6「感情の矛先」
『マジックシューターズ、バトルスタート!』
バトル開始早々、コートとリーナのタッグは前衛を宣言し、敵陣側へと急ぐ。
フィールドは春休みにタッグを組んだ時と同じ、森林地帯。所属はブルーガイム王国。
中央広場の右側を抜けて敵陣側に入り込む。
「コートくん、あそこの茂み!」
「揺れてる……よしっ。ウィンド!!」
微かに揺れた茂みに向けて、通常射撃魔法を連射する。
茂みは弾け、そこに隠れていた敵の魔法使いに魔法が全弾命中。驚いた顔で後ろに倒れ、そのまま消えた。
EVS。進化した仮想感覚。
仮想空間をリアルに見ることができ、さらにはハードウェアが読み取っていないはずのデータまで、受け取ることができる。
『敵が潜伏している茂みが、僅かに揺れる』
本来なら茂みの中を移動すると揺れるが、じっと潜伏していれば揺れないようになっている。
それでも揺れて見えたのは、ハードウェアが読み取っていないはずのデータ……ではないらしい。
バトルが始まる前に、リーナが説明してくれた。
「通常のゲームだと受け取れない情報には、二種類あってね。まず、さっきも話した本当にハードウェアが読み取っていないデータ。相手の表情とか、口の動きとかだね。
もう一つは、実際には見ているのに気付くことのできなかった情報。いわゆる『無自覚の情報』を、はっきりとわかるように見せてくれることがあるの」
「無自覚の情報……?」
「例えば敵が茂みに隠れた時、その茂みは揺れるよね。だけど、視界には入っていたのに気付くことができなかった。普通ならそのまま、敵がアクションを起こすまで気付けないんだけど、EVSはその見落としてしまった情報を、自然な形で教えてくれる。例えば、潜伏中に身じろぎをしたから、茂みが僅かに揺れたように見えた……みたいな感じにね」
「へぇ……それはすごいな。じゃあずっと前から潜伏していて、無自覚でも隠れるところを見ていなければ、茂みは揺れないわけだ」
「うん、そういうこと。飲み込み早いね~晃人くん」
「いやぁ……。でもそうなると、サポートの域を超えてないか? それだけで強くなれそうなんだけど」
「そんなことないよ。あのね、EVSはあくまでVR空間をリアルに、自然に見せようとする能力なの。いくら見落とした情報をわかるようにしてくれていても、自然すぎてやっぱり気付けないこともあるんだよ。だから、そういう部分に気付けるように、自分を磨かなきゃいけないんだよ」
「……自分自身の視野を広げろ、ってことか」
「うん! 結局そこに行き着くんだよ~」
(今なら、戦い方を変えなきゃいけないって言葉の意味が、わかる気がする)
実際に今の茂みの揺れを見てわかった。
入ってくる情報が増えるだけじゃない。今までと情報の入り方や形が違うのだ。
普通ゲームは『ここは表示されて、ここは表示されない』という風に、システム的にルールが決まっている。
だけどEVSが発現したリアルなVR空間では、そんなルールは適用されない。
自然に、現実の世界のように、色んな動きや音が情報として入ってくるのだ。
今までみたいにルールを前提とした戦い方ではダメなのだ。
「コートくん、EVS安定してきた?」
「今ははっきりと、色んなものが見えてるよ」
ゲームに入った時、コートの視界はまだ通常のゲーム画面のままだった。
EVSが発現するには、なにかきっかけが必要かもしれない。
そう思い、コートは春休みのことを思い出してみた。
(あの時、俺は思ったんだ。目の前に、最強の魔法使いがいると。美しい、戦いの女神が)
その時の感覚を思い出しながらリーナを見ていたら、自然と彼女の表情が見えるようになっていた。
ちなみに当然リーナは見つめられているのがわかっていて、少し恥ずかしそうだった。
「あっ、リーナ、左側から敵がこっちに来る」
「ほんとだ。今倒した人が、通信でこっちに敵がいるって教えたんだろうね。木に隠れながら移動してるけど、バレバレだ~」
「どうする? こっちも隠れて迎え撃つ?」
「う~ん、わたしが気付いてないフリして奥の拠点を目指すから、コートくん、後ろからお願い」
「了解だ」
コートは一人で木に隠れ、リーナは堂々と拠点に向けて移動を開始する。
すると隠れながらこっちに向かっていた敵は、読み通りリーナを追いかける。
(射程内に入ったけど、まだ少し遠い。確実に当たる距離まで待って……)
その時、相手の魔法使いがニヤリと笑うのが見えた。
(ダメだ! リーナはもう相手の射程内なんだ!)
コートは飛び出し、敵に向けて魔法を撃つ。
相手もリーナに向けて腕を伸ばしたところだったが、突然脇から飛び出したコートに、一瞬動きが止まる。
コートの通常射撃魔法は二発ヒット、あと一発というところで反応され、射程外に逃げられてしまう。
が――そこに、リーナの魔法が飛んできた。水属性の通常射撃魔法が敵に突き刺さり、悔しそうな顔ですうっと消えていく。
「相手、そこから撃っても通常射撃だとわたしに届かなかったよね。射程長いカスタム魔法持ってたのかな?」
「たぶん、そうだと思う」
「じゃあナイス判断だったね! コートくん!」
「……笑ったんだよ。それで、リーナが射程内に入ったんだって思った。だから一瞬早く動けたんだ」
「コートくん、それはね……。あ、とにかく拠点取ってからだね! 急がないと敵が復活しちゃう!」
リーナはなにか言いかけたが、ひとまず拠点制圧が先だ。
あっさりと拠点を奪うと、そのまま左側の拠点を目指す。
EVSのおかげもあり、コートは何度も敵を倒し、そしてまったくやられずに戦えていた。
こんなことは初めてだった。
(すごい! 今ならSランクにも上がれる気がするぞ!)
気が大きくなっているのは自覚していたが、今ならどんな相手でも負ける気がしなかった。
そしてゲーム終盤。何度目かの敵の前衛を倒した時のことだった。
カスタム魔法のダーククロウで相手を拘束し、正面から通常射撃魔法をたたき込む。
その瞬間、見てしまった。
敵の魔法使いがコートを睨み付け、口を動かす。
――ふざけんな! 死ねよ――
「えっ……」
立ちすくむ。
身体がぞくっと震えるのがわかった。
「コートくん! 自陣に戻って! なんかね、もう勝てないと思ったのか、敵の後衛が突っ込んできてるんだけど……この人っ、強いよ! なんで後衛やってたんだろ?
……コートくん? 聞いてる?」
「え……あ、あぁ。うん、すぐ戻る」
自陣側で戦うリーナと合流して加勢したが、リーナが強いと言ったその人は本当に強くて、集中できていなかったコートは一瞬でやられてしまった。
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