういうのなくても、毎日会えてたから。当然先生たち大人は知ってて、逆に仲の良かった俺が知らなかったことに驚かれた。言うのが辛かったんだろうって、慰めてくれたけど……でも」


「でも……?」


「クラスのみんなも、同じように同情してくれてたんだけどさ。ある日……親友って言っても、そんなもんだったんだなって、影で言われてるのを知っちゃって。そんなことないって、大喧嘩になった」


「晃人くん……」


「それからしばらく経って、そういう突然の別れが珍しいものじゃないってわかってきた。辛くて言えなかったっていうのも、理解できるようになったよ。

 でも……それでもやっぱり、納得できなかったんだ。あいつとの仲を、そんなもんだったで済ませたくない。どうしたらそれを証明できるのか、ずっと考えてた」



 気が付くと、三人とも真剣な顔で晃人の話を聞いてくれている。

 晃人はこの話を、小学校のクラスメイト以外にするのは初めてだった。

 笑われるかもしれない、バカにされるかもしれないと思っていたから。でも……。



「……去年、マジックシューターズの大会を見たんだ。四人チームで戦う姿を見て、これだって思った。チームの強さが、繋がりの強さの証明になるゲーム。これなら――」



 あの大会に参加していたチームは、すべてを共有し強くなっていたと思うから。

 バカにすることのできない、繋がりがあったはずだから。



「大会に出ていたチームのように、俺もみんなと固い絆を結ぶことができれば。――あの時の気持ちに、決着を付けられると思うんだ」



 友情が、そんなもんだった、なんて言わせない。

 もう一度同じくらい強い絆を結んで、強さに変えて、証明したかったのだ。


 ……きっと、この四人ならそれができる。



「そっか……。晃人くんありがとう。話してくれて」


「ま、まぁ、いい話じゃない? そういうことなら、あたしも協力してもいいわよ」


「あれ? 絢萌ちゃん目、赤くない?」


「ない! 赤くないから!」



 慌てて背中を向ける絢萌。

 まさか自分の話でそんな……と、驚いてしまう。



「……なぁ沖坂。一つ聞きたいんだが……大会見て、どうしてすぐにチームを組まなかったんだ?」


「あー……。もう中学三年だったからな。受験控えてたし、やろうって誘っても乗ってくれなくて」



『わりぃな、息抜きにランクとフリーで適当に楽しくやれれば、それでいいからさ。なんかそこまでガチでやるの、必死でカッコ悪いだろ。それに面倒くさそう』



 そんな風に言われて断られたのを思い出す。



「……あ、そういえば試しに友だちとチーム組んで、一戦で解散したことがあったんだった」


「えっ、そうなの?!」


「せっかくだし一回やってみようってなってさ。でもみんなは、その一回でお腹いっぱいだって、すぐに解散になったよ」


「ふ~ん、なんかもったいないわね」


「ねぇねぇ晃人くん、その時チーム名は? もしかして、リンクフォーシューターズだったとか?」


「いやいや、全然違うよ。友だちがもっと適当に付けたんだ。確か……『すきやき定食』だったかな……」


「ぷっ、なにそれ! チームすきやき定食!?」


「しかも、それでお腹いっぱいって、どんなギャグよ!」


「うわ、絢萌……寒いぞ、それ」


「なっ、あたしが考えたわけじゃないでしょ! コートがさっきそう言ってたから思っただけじゃない!」


「あはは……名付けたヤツも、そう言って一人でウケてたなぁ……」


「あたしは別にひとりでウケてないでしょー!」


「あっはははは! 絢萌ちゃんがおもしろーい!」




 この時、どうしてあっさり昔の話をしてしまったのか、晃人は不思議に思っていた。


 でも、今ならわかる。あの頃のことを全部話して、その上で絆を結ぶ。

 それが、魔法使いの頂点への、第一歩だから。



(このチームなら、きっと証明できる)



 そのためにも、まずは――。



 リンクフォーシューターズVSクリスタルマジシャンズ。

 三本目、最後のバトルが始まる。




                  *




『マジックシューターズ、バトルスタート!』



 開幕、コートとリーナは並んで広場に向かっていた。


 二本目のバトルの後、シルバーマジシャンズの面々は、こちらと話をすることなく、真剣な様子で話し合っていた。それを見て陸緒部長は、



『三本目は、向こうも動きを変えてくるはずだ。堅実に相手の出方を見た方がいいだろう。……おそらく、先程よりも厳しい戦いになる。正念場だぞ』



 コートたちは部長のアドバイスに従い、前衛にコートとリーナ、アヤメは奇襲に備えて後方の拠点で待機、ヨミは最初から儀式塔で魔力注入となった。

 広場に行くのが二人だけのため、あまり前に出ずに、拠点を守りながら戦う作戦だ。



「こちら前衛、もうすぐ広場に着く。もし向こうが三人で来てたら、アヤメとヨミ、二人とも前に出てきてくれ」


「了解よ。すぐに飛び出せるように準備してるわ」


「こっちはギリギリまで魔力入れてるぜ」



 二本目のバトルで奇襲を逆手に取り、サオリを浮かせる作戦を使ったため、今回は奇襲が無いんじゃないか、という予想をしていた。だがその裏をかいてくる可能性もある。

 いずれにせよ、奇襲をスルー戦法は相手も対策してくるはず。同じ手は通用しない。

 どう転んでもいいように警戒しておいた方がいい。



「う~ん、なんかちょっと嫌な予感がするよー。後手に回らなきゃいけないからかな?」


「絶対、向こうもなにか仕掛けてくる。それが読めない以上、様子見するしかない。無闇に突っ込んでやられる方がマズイから」


「そうだねー。ふふ、コートくん、前は結構突っ込んでたのにね。それですぐやられてたり」


「そ、それはフリーモードの時で……って、広場出るぞ!」


「おいコート! こういう時のリーナちゃんの勘はよく当たる。気を付けろよ!」


「えっ、わかった!」



 もう広場に出るって時に言われても……今さら作戦を変えられない。

 そもそもどう気を付けろと――。



「あぁっ! そうきたんだ~!!」


「え……嘘だろ、?!」



 シルバーマジシャンズ、四人全員。

 中衛のはずのミツキまで、広場に飛び出しこっちに向かってきた。



「すぐ行くわ!」


「チッ、18%までしか入れられなかった。私も行くよ! 持ちこたえろ!」



 コートたちの報告を聞き、後ろの二人が広場に向けて走り出す。

 到着するまで、コートとリーナで拠点を守らなくてはならない。



「コートくん、裏からこっそり塔にあがって! 上から援護お願い!」


「わかった! ――ハイウィング!」


「あんまり顔出さないようにね!」



 敵に見えないように塔の裏から飛び、最上階の魔石がある場所に入る。

 ここは柱が数本と屋根があるだけで、壁のない吹きさらし。灯台のような感じだ。

 さっきのバトルでは、リング魔法でこの最上階を吹き飛ばし(もちろん魔石はリング魔法で破壊されない)ミツキ先輩を倒した。

 時間的に同じようにリング魔法で吹き飛ばされる心配は無い。狙撃に気を付けながらリーナを援護し、魔石を守るのがコートの仕事だ。

 柱に身を隠し、そっと右手を伸ばそうすると――。


 ドンッドンッ!!



「うぉ! 読まれてた?」



 火属性の通常射撃魔法が二発、柱に直撃する。



(火属性ということは、シンタ先輩か!)



 コートが上に行くと予想して、牽制で撃ってきたのだろう。

 ならばこちらも牽制、素早く地面に向けて撃って、隠れた方がいい。



「ホーミング! 上に行ったよ!」



 正に柱から身を出した瞬間、リーナから警告が入る。目の前に迫る火球。



(ホーミング――ファイヤー!!)



 咄嗟に反対側に跳んで逃げる。

 リーナの警告が無ければ間に合わなかった。

 ホーミングファイヤーが柱に激突し、消えるのを見て安心し――



「――あ」



 バシュッ!!



 ミツキ先輩のダークレーザーが、コートの頭を貫いた。



『敵プレイヤー:ミツキに プレイヤー:コートがやられました』



「すまん! やられた!」


「ううん、わたしが甘かった! 完全に読まれてたよー!」



 シンタ先輩とミツキ先輩で、塔を警戒していたのだ。

 コートが僅かに姿を見せた瞬間にロックし、ホーミングファイヤー。

 避けるのに柱から身体を出したところを狙撃。見事なコンビネーションだった。



「くっ……! 塔に上ったのがバレた時点で、降りるべきだった……」


「反省会は後よ! 切り替えなさい! ――リーナ、広場に着くわ!」



 コートは落ちたが、後ろの拠点から駆けつけたアヤメが到着する。



「アヤメちゃん! ここ、なんとかしたいから、広場に出た瞬間に――」


「了解! 暴れてきなさい!!」



 みなまで言わさず、アヤメが応える。

 広場に飛び出し、



「リフレクトォ、レェーザァー!!!」



 叫び、リフレクトレーザーをばらまいた。

 障害物の少ない広場で跳弾の効果は薄いが、数でカバーだ。

 リーナを集中攻撃しようとしていたマナミたちは、回避に専念する。



「ありがと! この状況、打開するよ!」



 リーナはその隙を逃さず、一気に距離を詰める。

 すぐにマナミ部長とサオリが反応し、リフレクトレーザーを避けながら通常射撃魔法を撃ってくるが、当たらない。


 リーナはあっという間にミツキ先輩の目の前まで迫る。

 咄嗟に、ミツキ先輩は足下にダークタレットを置くが――



「ウォーターランス!」



 ダークタレットごと、水槍がミツキ先輩を貫いた。



『プレイヤー:リーナが 敵プレイヤー:ミツキを倒しました』



「このやろっ!」



 シンタ先輩の声が、リーナの耳に届く。

 広域通信ではなく、EVSで聞こえた声だ。


 フレイムソードで斬りかかってきたシンタ先輩を、リーナは紙一重でかわす。



「ミストバリア! ウォーターランス!」



 同時に飛んできたホーミングファイヤーをミストバリアで防ぎ、すぐさまウォーターランスを撃つ。



「ま、マジかよ?! どんな超反応だ!」



『プレイヤー:リーナが 敵プレイヤー:シンタを倒しました』



「いい加減に、しなさいよっ!」



 今度はマナミ部長の声が聞こえ――リーナの顔が曇る。



「ごめんっ、タイミング合わされた!」



 リーナの正面にマナミ部長。そして、後ろにサオリ。

 本人にそのつもりがあったかどうかはわからないが、シンタ先輩が目くらましになって、背後のサオリに気付けなかった。

 マナミ部長の通常射撃魔法ウィンドと、サオリのヒートレーザーに挟まれて――。



『敵プレイヤー:サオリに プレイヤー:リーナがやられました』



「うぅ、せめてもうひとり倒したかった~!」


「十分だ、リーナちゃん!」



 拠点の塔の前で、ブンと炎のハルバードを振り回す魔法使い。

 ヨミが、前線に上がってきたのだ。



「私が来たからには、拠点は絶対取らせない!」


「……あんただけじゃないからね。やるわよ、ヨミ」



 リフレクトレーザーを撃ったあと、下がって魔力を回復していたアヤメがヨミの横に並ぶ。

 これで2対2だ。リーナの攻撃は打開とまではいかなかったが、イーブンまで持っていくことができた。

 後手に回っていたコートたちにとって、十分な戦果だった。



「よーし、リーナちゃんが復帰するまで守り切るぞ! アヤメ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る