7「中央広場の攻防戦」


 マナミ部長&サオリ、対、ヨミ&アヤメ。


 できれば一人でも倒して攻めのきっかけにしたいと、ヨミは思っていた。

 射程の長い、サオリのヒートレーザーがとにかく厄介だ。連射は無いが、狙撃よりは早い間隔で撃ってくる。これはひたすら避けるしか、ヨミには手が無かった。

 だが、ここでの戦闘が長引いて困るのはマナミ部長たちの方だろう。魔力が切れても、隠れる場所がない。下がるか、横に逃げるかだ。こちらは拠点がある分、やや有利。

 それから、これはお互いに言えることだが、後続が復帰してくる。

 マナミ部長はそれまでになにか仕掛けてくるはずだ。


 そんなことを考えながら戦っていると、突然、グンッとマナミ部長が飛び出してくる。カスタム魔法の移動速度アップを使ったようだ。



「アヤメ、下がれ! 接近戦なら私が――っとぉ!」



 アヤメの代わりにヨミが前に出ようとすると、ヒートレーザー飛んできて動きを制限される。



(私に前に出られると困る? 拠点狙いじゃないのか?)



 マナミ部長はヨミとアヤメ、両方と同じくらいの距離を保って立ち止まる。

 そして身体を捻り、右腕を後ろに回す。まるでリーナがミストバリアを使う時のように――。



(――振り回す? まさか)



「まずい! 跳べ!」



 ビュオッ!

 黄色い閃光が走る。



「っ! こ、これって! あぁ!!」



 マナミ部長の手のひらから伸びる、雷の帯。

 鞭のように振り回され、ヨミは回避できたが、アヤメは避けきれなかった。

 いや、鞭状の雷がビンッと伸び、その尖端が当たってしまったのだ。



『敵プレイヤー:マナミに プレイヤー:アヤメがやられました』



 電気の鞭はアヤメを感電させ、そのまま削りきる。

 すると、マナミ部長の手から鞭が消えた。



「うわっ、サンダーウィップかよ。おい、マナミ部長カスタム魔法変えてきてるぞ!」



 サンダーウィップ。

 手のひらから鞭状の電気の帯を放つ、カスタム魔法。

 一撃では相手を倒すことができないが、相手を感電させ、そのまま当て続けることで倒すことができる。

 倒すまでにやや時間がかかるというデメリットはあるが、振り回すことで複数の相手に当て、感電で一瞬動きを止められるというメリットがある。

 ちなみにこれは、ヨミやシンタの武器創造系魔法とは違う。あくまで鞭状になる射撃魔法という扱い。リーナのウォーターランスもこのタイプだ。



「ああもう、部長が言ってたのに! 意表を突かれたわ!」



 陸緒部長が、マナミ部長はカスタム魔法をいじっていたと言っていた。

 まさか三本目で変えてくるとは。



(私を近付けさせなかったのは、ハルバードと相打ちさせないためか)



 サンダーウィップの射程は、ハルバードよりやや長い。ヨミが少し踏み込めば、ギリギリ届くのだ。

 それを警戒してサオリが牽制してきたのだ。



(まずいな! マナミ部長のサンダーウィップと、サオリのヒートレーザー、ひとりで両方捌くのは厳しい!)



 ヨミは声には出さず、心の中で叫んだ。

 泣き言を漏らすわけにはいかない。

 拠点は死守する。それが、ヨミの仕事なのだから。



「さあ……来るなら来い!」



 ヨミは飛んできたサオリの通常射撃魔法をかわす。

 マナミは魔力を温存しているのか、距離を変えずに様子を見ている。

 おかげでサオリの魔法だけに集中できるが――。



(……通常射撃魔法しか、撃ってこない?)



 疑問に思ったのもつかの間、サオリの手から赤いレーザーが飛んでくる。

 ヨミはそれを避けようとして――。


 ボンッ!


 目の前で、爆発した。



「っちくしょ! お前もか!」



 サオリもカスタム魔法を変えていた。

 移動速度アップを外して、以前アヤメが使っていたヒートボムにしたのだ。

 ヒートボムは射程が短い。通常射撃魔法が届くということは、サオリは距離を詰めていたということ。



(気付くのが遅かった――!)



 爆発は直撃しなかったが、ダメージは食らった。そしてそこへ、



「そう、来るよなぁ!」



 マナミ部長が距離を詰め、さっきと同じ構えをする。

 サンダーウィップが来る。

 ヨミは無理矢理一歩踏み出し、ハルバードを振り上げて――。



「ヨミちゃん!!」



 ――その体勢のまま、真横に飛んだ。



「ミストバリア!!」



 バチンッ!


 ヨミのいた場所にリーナが入り込み、ミストバリアでサンダーウィップを弾く。

 基本の威力が低いサンダーウィップは、防御が可能だ。



「……さすがね。サンダーウィップみたいな軌道の読みにくい攻撃なら、もしかしたらって思ったのに」


「練習の賜物ってヤツですよ!」



 広域通信で話しかけてきたマナミ部長に、リーナが応えた。



「これでまた2対2ですよ! 仕切り直しです!」


「そうかしら? あなたが戻ったということは……」



 マナミ部長の後方、広場にシンタとミツキが姿を見せる。



「こちらも復帰しているということ。これで4対2ね」



 どうやら、まだまだ厳しい戦いが続きそうだった。




                  *




 広場の戦いは、4対2とシルバーマジシャンズが優勢だった。

 アヤメが復帰すれば4対3になるし、なによりリーナは先ほど一人で二人倒している。

 それだけの実力があるのだ。多少の不利はなんとかなる。



(……そう、リーナは言っていたけど)



 マナミ部長の新カスタム魔法、サンダーウィップ。サオリのヒートボム。

 予想外のセッティング変更に、みんなが対応できるかどうか。


 コートはそんな心配をしながら、市街地を駆けていた。目指すは――。



「――っ!!」



 突然、後方から火属性の通常射撃魔法、ファイヤーが飛んできて、慌てて建物の影に隠れる。



「今さら隠れても無駄だぜぇ? コートだろ? そこにいんの」


「……みんな、シンタ先輩に見付かった。場所は、敵陣の拠点と拠点の中間辺り」



 コートが狙っていたのは拠点の奇襲。それも後方拠点。

 広場でみんなが戦っている隙に、復帰したコートが敵陣側に忍び込んでいたのだ。



「うわ~やっぱり気付いて後ろに下がったのかー。判断早いなぁ。ごめんね、引き留められなかったよ」


「ま、先にやられたはずのコートよりも、リーナちゃんが先に戻ってきたからな。怪しまれて当然だ」


「大丈夫、例えあんたがやられても、無駄にはならないわ。シンタ先輩が下がったのなら、あたしが戻れば広場は3対3! 少しでも長くシンタ先輩を引き付けてやられなさい」


「やられる前提で話すなよ……」



 コートは一度深呼吸し、ハイウィングで飛び上がる。

 屋根の壊れた二階建ての建物に入り、窓から右手を伸ばしてシンタ先輩に魔法を撃つ。



「ウィンド!」


「そこだな。ホーミングファイヤー!」



 シンタ先輩は右手から火球を飛ばす。まだフレイムソードを出していなかった。

 コートは避けつつ、ハイウィングで飛んで隣の建物に移ろうとする。



「あっ、くっ……!」



 するとそこへ、狙ったように魔法が飛んでくる。今度は通常射撃だ。

 移ることはできたが、一発食らってしまった。



「お前の動きなんて、お見通しなんだよ!」



 建物伝いに拠点に向かおうとしたのだが、バレバレだったようだ。



(やっぱりこの人、手強い……)



 コートはそっと、窓から外を見る。



「いない……?」



 コートの居場所は割れている。下からあがってきているのか、外に出るのを隠れて待ち構えているのか。

 とにかく、ここに留まっているのは危険だ。拠点から遠ざかってもいいから、一度別の建物に――。


 バキン!!


 外から破壊音が聞こえた。

 見ると、道を挟んで向かいの建物の窓が壊され、そこに――。



「シンタせんぱ――」


「俺が接近戦だけだと思ったら、大間違いだぜ!」



 ――思ってませんよ!


 と返す間は無かった。

 シンタ先輩の通常射撃魔法の連射が飛んでくる。



「う、うわぁ! なんだこれ!」



 思わずそんな叫び声を上げてしまった。

 正面からだけでなく、真上からも火球が降り注いだのだ。



(――ホーミングファイヤーか!)



 先にコートをロックしてホーミングファイヤーを上に飛ばし、時間差で正面から通常射撃。

 狭い部屋の中を必死にかわすが――ホーミングファイヤーを二発、食らってしまう。

 威力が低いホーミングファイヤーだからやられなかったが、あと一発なにか食らえばやられる。



(……ここまでか。なら、少しでも長く引き付けないと)



 アヤメの言うとおりになってしまったのが悔しいが。


 コートが覚悟を決めた、その時。



「ふふふふふふふ! もっとあたしに撃たせてよ~。ばーんって、頭を撃ち抜かせてよ~。さっきの気持ちよかったなぁ。コート君、もういっかい撃たせて欲しいな~。撃ちがいあるよね~」



「……え? この声、ミツキ先輩?」



 突然響く広域通信。その内容にコートはぞわっとした。



「うわ、ミツキのやつ、スイッチ入ったな。そういうのはチーム通信でやれ!」


「す、スイッチって……」



「な、なに? なんなのよあの人! 恐いんだけど!」


「今のミツキ先輩の声だよね? あの優しそうな……研究部の良心みたいな先輩。人格変わってるよー?!」


「気にするな二人とも! 発言はやばいけどな、どうせ狙撃は連射できないんだ! ほら、塔に入っていったぞ!」



「あーあ。わりぃな。こっちは気にせず続きをやるか――って、おいてめぇ!」



 コートはシンタ先輩の意識が逸れた隙を突いて、ハイウィングで飛び出す。

 一気に拠点まで飛ぶ。奪えなくても、少しでもシンタ先輩を自分に引き付けられれば――。



 ――バシュッ!



「……え?」


「あ~やっぱり撃ち抜きがいがある~。マナミちゃんが~、コート君撃っていいって言ってくれたの~」


「ったくお前は、こっちまでヒヤヒヤさせんじゃねぇよな」



『敵プレイヤー:ミツキに プレイヤー:コートがやられました』



(また狙撃でやられた……)



 もう何度目だろうか。ミツキ先輩に撃ち抜かれたのは。

 せっかく、もう少しシンタ先輩を引きつけられると思ったのに。



(……でも、時間稼ぎはできたみたいだ)



「今よ! 援護お願い! リング魔法――!」



 アヤメがリング魔法を発動する。

 補助タイプ、アクセルビート。移動速度アップと身体能力アップ、両方が自分にかかるリング魔法だ。

 しかも、カスタム魔法のそれよりも1.5倍の効果がある。



「――ミツキ!! 飛び降りろ!」



 シンタ先輩の声が響く。

 リーナがサオリを、ヨミがマナミ部長を押さえ、アヤメが広場を駆け抜ける。そしてジャンプで建物屋根にあがり、そのまま塔の最上階に飛び込む。

 ちょうど、ミツキ先輩は塔から後ろに飛び降りるところだった。

 アヤメは気にせず魔石を起動する。



『プレイヤー:アヤメが 一つ目の魔石を起動しました』



「やった、アヤメちゃんナイスゥ!!」


「よくやった!」


「最高だ、アヤメ!」


「ま、まだよ! まだ効果は残ってるんだから!」



 アヤメは少し照れながら、ミツキ先輩を追って塔を飛び降りる。



「このままミツキ先輩を倒してもう一つの拠点も――あっ」


「リング魔法~、ダークカーテン~」



 目の前の道が、真っ暗な闇に包まれてしまう。

 進行不能の闇のカーテン。ミツキ先輩が妨害タイプのリング魔法を使ったのだ。



「……効果切れたわ。しょうがない、迂回して拠点に向かう!」


「おい、サオリが下がった! そっち行ったぞ!」


「ヨミちゃん追って! マナミ部長は――わたしが相手するから!」



 膠着状態だった広場の攻防が動き出した。

 ここからが、正念場だ。

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