2「たのしい反省会」
「さて、次は昨日のバトルの反省会だな」
「待ってましたー!!」
陸緒部長が宣言すると、リーナの顔がぱぁっと明るくなり、立ち上がってバンザイをした。
「リーナちゃん、落ち着いて」
「よほど反省会がしたかったようだな」
「当然ですよ! あのバトルで思ったこと、早くみんなと共有したかったから!」
「リーナちゃん、マジックシューターズやった後っていつもそうだよな」
「うん! 終わった後にバトルの感想や反省会をするの、すっごく楽しい! それが次に生かせたら、もっと楽しい! これってマジックシューターズの醍醐味だよね!」
晃人には、リーナの言いたいことがわかる気がした。
いままでそういう話をする相手がいなかったが、誰かと話ができればマジックシューターズがもっと楽しくなるのにと、思っていたのだ。
「よし。ではまず、僕が客観的に見て感じたことを話そうか。ちなみに君たちの戦いは、筐体の端にあるモニターで見させてもらった」
「えっ、あ……そういえば、そんなのもありましたね」
プライベートモードは通常、正面の巨大観戦モニターには映し出されない。
代わりに、設定すれば端にある普通のサイズのモニターに映せるのだ。
最近は何度かプライベートモードを使っているが、それまでは殆ど使ったことがなかったから、細かい仕様を忘れている。
「まず最初の展開だが、奇襲を警戒して絢萌君が下がったのは良かったな。あのフィールド、正面のぶつかり合いも大事だが、左右からの奇襲を一番警戒しなくてはならない」
「うん! 正面が二人だったからね、奇襲ありそうって思ったんだよ」
もっと言えば、機動力があるはずの沙織が中央にいないと、リーナが気付いたからだ。
単に奇襲を警戒しただけでなく、沙織が仕掛けてくると推測したのだ。
しかしそれは、EVSで得た情報で判断したこと。陸緒部長には話せなかった。
「なるほど。通信は聞こえないからな、リーナ君の判断だったか。さすがだ。……が、その後はどうかな?」
「うっ……わたし、色々と読みが甘かった……です」
しょんぼりとするリーナ。
おそらく一番気にしているだろう、中央での攻防のことだ。
「狙撃、ミストバリアで防げると思ったんだけどな~。強度をさらに高めておいたし。相手のスナイプ、どれだけ威力高めてたのかなぁ」
「美月君のスナイプは、魔力消費度外視で威力を最大まで上げているぞ。どんなに強くしてもミストバリアで完全防御は無理だろう。……いや、普通なら貫通してそのままやられているな」
やられなかっただけマシ、ということだろう。
ミストバリアの強度を高めたのなら、判定はさらに短くなっているはず。リーナの反応速度、タイミングは神がかっていた。
「うわ~……。じゃあ最初からわたしに狙いを絞ってたんだね」
「そういうことだな。二発目を撃つには、魔力をかなり回復させなければならない。時間がかかるんだ。申し訳ないが、晃人君よりリーナ君の方を警戒していたのだろう」
「い、いえ、わかってますよ。はい」
ショックというよりも、自分が狙撃されなかったのはそういう理由だったのか、と納得していた。
先に晃人を撃っていたら、リーナを止められなくなる。
「でも愛海部長すごく冷静だったよ。あの撃ち合いの最中に晃人くんに一発当てたし、わたしがミストバリアで狙撃を防いでも、驚かずに冷静に照準を合わせてた。もし完全に狙撃を防げたとしても、倒せなかったかも」
「椎名さんから聞いてたんじゃないか? ミストバリアのこと」
「そうかもだけど~……でもなぁ、たぶんそれ以前の問題だよ」
「それ以前?」
晃人は首を傾げるが、陸緒部長はうむ、と頷く。
「リーナ君。晃人君がやられた時に、後ろに下がるべきだったな」
「そう! 三対一になってたからね~。新太先輩は下にいたけど、通信聞いてすぐに上がってきただろうし……追尾火の玉もあった。わたしは拠点まで戻って、籠城するべきだったなぁ。
だからあの時の敗因は、わたしが枚数不利で突っ込んじゃったから、なんだよね」
「……なる、ほど」
思いもしなかった答えに、晃人は今度こそショックを受ける。
自分の状況判断の甘さと、それを思い付くための経験とセンスが足りないのだと、思い知った。
「新太君は晃人君の誘いに乗って川に下りて来たが、愛海からの援護が期待できたからだろうな。実際それで助かっている。その愛海も、美月君の狙撃があるからこそ、晃人君に気を回せたのだ」
「チームワーク、ってことですね……」
お互いがお互いの状況を常に見ていて、援護ができるようにしていたのだ。
チームを組んでもいなかった晃人たちでは、歯が立たないわけだ。
(ハイウィングで橋の上に出た後、新太先輩を攻撃するのではなく……リーナと一緒に、愛海部長を攻撃するべきだった)
結果論かもしれない。だが、新太先輩が晃人のことを見失っていたのは間違いない。
空にいる晃人は狙撃されるかもしれないが、そうなればリーナが狙撃を気にせず戦えるようになる。違う結果になったはずだ。
「だが気になったのは、さらにその後だな。晃人君と絢萌君の動きが止まっていたが、なにかあったのか?」
「えっ、い、いや、なんでもないです」
「そ、そうよ。特に意味はないわ」
頭痛に襲われた時のことだ。
説明のしようがなく、慌てて誤魔化すが……。
もうちょっと上手くやれよ、という目で代未が睨んできた。
「ふむ? まぁ……いいか。
拠点は最後までよく守ったと思うが、打開はできなかったな。せめて一つでも、拠点が取れていれば違ったんだが」
相手は魔力60%まで溜めると、四人全員前に出きた。もし拠点を一つ取れていれば、相手は最低でも76%溜めないと負ける可能性がある。全員で攻め上がるのが遅くなり、打開のチャンスがあったかもしれない。
「そうなんですよね~。完全に押さえ込まれちゃいましたよ」
「仕方ないわよ。中央に抜けられそうなタイミングに限って、誰かしら落とされていたから。結局、向こうの拠点までたどり着けなかった。あれはたぶん……」
「敵の作戦だな。誰かが落とされそうな時は一人を集中攻撃し、少しでも相手の打開を難しくする。そしてそれ以上落とされないよう、引き気味に戦う。愛海たち……特に二年生三人は、それが徹底されていた」
「それって、沙織はまだそこまでできていなかったってこと?」
「二年生に比べると、な。あまり味方の動きに気を配れている感じではなかった。まぁあの三人は年期が違うし、椎名君自身がかなり強かったから、問題にはなっていなかったが」
「ふふん、でしょうね」
絢萌はどこか誇らしげに鼻を鳴らす。
元チームメイトが褒められて嬉しいのだろう。
(それにしても……そこまで考えて戦っているんだな)
そんな作戦だったなんて晃人にはまったくわからなかったし、言われてもそうだったのかどうかわからない。
一応スマホに自分視点の動画は撮ってあるから、後で見直してみよう。
「はい! 陸緒部長! 研究部のメンバーの、魔法のセッティング傾向とかあれば教えてください!」
「いいだろう。ではまず、愛海からだな」
陸緒部長がそう言うと、代未が鞄からノートを取り出し、メモの準備をする。
……意外と几帳面だ。
「基本属性は風。カスタムは移動速度アップと……サンダーショット、弾速の速い魔法だ。しかしどうも最近カスタムをいじっているみたいでな。今は違うかもしれん」
「そういえば昨日、殆どカスタム魔法使ってなかったような」
「移動速度アップはよく使ってたけどねー。でもわたし、一回だけサンダーショット食らいましたよ! 今も変えてないんじゃないですか?」
「む、そうだったか。ならいいんだが、アプリでカスタムしているのを見かけたのは間違いない。次のバトルで変えてくる可能性も考慮しておこう。
あとは……リング魔法か。これは攻撃系だな。基本的に愛海は、機動力を生かした戦い方を好む。前衛向き、リーナ君や椎名君とタイプが近いな」
「ふむふむ、なるほどなるほど」
リーナが身を乗り出して頷く。その隣で、代未は真面目にノートを取っている。あとで見せてもらおう。
「続いて、松行新太。基本属性は火。カスタムは知っての通り、フレイムソード。巨大な炎の大剣を創り出す魔法だな。それから、追尾性能のあるホーミングファイヤー。チャージすることで、弾数を五発まで増やせる魔法だ」
「あれ、結構厄介ですよね……」
晃人はあの魔法に煮え湯を飲まされているからわかる。フレイムソードに目を奪われがちだが、ホーミングファイヤーがとんでもなくいやらしい。
「武器創造系魔法、いわゆる武器使いは、カスタムに身体能力アップや移動速度アップを入れる人が多いんだがな。新太君はホーミングファイヤーで攻撃の隙を埋めている。ああ見えて、バトルに関しては意外と冷静でクレバーだ。あのチームの中では、一番の曲者かもしれないぞ」
「……それも、わかる気がします」
なんだろう、はっきりと言うことはできないが、リーナや愛海部長とはまた違った強さがある。
「リング魔法は攻撃系。前線で暴れて敵陣を荒らすのを好むタイプだ。
次は……二条美月。基本属性は闇。カスタムは高威力のスナイプ、ダークレーザーだ。さっき説明した通り、威力最大、魔力消費も最大のピーキーなカスタムだな。掠っただけでも危険なダメージを負うぞ」
「燃費悪いし、なかなかそこまで極端なカスタムは珍しいな~。使いこなせてるのがすごいよ!」
「もう一つのカスタム魔法は、固定砲台……通称タレット。敵に反応し、一定時間魔法を撃ち続ける、ダークタレットだ」
「あの嫌らしいヤツなー。私あれ苦手なんだよ」
タレット系。固定砲台魔法。
好きな場所に仕掛けることができる、トラップのようなものだ。
どれくらいの時間撃ち続けるかどうかは、カスタム次第。
発動前でも後でも、通常射撃魔法を二発当てれば破壊可能だ。
防衛、囮に便利な魔法だが、設置の際に消費した魔力は、タレットが壊れるか魔法を使い切るまで回復しないというデメリットがある。
「……って、ただでさえダークレーザーで魔力使うのに、さらにタレットですか?」
「うむ。そこが彼女の恐ろしいところだな。ちなみにダークレーザーを撃つには、タレットは二つまでしか設置できないはずだ。覚えておくといい」
「へぇ、それはいいことを聞いた」
嬉々としてメモを取る代未。本当にタレット魔法を相手にするのが苦手なのだろう。
「リング魔法は妨害系をセットしていることが多いな。彼女は典型的な中衛型だ。二つのカスタム魔法で拠点を守る。だが……攻めるときは意外と前に出てきたりするから、気を付けろよ」
「動き回るスナイパーって、結構厄介なんだよね~」
「あとは新メンバー椎名君だが……彼女は君たちの方が詳しいだろう?」
「そうね。……沙織のカスタム魔法が移動速度アップだったのって、愛海先輩に合わせたのね」
「移動速度アップか。足並みを揃えるためにカスタムを合わせるのはありだな。おそらくあの二人が最速で前線を押さえに行くのが、いつものパターンなのだろう」
「昨日は、椎名さんが奇襲をかけてきましたね」
「うむ、当然そういう使い方もできる。特に市街地フィールドは中央に気を取られやすく、横からの奇襲が刺さりやすいからな。機動力のあるどちらかが奇襲に回るのはありだろう」
「奇襲、か。逆に俺たちが奇襲をかけるとなると、一番機動力があるリーナだけど……」
「リーナ君が中央に行かないのは、警戒されて成功率が下がるな」
「ですよね、リーナは目立ちますし。じゃあ、神津原さんかな」
「うん? まぁあたしでもいいとは思うけど、あんた……」
「奇襲、晃人くんでもいいんだよ?」
「えっ、お、俺? 俺じゃあ奇襲しても……」
「おいおい、そんな弱気じゃ困るぞ。奇襲をするかどうか、作戦を詰めるのはこれからだが、前衛の晃人くんが奇襲に回るのはアリだ」
「……すみません、そうですよね」
陸緒部長の言う通りだ。
あまり気にしないようにしていたが、四人の中で一番弱いというコンプレックスが、無意識に出ていたらしい。
「晃人君。僕は君の気持ち、わかっているつもりだ。一年前、クリスタルマジシャンズで一番弱かったのは僕だっただろうからな」
「陸緒部長……」
「安心しろ。君が奇襲役を務めるという、選択肢を増やすために。僕がいる。二週間で君たちを強くするのが、僕の役目だからな」
「……はいっ! よろしくお願いします!」
二本目のバトルまで、二週間。
その間にコンプレックスを払拭し、胸を張ってみんなと並べるようになる。
それが今の、晃人の目標だ。
「よし、では早速練習に行くとするか」
「やったっ! 筐体空いてるといいな~」
「筐体? リーナ君、行くのはハガーアミューズメントではないぞ」
「えぇ? そうなんですか? でも練習に行くんですよね? ハガーアミューズメントじゃないって??」
「そうよ。他にどこに行くのよ」
「それはだな……」
陸緒部長は振り返り、窓の外を見上げる。
「今日は天気が良い。屋上に行くぞ!」
『お、屋上~?!』
四人の戸惑いの声が、綺麗に揃った。
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