3「マジシュー部」


「リーナ! マジシュー部に行こう!」


「うん! 一緒に行こう、晃人くん!」


「おう! ……って、いいのか? マジシュー部で」



 オリエンテーションが終わってすぐに、晃人はリーナをマジシュー部に誘った。

 すると二つ返事でOKしてくれて、思わず聞き直してしまった。



「だめだよ晃人くん。無粋なこと聞かないで? さっきの部活紹介を聞いて、どっちに入るかなんて悩むまでもないよ~」


「おぉ……!」



 晃人も同じことを思っていたから感動してしまった。


 マジックシューターズ研究部とマジシュー部。

 どちらかを選ぶとなれば、マジシュー部しかない。



「もちろん研究部の方も、マジックシューターズが好きなんだなぁっていうのがよぉっっく伝わってきたんだよ? でもね、マジシュー部のあの言い方はずるいっ。あんな風に盛り上げられたら、もうマジシュー部しか選べないよ!」



 確かに、と晃人は思う。

 研究部は説明もしっかりしていたし、熱さを感じたのだが……。どうしてもマジシュー部の部活紹介――もはや演説――のインパクトが強すぎて、印象が薄れてしまった。



(結局どっちもガチで大会優勝を目指すような部活だったけど、リーナは構わないのか?)



 それこそ無粋な質問、藪蛇になりかねない。考え直されても困るので、晃人は黙っておいた。


 もっとも晃人が言わなくても、こういう指摘は代未がする――



「あ~あ、やっぱりこうなったか」



 ――と思っていたのだが、諦めた感じで頭の後ろで手を組み、溜息をついていた。



「渡矢さん、やっぱりって……?」


「ふたりとも、立ち上がっていつまでも拍手してただろ。沖坂はどうでもいいけど、リーナちゃんすごく目立ってたぞ?」


「あっはははは……ちょっと興奮しちゃって。あそこまでマジックシューターズを熱く語ってくれる人、なかなかいないからね~」


「え、あれ、俺そんな目立ってた……? ていうかリーナも?!」



 自分が目立っていたこともそうだが、リーナが目の前で同じように拍手をしていたのに、まったく気付かなかったことにも驚いていた。



『我こそは、頂点に立つ『使』だという者は、大歓迎だ!!」』



 周りが一切見えなくなるほど、マジシュー部部長の言葉は晃人の心を鷲掴みにしていたのだ。



「……よしっ。じゃあ放課後、マジシュー部の部室に行こう!」


「おーっ!!」


「もう、しょうがねーなー……」



                  *



 放課後、晃人、リーナ、そして代未の三人はマジシュー部の部室に向かっていた。

 代未も入部するつもりなのかと聞いてみたが、



「沖坂には関係無いだろ」



 と、そっけなく返され教えてもらえなかった。



(……リーナが入るなら入るんだろうな)



 出会って日は浅いが、代未の態度を見ていれば、二人の関係性もなんとなく想像が付いていた。


 部室は特別教室が多くある棟のさらに奥。使われていない空き教室などが各部の部室になっている。

 廊下は勧誘をする上級生や、各部を訪ねる新入生でごった返しになっていた。



「すごい人だね~。あ、あったよ! あそこだよね、マジシュー部!」



 そんな中、リーナがマジシュー部の部室を見付け、なんとかその前まで辿り着く。



「よし。じゃあ中に……」



 晃人が手を挙げてノックをしようとした時だった。



「お、ここじゃん。マジシュー部。マジックシューターズのだよな」


「ああ……そうだな」



 後ろからそんな話し声が聞こえ、手が止まる。



「なんだよ、乗り気じゃねーな。お前入りたいって言ってなかったっけ?」


「マジックシューターズの部があるなら入りたいと思ってたけどさ。なんかふたつともガチっぽいじゃん? 俺、もっと気楽なの想像してたんだよなぁ。あそこまで本気でやるつもりないよ」


「まーなー。部活紹介はすげー盛り上がってたけど、そこまで本気になれねーよな」


「そうそう。あの時は熱くなって、すげぇって興奮したけどさ。終わって冷静になるとちょっとな。あそこまで熱くなるのってなんか恥ずかしいだろ? だから違う部にするよ」



 そう言って、二人組の男子は立ち去っていく。



「晃人くん? どうしたの?」


「ん……いや、ごめん」


「どーせ今の後ろの会話がショックだったんだろ。いいから早く開けろよ」


「ぐっ……」



 代未の言う通りだった。

 そこまで本気になれない。もっと気楽に遊びたい。

 そう思う気持ちもわかる。よく、わかっている。

 だけどそれでも……。



「ああ~、熱くなるのが恥ずかしいって言ってたね。なんでだろうね? ぜんぜん、恥ずかしくなんかないのに。本気でやる方が格好いいよね?」


「リーナ……」



 そうだ、答えはもう出したんじゃないか。

 周りがなんと言おうとも。……仲間が、集まらなくても。



(それでも俺は。本気でやりたい。そう決めたんじゃないか)



 リーナに肯定してもらえたおかげで、晃人は自信を取り戻す。

 改めて、目の前のドアをノックした。



「おぉ? どうぞ! 開いているから、入ってくれ」



 ドアの向こうから、部活紹介で聞いた柏沢部長の声が聞こえた。

 晃人はノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開く。



「ようこそ、我がマジシュー部へ。おや、三人もいるのか。ちょうどいいな」



 部屋の奥、窓を背にして腕を組み、仁王立ちする柏沢部長。

 それから……。



来たわね」



 その脇に座る、少女――神津原絢萌が、晃人たちを不機嫌そうに見ていた。

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