第6話「VSシルバーマジシャンズ」

1「マジシュー部と研究部」


「まずはチーム結成おめでとう。リンクフォーシューターズ」



 チーム結成の翌日。放課後、マジシュー部部室。

 座り方は昨日と同じ。入って左側に絢萌、晃人。右側に代未、リーナ。そして上座に陸緒部長。自然とこの席順が固定になりそうだ。


 陸緒部長はチームの結成を祝うと、晃人の方を向く。



「今度こそ、最高の形になったな」


「……はいっ!」



 絢萌が入部して部員が五人になった時も、陸緒部長は同じ表現をした。

 その時はまだチームを組めたわけではなかったから、最高とは呼べなかった。

 だけどこうして、四人でチームを組むことができた。今度こそ本当に最高の形だ。



「では、マジシュー部としてのミーティングを始めるわけだが……さて、なにから話そうか」


「決まってるだろ! 事情を話せ、事情を!」



 陸緒部長が腕を組んだところで、代未が声を荒げた。晃人と絢萌も頷く。リーナだけは、反省会……とぼそっと呟いていた。



「事情か。そうだな、まずはその話をしておこうか。マジシュー部が分裂し、マジックシューターズ研究部が生まれた経緯をな」



 二つの部の確執がなんなのか、晃人たちはまだ聞かされていなかった。

 それなのにいきなりバトルをしろと言われたのだ。よく考えれば――考えなくても――とんでもない話だ。


 勝てば二つの部が統合し、広い部室が手に入る。負ければ陸緒部長は退部しなければならない。

 そんな責任重大なバトルを、まだチームも組んでいなかった晃人たちに託すなんて……度胸があるのか、おかしいだけなのか。



(でも昨日のバトルがきっかけになってチームが組めた、とも言えるんだよな……)



 そこまで考えていた……とは、考えにくいが、なにを考えているのかわからない、底知れなさがある。



「知っての通り、以前はマジックシューターズの部はマジシュー部一つだった。研究部の愛海たち二年生と、三年の優羽ゆうもマジシュー部に所属していた」


「三年生って、あの眼鏡かけた人よね。部活紹介の時に、愛海先輩の横に立ってた」


「そうだ。くぬぎ優羽、僕のチームメイトだ」


「おぉ~チームメイト! そうなんだぁ。……あれ? それなのに研究部の方に行っちゃったんです?」


「あぁ~……」


「リーナちゃん。そこはつっこまないでやるのが優しさだと思う」


「そうよ、そっとしておきましょ」


「……君たち、なにか勝手な想像をしていないか?」



 乾いた笑いを浮かべて目を逸らす一年生一同。

 部員みんなに見捨てられたのか、と考えてしまったなんて言えない。



「でも、椚先輩はチームに入らなかったんですね」


「あいつは宣言していたからな。去年の大会が終わったら、受験に専念するからチームを組まないと。まだ二年生だったというのに、気の早い」



 ゲームのせいで受験勉強を疎かにする方がどうかと思うが……。

 気が早いと考える部長の気持ちもわかる。自分だったらそんなに早くから勉強しないだろうし、マジックシューターズを辞められるとも思えない。



「陸緒部長! 前大会の時はどういうチームだったんですか? 今の二年生たちもいたなら、人数が合わないですよねー?」



 今の研究部から沙織を抜いて、陸緒部長を入れると五人。チームを組むと一人余ってしまう。つまり……。



「卒業した先輩たちが三人いてな。マジシュー部には2チームあったのだ」


「おぉー! 2チーム体勢!」


「僕のチームは『クリスタルマジシャンズ』という名前で、優羽の他に先輩が二人いた。もう一つ、愛海たちのチームは先輩が一人ついたチームだった」


「そういえば沙織は、引退した先輩の穴埋めでスカウトされたんだったわね」


「陸緒部長のチームは、先輩たちが卒業してチーム解散、ですか?」


「いいや晃人君。解散はもっと早い。去年の夏、大会が終わってすぐのことだ。優羽と同じく、先輩たちも引退した」


「部活動じゃよくある話だよな。夏の大会で引退して代替わり」


「うむ。さすがに高校三年生の夏に、ゲームばかりやってるわけにはいかないからな」



 引退した先輩たちが三人。同じタイミングで、優羽先輩も引退している。すると人数は……。



「あれ? 部長、その時点でマジックシューターズを続ける部員は四人ですよね? その四人でチームを組まなかったんですか?」


「あ、そうだよねぇ。残った今の二年生三人と、陸緒部長でチーム組めるのに!」


「それが自然な流れよね」


「今の状況を見るに、入らなかったんだな? 愛海部長のチームに」



 一年生のそれぞれの反応に、陸緒部長は肩を竦めてため息をつく。



「どうも誤解があってな。愛海たちはそうなると思い込んでいたようだが……僕は一度も、先輩たちが卒業したら愛海のチームに入るなんて言っていない。約束した覚えもない。

 そんな風に言ってチームの誘いを蹴ったら、愛海がブチギレた」


「ブチギレって……」



 あのクールな愛海部長が……。

 と思ったが、昨日陸緒部長のことをバカバカ言っていたのを思い出し、別におかしくないなと思い直す。



「それはブチギレるよ~。陸緒部長、なんで入ってあげなかったんですか?」


「リーナちゃんの言う通りだな。なにか理由があったのか?」


「逆に問おう。何故、自然な流れだからと言って、入らなければならない? 僕の意志はどうなると言うんだ」


「え……いや、同じマジシュー部部員だったわけですよね。それでも組まなかったって、よっぽどのことだと思うんですけど。もしかしてケンカでもしてたんですか?」


「いいや。普通のケンカはするが、深刻なものは無かったな。むしろもう高校生だというのに、愛海は僕のあとばかりついて回っていてな」


「そ、そうですか。じゃあ、どんな理由があったんですか? 陸緒部長の意志は、どうすることだったんですか?」


「理由か。うむ、至ってシンプルな理由だぞ」



 陸緒部長はその場に立ち上がり、拳を作る。



「入りたくないと思ったからだ! それ以上でも以下でもない!」



 その堂々とした宣言に――晃人たちは、開いた口が塞がらなかった。



「……って、理由になってないじゃないですか!」


「どうして入りたくないかを聞いてるんだぞ!」


「そう感じた。そう思った。理由としてはそれだけで十分だろう。

 例えば……代未君。もしチームが解散になり、君はリーナ君のいないチームに入らなければならない。そうなったらどうする?」


「は? そんなの入るわけねぇだろ。リーナちゃんがいるところに私は行く!」


「それと同じだ。僕は、愛海たちのチームに入りたくないと思った」


「あの……もしかして、愛海部長にも同じ事言いました?」


「もちろんだ。……顔を真っ赤にしてキレていたが」



 火に油だ。そんなこと言われたら、どんなに冷静な人でも怒ると思う。



「なぁ、私この部に入ったこと後悔してきたんだが」


「愛海部長かわいそ~……」


「根が深いな……。陸緒部長のせいで」


「本当よ。悪いのはこの部長じゃない」



 それぞれが遠慮無く感想を漏らすが、最後に絢萌が「でも」と付け足し、じっと陸緒部長を見る。



「……ねぇ。もしかして、それまで組んでいたチームに、があったの?」


「むっ……」



 陸緒部長は目を瞑り、椅子に座り直した。



「……まぁ、そうとも言う」



 あぁ、それならわかる。と、晃人は思った。


 優羽先輩と卒業した先輩たちで組んだチーム。

 クリスタルマジシャンズに、未練があるから。


 解散したくないと、思っていたのかもしれない。

 そんな状態で新しいチームに入るなんて、できなかったのだ。



「クリスタルマジシャンズは……最高だった。優勝は逃したが、きっと不可能ではなかった。僕は今でもそう思っている」


「……それ、愛海先輩に言ってないの?」


「うむ。言う必要がないからな」


「ええ~!? 愛海部長、絶対誤解してますよー? 今の話をすれば、わかってもらえるのに!」


「いいんだ。君たち、今の話、勝手に愛海に話したりするなよ? いいな?」


「む~……」



 明らかに納得いかない様子のリーナ。

 晃人も、どうしてその話をしないのか、わからなかった。

 けどそんな風に口止めされてしまっては、どうしようもない。

 晃人たちが勝手なことをしていい問題ではなかった。



「ふん。しょうがないな。で? それで大喧嘩して部が分裂したのか?」


「そういうことだ。しばらくはマジシュー部として活動していたが、内部ではすでに分裂していたな。冬になる頃に愛海が研究部を立ち上げて、ごっそり移籍していった」


「椚先輩も、一緒に行っちゃったんですね」


「まぁ……な。優羽はしばらくフリーモードで愛海たちの練習に付き合っていた。新一年生の椎名君が入ってからは、アドバイザーとして研究部に残っている」


「アドバイザー……ですか。それって」


「ああ、今の僕と一緒だ。優羽が愛海たちを教えるのなら、僕は君らを指導する、になろう」



 陸緒部長はそう言うと、再度立ち上がる。



「僕らが大会に出て得た知識と経験を、君たちに伝えたい。そして頂点を、取ってきてくれ!」



 一年生四人は一度顔を見合わせて、陸緒部長に向けて力強く頷いた。



(必ず、取ってみせますよ)



 魔法使いの頂点――。

 そこは、リンクフォーシューターズが目指す場所だ。




「……そうだ、陸緒部長。最後に一つだけ、聞いてもいいですか?」


「構わないぞ、晃人君。なんだ?」


「部が分裂した経緯はわかりましたけど、だったらどうして、今になって統合の話を出したんですか?」


「あぁ、そのことか。それなら昨日言っただろう?」



 陸緒部長は口元に笑みを浮かべ、



「指導するのに、広い部室が欲しかっただけだ」



 そう言って、背中を向けてしまうのだった。

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