5「格上の魔法使い」


『敵プレイヤーに 二つ目の魔石を起動されました』



「すまんリーナちゃん、ドジった! 守り切れなかった!」


「しょうがないよ! ヨミちゃん、あとは魔力注入に集中して!」


「わかってる! 残り時間は半分! こうなりゃ魔力注入でリードするよ!」


「コートくんは防衛お願い! きっと妨害してくると思うから!」


「…………」


「コートくん? 聞こえてる?」


「あっ……あぁ、防衛だな」


「おい! ボケッとしてんな! 切り替えていけよ!」


「っ……! わかってる!」



 復帰までの10秒間。コートは深呼吸し、言われた通り切り替えようとする。

 だが……。



(心臓が……バクバクいってる。本当に死ぬかと思った……)



 斬られる、と思ったあの瞬間――。


 炎がゆらめき、火の粉が舞う。

 熱さが伝わってきそうなリアルな炎には、陽炎まで立ち上っていた。


 そしてなにより、相手の魔法使いがニヤリと笑うのがハッキリと見えた。



(気のせい……なのか? いやでも、間違いなく……)



 コートは強く首を振り、そんな考えを振り払おうとする。


 今は――バトルに集中しよう。


 相手のシンタというプレイヤーは本当に強い。

 あの追尾火の玉で、コートは見事に誘導された。射程外に逃げることに気を取られ過ぎて、相手の接近に気付けなかった。



(あんな単純な手に引っかかるなんて……)



 そもそもあの炎の大剣自体が囮みたいなもの。

 普通ならもう一つのカスタム魔法は、身体能力アップなどのサポート系魔法にするところだ。

 まさか射撃系とは思わなくて、意表を突かれてしまった。



「ね~カンタさん! できれば一緒に攻めない? 闇雲に攻めても……あっ」



『敵プレイヤー:エイトに プレイヤー:カンタがやられました』



「だめだ、全然聞いてねーな。通信オフにしてるんじゃないか?」


「そうかもねぇ。うーん仕方ないかぁ」



 通信は設定すれば完全シャットアウトもできてしまう。

 声を出して連携を取る方が楽しい思うのだが、煩わしいと思う人もいる。



『プレイヤー:リーナが 敵プレイヤー:エイトを倒しました』



 カンタを倒した敵をリーナが倒す。さすが、きっちりカバーする。


 カンタはとにかく敵陣に乗り込んで拠点を攻めているようだが……結果は出せていなかった。

 そしてそれはコートも同じだ。まだ、なにもできていない。



「よしっ。砦周辺で防衛する!」



 拠点は二つとも奪われているが、それでも敵の侵入を許せば魔力注入を妨害されるし、なによりこっちから攻め込みにくくなる。

 コートは宣言すると、真っ直ぐ中央の砦を目指した。



「……あれは?」



 砦は正面の門が開かれていて、ここだけは壁を登らずに通り抜けられる。

 開幕、敵の二人はここを使って最短で儀式塔を攻めたのだろう。


 そして今、門の前に赤いローブ――敵プレイヤーがいた。



(炎の大剣の人か?!)



 相手もコートに気付いたようで、こちらを向いて腕を伸ばす。まだ、剣は出していない。



「砦の門にさっきの敵を発見! 今度こそっ……!」



 コートが通常射撃魔法を撃つのと、相手が同じく通常射撃魔法を撃つのはほぼ同時。

 敵プレイヤー・シンタとの、第2ラウンドが始まった。



(ハイウィングは……まだだ。もう少し、近付いてから……)



 相手は攻め込む必要がないからか、動こうとしない。

 コートは通常射撃魔法の撃ち合いをしながら、じりじりと距離を詰める。

 近距離は相手の間合いだが、こっちにはハイウィングがある。機動力は上のはずだ。



(相手は俺が飛べることを知らない。意表を突ける。……前にリーナが言っていたのは、こういうことなんだよな)



 知られていないというのは、アドバンテージになる。リーナに教わったことが実感できた。

 問題はどのタイミングで仕掛けるかだが……。


 牽制するように魔法を撃っていると、掠ったのか相手がよろめく。

 一瞬魔法が途切れたその隙に、コートは駆け寄って距離を詰めた。


 すると当然相手は右手を突き出し、巨大な炎の大剣を作りだす。



「今だ! ハイウィング!!」



 横薙ぎに振り回された剣を、コートは飛び上がって避ける。そしてそのまま真上を取った。



「ダーククロウ!!」



 カスタム魔法。闇属性、特殊タイプ。

 手の形をした影が伸び、相手を掴み取る。ダメージは入らないが、成功すれば相手の動きを止め、一時的に拘束できる魔法だ。

 ダーククロウで拘束、通常射撃魔法で確実に倒すコンボ――。



「あっ! 嘘だろっ?!」



 しかし相手は、素早く砦の中に入って隠れてしまう。

 ダーククロウは目標を見失い消えてしまった。


 空振りした直後という完璧なタイミングだったのに。今のを避けるなんて、超反応もいいところだ。



(いやっ、最初から警戒してたんだ!)



 相手はコートのカスタム魔法を一つも見ていない。

 対して向こうは、二つともコートに見せている。なにかしら対策をされると考えたのだろう。

 だから彼の方からは距離を詰めようとせず、砦の入り口前で待ち構えていたのだ。


 コートがなにか仕掛けてくるとわかっていたから。

 当たらなくてもいいから剣を振り、すぐさま砦の中に逃げた。

 なにが来ても回避できるように。そして、コートのカスタム魔法を確認するために。



(俺のカスタム魔法もバレた!)



 コートは地面に着地する。ハイウィングは飛んでいる間魔力を消費してしまう。無駄に飛んでいると攻撃用の魔力が無くなってしまうのだ。しかもダーククロウを使ってしまったから、すでに魔力が残り少ない。あれは強力な分、消費がでかい。


 砦の門から中を見るが、敵の姿は見えない。砦を抜けて敵陣側に戻ったわけでもなさそうだ。



(どうする? 追いかけて中に入るか、それとももう一度ハイウィングで砦の上を取るか?)



 砦の中は狭い。あの巨大な剣は振り回しにくいはず。

 しかし追尾火の玉は厄介だ。待ち構えて使われたら逃げ場が無い。



(よし、砦の屋上を取ろう。まずは魔力回復。敵が下から出てきたら上から通常射撃、屋上の入口から来たらダーククロウだ)



 方針を決め、再びハイウィングで飛ぼうとした、その時。



 ブゥォォウ!



 どこからか、風を切るような音が聞こえた。



(……上か? なんの音……)



 反射的に顔を上げると、そこには。


 砦の上から落ちてくる、炎の大剣を振り上げた魔法使い。

 コートが気付いたことに、少し驚いた顔をする。



「だっ、ダーククロ……っ」



 コートは咄嗟に右手を向けたが、間に合わない。そもそも魔力が足りなくて不発だった。


 着地と同時に振り下ろされた炎の大剣は、またしてもコートの身体を切り裂く。



『敵プレイヤー:シンタに プレイヤー:コートがやられました』



「つ、強い……」



 まさか砦の中の階段を登って、上から飛びかかってくるなんて思わなかった。


 シンタという名の魔法使いは炎の剣をブンッと振り回し、倒れたコートを見下ろす。

 ニヤリと笑ったその口元が、言葉を形作る。



 ――よえーなぁ……――



 瞬間、コートの中で何かがキレた。



「くっ……そおおおおおお!!」



 叫ぶと同時に、魔法使いの姿が見えなくなり、コートは儀式塔の後ろに飛ばされた。

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