4「リング魔法」


『敵プレイヤーに 一つ目の魔石を起動されました』



 敵は前衛が三人。開幕、こちらに攻めてきた。

 当然残りの一人は後衛、魔力注入をしているものだと思い込んでいた。

 しかし、敵の儀式塔は光っておらず、魔力がまったく注入されていなかったのだ。



「四人目、魔力注入じゃなくて拠点防衛してる! カスタム魔法は遠距離魔法だよ! このマップってスナイプ系魔法が強いんだよね~。コートくん一撃だったし、かなり威力を高めてそう!」


「す、すまんっ! 復帰次第、ヨミの援護をして右の拠点に向かう!」


「いらん! コート、お前は右の拠点に直行しろ!」


「いや、でも――」


「いいって、言ってん、だろっ!」



『プレイヤー:ヨミが 敵プレイヤー:パスカルを倒しました』



「――拠点に直行する!」



 言いながら一人倒してしまったヨミに、コートは頷くしかなかった。


 プレイヤーは一度やられると、儀式塔の裏からリスタートになる。

 加えて10秒間待たないと動けない。これは結構なロスだ。

 動けるようになるのをじれったく待っていると、



『プレイヤー:ヨミが 敵プレイヤー:エイトを倒しました』

『プレイヤー:リーナが 一つ目の魔石を起動しました』



 ヨミがもう一人を倒し、リーナも魔石拠点を取ってくれた。



(俺も……役割を果たさなきゃ!)



 ようやくリスタートできたコートは、急いで右の拠点に向かう。


 だが、やはりタイムロスが大きかった。

 左から攻めてきた敵は、コートとリーナが敵陣側に侵入していたこと、ヨミが儀式塔前で敵二人を迎撃していたことを知っているはずだ。

 左側で鉢合わせた一人を倒してしまえば、完全にノーマークになると気付いただろう。

 警戒の必要も無く、右の拠点まで一直線に走れてしまう。

 コートが辿り着く頃には、拠点は奪われているかもしれない。



「ヨミちゃん!」


「チッ、しょうがないな。私が時間稼ぎする!」



 状況はリーナたちもわかっていた。

 ヨミが右の拠点に急行してくれる。



(いや、それでも間に合わないんじゃ――)



「いくぞリング魔法! ストーンウォール!!」



 ヨミの右腕のリングが強いオレンジ色の光を放つ。


 同時に、狙われていた右の拠点の周りに、巨大な石の壁が地面から現れぐるっと囲む。

 コートの位置からでも見ることができた。


 リング魔法――バトル開始一分経たないと使用できない、強力な魔法。

 今のは妨害タイプの魔法で、石の壁で相手の進行や攻撃を止めることができる。



「よっし、間に合ったぞ! ほら急げコート!」


「助かった! ありがとうヨミ!」


「ふん! 気安く呼ぶな!」



 ちなみにコートはまだリング魔法を使うことはできない。

 一分経たないと使えないというのは、右腕に付けているリングに一分間魔力のチャージが必要という意味だ。

 チャージは自動的に行われるが、プレイヤーがやられてしまうと半分に減ってしまう。

 そのため、やられまくるとなかなか使うことができない――なんてことはなく、リング魔法を使わずに三回やられると、リスタート時にフルチャージ状態になる。

 リスタート地点に抑え込まれてしまっても、リング魔法で打開できるようにという救済措置だろう。



(あと……30秒か)



 リングを見ればチャージまでの時間はわかる。それまでやられずに戦う必要があるが……こういう時の30秒は恐ろしく長く感じる。



「拠点到着! 間に合った!」



 コートが拠点に到着するのと、ヨミのリング魔法、ストーンウォールの効果が切れるのは同時だった。

 ガラガラと音を立てて崩れ、地面に吸い込まれるように消えていく石の壁。

 その向こう側に、敵が姿を現した。


 赤いローブを纏った男のプレイヤー。

 彼が右腕を真横に伸ばすと、手のひらから勢いよく炎が吹き出す。

 その炎を掴むように拳を握ると、炎は巨大な大剣になった。



「近接タイプ……直接攻撃系かっ!」



 カスタム魔法の一つ。魔法の武器を作り、直接攻撃で戦うタイプ。

 攻撃に偏らせているのか、身の丈ほどの巨大な剣だ。



(大丈夫、しっかり距離を取って射撃戦に持ち込めばいい)



『敵プレイヤー:ミツキに プレイヤー:カンタがやられました』



 そのアナウンスを合図に、敵が動き出した。

 炎の大剣を軽々と掲げてコートに襲いかかる。

 コートは後ろに下がりながら、右手を突き出した。



「ウィンド!」



 通常射撃魔法による牽制。

 当然避けられるが、相手の足は鈍る。



(よし、ハイウィングで飛んでカスタム魔法を当てられれば――)



 今正に、飛び上がろうとしたその時。

 相手が、大剣を持った右手をすっと前に伸ばした。



「……えっ?」



 腕の周りに、火の玉が浮かび上がる。

 一つ、二つ、三つ、四つ……五つ。

 五つ目が現れると同時に、火の玉はコートに向かって飛びかかってきた。



(射撃系のカスタム?! しかもこれ――)



「追尾するのかっ!」



 カーブを描き、コートの左側から襲いかかる火の玉。コートは反対、右に走って逃げる。

 ファイアーボールに追尾機能を付けたカスタムのようだが、いつまでも追ってくるわけではない。むしろ射程か攻撃力を犠牲にしているはずだ。

 すぐに消えるはず――



「おい! 前見ろよ前!!」


「あっ……!」



 ヨミの声にハッとなるが、遅かった。

 右側、コートの真横に、炎の大剣を振り上げた敵が――使が、迫っていた。

 火の玉に気を取られすぎて、接近に気付けなかった。



 魔法使いは、ニヤリと笑い。


 振り下ろされた炎の大剣に、コートは切り裂かれてしまう。



『敵プレイヤー:シンタに プレイヤー:コートがやられました』



「…………!!」


「うまいな、相手のシンタってヤツ。しょうがない、私がカバーに入ってやるよ」


「待ってヨミちゃん、そろそろ相手も――」


「げっ、しまった! リング魔法かっ……!」



 リスタート地点に飛ばされる直前。

 敵の魔法使いが放った火属性のリング魔法により、ヨミが炎に包まれるのが見えた。

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