7「スタートライン」


「はい! そこまでだ! その手を離せ沖坂ぁ!!」


「って、うおおお! わっ、渡矢さん?!」


「えぇ、代未ちゃん? それに絢萌ちゃんも?」



 リーナと握手をした直後。

 怒鳴り声に振り返ると、ずかずか歩いてくる代未の姿があった。

 後ろの街路樹には、隠れていたのか気まずそうに顔を出している絢萌もいた。心なしか頬が赤い。



「二人とも、どうしてここに……? ていうか、いつからいたんだ?」


「いいから手を離せ、沖坂!」



 代未が強引に手を引っ張って、晃人とリーナの手を離す。

 晃人は少しだけ、名残惜しい気がした。



「はぁ……ったく。私はたまたま、リーナちゃんが慌てて出かけていくのを見かけたんだよ。家、隣だからな」



 そうなのか、と、家が隣同士なことに驚く。

 幼馴染みとは聞いていたが、それは初耳だった。



「それってヨミちゃん?! ずっとつけてたの?」


「つ、つけてたっていうと、ちょっと違うぞ? さすがに家の中だったからな。慌てて出たんだけど見失ったよ。だからハガ―アミューズメントに行ってみたんだ。もしかしたらって思ってさ。そしたら、ちょうど沖坂と一緒に筐体に入って行くところだった」


「あ、あたしは、代未に呼び出されたのよ。……まだ、あの辺でブラブラしてたから」


「へ~。代未ちゃんも絢萌ちゃんと連絡先交換してたんだねぇ」


「むっ……まあな。ってそれはどうでもいいんだよ。とにかく、フードスペースで二人が出てくるのを待ってたんだ。そしたら突然、リーナちゃんが筐体から飛び出してきて、沖坂が追いかけて行っただろ? 私らも慌てて後を追ったってわけだ」


「あたしなんて、着いてすぐだったのよ? もうわけわかんなかったわ」


「……ということは、ほとんど最初から、俺たちの会話聞いてたのか?」


「当たり前だろ」


「うっ……その、なんかごめん」



 それがどうしたという態度の代未。

 対して申し訳なさそうに謝る絢萌は、やっぱり顔が赤い。

 ……晃人は、だんだん恥ずかしくなってきた。



「おい、沖坂」



 しかし代未の真剣な声に、晃人は気を取り直す。真っ直ぐ向き合った。



(……そうだ、まだ渡矢さんがいた)



 リーナがランクモードやチームモードをやることに、強く反対していた代未。

 まだ彼女の説得が残っている。



「一つ、聞かせろ」


「……なんだ?」


「確かにお前の言う通り、マジックシューターズ全体のレベルが上がったおかげで、リーナちゃんへの暴言は減ったのかもしれない。EVSが才能の一部だって話も、まぁ納得してやる」


「渡矢さん……!」


「だが! これからも、リーナちゃんが色々言われることに変わりはない。減ったと言っても、ゼロじゃあないんだよ。リーナちゃんが本気でやるって言うのなら、むしろ嫉妬は増えるかもしれないんだぞ」


「それは……そうかもしれないけど」


「そうなった時、お前はなにかできるのか?」


「……俺が?」



 代未がじっと、晃人の目を見る。睨むのではなく、見極めようとしている。

 晃人の覚悟を。


 晃人は一度深呼吸してから、代未の言葉に応える。



「そうだな。……リーナに暴言が集まらないように。俺が、隣で強くなる」


「お前が、強くなる?」


「俺もリーナと同じくらい強くなれば、暴言を吐かれるくらい強くなれば――盾に、なれるだろ?」



 代未はその言葉に、ハッとして驚いた顔を見せる。



「晃人くん、それ……ヨミちゃんが――」


「リーナちゃん」



 リーナがなにか言おうとしたが、代未が名前を呼んで遮ってしまう。



「だったら今ここで、約束しろ。リーナちゃんの隣りに立てるくらい、強くなってみせると。……そしたら認めてやる。リーナちゃんがお前のチームに入るって言うなら、私も入ってやる」


「わかった――ん?」



 返事をしようとすると、横からくいっと袖を引っ張られた。

 見ると、リーナが心配そうな顔で晃人を見上げていて、思わず笑ってしまう。


「リーナ、そんな顔するなって。ショックだなぁ……」


「えっ、あっ、わたし、そんなつもりじゃなくって」


「大丈夫。さっき、誓っただろ? 一緒に、最強の魔法使いになる。それと同じことだ」


「……うん。そうだね。ごめん、晃人くん」



 晃人は代未に視線を戻し、真っ直ぐ見つめて応える。



「約束する。強くなって、リーナの隣りに相応しい魔法使いになってみせる」


「……ふっ。忘れんなよ、絶対に!」



 ばん! と代未は晃人の背中を思い切り叩く。

 正直強すぎて、よろけてしまい。

 晃人は三人に笑われてしまうのだった。




「それじゃ、正式にチーム結成ってことね?」



 絢萌が近付いてきて、四人で向かい合う。



「そうだな。……よかった。この一週間、色々あってさ。絶対この四人でチームを組みたいって、思うようになってたんだ」



 晃人の言葉に、リーナたち三人が小さく笑う。



「わたしも。ずっとチームを組むことはないって思ってたけど、チームモードを本気でやるなら、この四人がいい」


「あたしは、一度チームがダメになって、それでも諦めきれなかった。……再スタートを切るなら、この四人がいいわ」


「ま、私はリーナちゃんがいればそれでいい。もっとも、リーナちゃんと組むのを認められるのは、お前ら二人だけだけどな」



 代未の言い方に、今度は晃人たち三人が笑った。



「それで? リーダー。チーム名はどうするのよ?」



 絢萌がとんでもないことを言い出した。

 視線が集まり、晃人は思わず仰け反ってしまう。



「り、リーダー?! 俺が?」


「当たり前だろー。沖坂が発案者だろ」


「そうよ。あんたが一番やりたいんでしょ? チームモード」


「わたし、晃人くんがリーダーでいいと思うな!」



 実力的には、四人の中で晃人が一番下だ。

 でも笑顔でそう言われてしまっては――やるしかない。



「わかったよ。じゃあ、俺がリーダーってことで」


「やったっ!」



 リーナが嬉しそうに拍手をし、絢萌は控えめに。代未は腰に手を当てて満足そうに頷く。



「あとはチーム名か……」



 チームの登録をする際、必ずチーム名を決めなければいけない。

 結構これで悩むチームも多い。逆に、フィーリングでパッと決めてしまうところもあるそうだ。



「実は、考えていたのがあるんだ。もしこの四人で組めたらって思った時に、ふっと頭に浮かんで」


「ほおー? どんなのだ?」


「ダっサいのは嫌よ?」


「聞かせて聞かせて! 晃人くん!」


「あ、あんまり期待されると、恥ずかしいんだけど……」



 晃人は咳払いをし、その名を言う。




「リンクフォーシューターズ」




 三人とも、一瞬驚いたような顔を見せ――



「いいね! いいよ晃人くん、かっこいい!」


「まぁ……悪くないわね」


「ふん、いいじゃないか? それで」



 ――笑って、認めてくれた。




「ねぇ、みんなっ!」



 リーナが真ん中に手を伸ばす。すると、代未が嬉しそうに手を重ね、絢萌も笑って同じように手を置く。

 そして最後に、晃人が一番上に手を重ね、みんなの顔を見て頷いた。



「よしっ。今日から俺たちは、『リンクフォーシューターズ』だ!」



 ようやくだ……。ようやく、スタートラインに立つことができた。

 チームを組んで、大会優勝を目指す。

 魔法使いの頂点へと続く道の、入口に立ったのだ。

 まだ一歩も踏み出せていないけど、それでも――。


 リンクフォーシューターズ。繋がる四人の魔法使い。


 この名前を、すべての魔法使いの記憶に残す。

 最強を目指す戦いが、いまここから始まるのだ。

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