第4話「強くなりたい理由」
1「一対一のバトル!」
「なによ、口ほどにもないじゃない!」
「うるせー! くっそ、いやらしい攻撃ばっかしやがって!」
巨大な石があちこちに転がっている、採掘場フィールド。
岩から岩へ移動しながら、アヤメの攻撃をかいくぐるヨミ。
アヤメの通常射撃魔法は光属性。短いレーザーのような魔法だ。
ヨミの移動を先読みして魔法を撃ち込む。いわゆる偏差射撃が上手い。それを凌ぐヨミもすごいが、さすがに全部は避けられなかった。おそらくあと一発でも食らえばやられてしまうだろう。
「このっ……ストーンエッジ!」
土属性通常射撃魔法。鋭く尖った石がアヤメを襲う。
「その射撃をあたしが回避をするタイミングで……突っ込んでくる、と」
「くらえ! ハルバート、一閃!!」
ヨミはカスタム魔法で巨大な炎のハルバートを創りだし、アヤメに突進。薙ぎ払おうとする。
だがそれは読まれていた。ヨミの足下が眩しく光り、キンッという甲高い音がする。
「しまった、跳弾――」
「リフレクトレーザーよっ。何度も見せていたのに、迂闊ね!」
アヤメのカスタム魔法は、光属性の通常射撃魔法をカスタムしたものだ。障害物に当たると跳弾するようにカスタムしている。それを地面に向けて撃ったのだ。
『敵プレイヤー:アヤメに プレイヤー:ヨミがやられました』
「くっ……そう……! 私が負けるなんて……」
「すごーい、アヤメちゃん! 本当に強いんだね!」
「と、当然よ。ランクモードのSランクなら、これくらい普通なんだから!」
「っ…………!」
アヤメの言葉に、コートは崩れ落ちそうになる。
ヨミの前にアヤメと戦い、跳弾の対処がまったくできずにやられてしまったのだ。
EVSも発現していたのに、それでも手も足も出なかった。
(つまり今の俺は……まだまだSランクにはほど遠いってことか?!)
「さあ、あとはあなただけよ、リーナ! 勝負しなさいっ!」
「よーっし、二人の仇を取らないとね!」
アヤメの魔力回復を待って、リーナが飛び出していく。
同時に、復帰したヨミがコートの側までやってきた。
「はぁ~、まだあと2分以上あるのかよ。くっそ~」
「アヤメ、強いな……」
「お前はあっさりやられ過ぎ。20秒も保たなかったんじゃないか?」
「ぐっ……」
なにも言い返せなかった。
今、コートたち四人はマジックシューターズのプライベートモードでプレイしていた。
このモードはランクが関係無いのはもちろん、観戦モニターにも映されない非公開のモード。ランダムでのマッチングは無し、仲間内だけで、人数が四人対四人じゃなくてもバトルを始めることが可能。そのため、チームバトルの練習で使われることの多いモードだ。
稼働当初このモードは無かったのだが、要望が殺到し、去年の大会直前に実装された。
儀式塔のルールでゲームは始まるが、別にそれに従う必要はない。特別ルールを自分たちで決めて遊ぶプレイヤーも少なくない。
晃人たちもそうだ。チームを三対一にし、一人ずつアヤメとバトルをしている。
……何故、そんなことになったのかと言うと。
「だから、リーナはランクモードやるべきなの! フリーモードばっかりやったって意味ないでしょ!」
「意味があるかどうかは関係ねーんだよ!」
「あるわよ! リーナ、あなただったらSSランクどころか
「あのなぁ……。だいたいお前はどーなんだよ。偉そうにやれって言うけど、自分はへっぽこでーすとか言うんじゃないだろうな?」
「はぁ?! あたしSランクよ? へっぽこなわけないじゃない!」
「どうだか。Sランクだってピンキリだろ?」
「なっ……だったら勝負しましょう! プレイベートモードで一対一のバトルよ! あたしが勝ったら言うこと聞いてもらうからね!」
「受けて立とうじゃねーか! それならわかりやすいしな!」
「わぁ! 面白そう! わたしもやる! 晃人くんもやろうよ! 一対一のバトル!」
「えっ、俺も?」
「えっ、リーナちゃんも?」
……というわけで、ヨミとアヤメの喧嘩にリーナが乗っかり、しかもコートまで巻き込まれてこうなったのだ。
(でも……もう十分わかった。アヤメには偉そうに言うだけの実力がある)
アヤメは光属性魔法の使い手だった。
通常射撃魔法とカスタム魔法の跳弾魔法。その二つを使い分け、上手く相手を誘導して仕留める戦法だ。
問題は、この二つの魔法の見分けが付かない点だ。
おそらく威力や跳弾回数、消費魔力のどれかを犠牲にしていると思うが、レーザーのような見た目と弾速がまったく同じだ。そのためすべての攻撃に対し、跳弾を気にしなくてはならない。
また、跳弾の使い方も上手い。さっきヨミを倒した時のように、そっと相手の死角を突いてくる。
あそこまで跳弾を上手く使いこなすプレイヤーはそうそういない。
「わたしが最後でよかったのかな? アヤメちゃん」
「どういうことよ?」
「ふふーん、まぁ見てて?」
リーナはそう言うと、アヤメの魔法をかいくぐりながら少しずつ距離を詰めていく。
「な、なんかハラハラするな。リーナ、避けるのがギリギリ過ぎないか? あれだと跳弾に当たってもおかしくない」
「いいや。リーナちゃんのことだ、もう見切ってるんだろ」
「見切った? まさか、通常射撃と跳弾の違いを? どうやって……」
「さあな。私たちのバトルを見て、きっとなにか掴んだんだ」
コートは改めてアヤメの魔法を見る。が……やはり違いがわからない。
だけど、リーナの動きをよく見ると、ヨミの言う通り、通常射撃魔法とカスタム魔法を見切っているように思えた。通常射撃魔法はギリギリで避け、カスタム魔法は跳弾の射線を岩で遮るように回避している。
そのことにアヤメも気付いたのだろう、顔に焦りが出始めた。
「な、なんでよ! なんでわかるのよ!!」
「終わったら教えてあげるっ。結構、力技だけどねっ!」
リーナが一気に距離を詰め、その腕を伸ばす。
目を見開くアヤメ。素早くリーナに右腕を向け直した。
「じゃあこれはどう?!」
「えっ……赤い、光魔法?」
今までの魔法――白色のレーザーではない。赤く光るレーザー。
リーナは咄嗟にそれをかわすが――
ボンッ!!
「きゃっ?!」
「リーナ!!」
避けた直後、赤色のレーザーがリーナの背後で爆発した。
その衝撃でリーナの体勢が崩れる。伸ばしていた腕がブレてしまう。
「やったっ。とっておきは最後まで残しておかないとね? これで終わりよっ!」
アヤメが腕をピッタリとリーナに合わせ、光属性の魔法を放つ。
「その通りっ、だよね!」
バシンッ!
「えっ……?!」
リーナが腕を振り、魔法を受け流す。
一瞬呆気に取られるアヤメだったが、すぐさま魔法を連射した。
しかしその一瞬でリーナは体勢を整え、追撃の魔法を軽々避ける。そしてアヤメの真横に回り込んだ。
「これで終わりっ! ウォーターランス!」
「うそでしょ?!」
ドンッ!!
リーナの腕から飛び出した水の槍が、アヤメを貫く。その一撃でアヤメはやられ、スッと消えた。
「ふう、爆発はビックリしたなぁ。でも勝てたよ! コートくんヨミちゃん!」
「あ、ああ……すごいな、リーナ。どうやって防いだんだ?」
トドメの水の槍は、威力重視にカスタムした魔法。
その前の、アヤメの魔法を受け流したのは……。
「バリア系のカスタム知らない? ミストバリアだよ」
「水属性の? ……あれ使う人いるんだ。一回しか防げないんだよな」
種類は少ないが、自分を守るバリア系のカスタム魔法がある。
ただし一回しか防げない上に、使い勝手がいいとは言えない仕様のため、あまり使う人はいない。
少なくともAランクでは見たことがなかった。
「まあね~。効果時間も短いから、相手の魔法のタイミングに合わせなきゃいけないし。難しいかな」
「それだけじゃないでしょ!」
通信に割り込んでくるアヤメの声。
「あれ、もっと細かくカスタムしてるでしょ? 範囲狭くして強度上げて、防げる魔法の種類を増やしてるわよね!」
「そ、そうなのか?」
「えへへ~……うん。普通なら、通常射撃魔法と同等の威力しか防げないんだけどね。防御範囲を狭くして、もう少し強いのでも防げるようにしてるよ。その分、きっちり相手の魔法にバリアを当てないと防げないけどね」
「あっ……だから腕を振って、弾くように当てたのか……」
(そんなこと普通できるのか? それともこれも……EVSがあるから?)
リアルに見えているからこそ、できる芸当なのだろうか。
いいや。だとしても相当練習しているはずだ。
「通常射撃魔法とリフレクトレーザーはどうやって見切ったのよ」
「ああ、それはね~。通常射撃とカスタム魔法って、切り替えの間があるでしょ? どうしたって同じ間隔で連射はできないんだよ」
「……えっ、まさかそれを見極めたってこと?」
「うんっ! 最初の一発目がどっちだかわかれば、あとは切り替えの間を見ていれば、通常射撃か跳弾かわかるからね~」
「すごいなリーナ……」
「…………」
コートにはそんな間があるとは思えなかったし、もう一回見てもわかる自信が無かった。
アヤメも口をぱくぱくするだけで、なにも言えないようだった。
「どうだ! リーナちゃんの強さ、わかったか!」
「……まぁね。ほんと、とんでもないわ」
そこで、タイムアップになり、バトルは終了したのだった。
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