第2話「魔法使いたち」

1「運命的な再会」


 春休みが終わる。

 晃人はハガーアミューズメントに通い詰めたが、Sランクには上がれなかった。


 しかしランクについては、以前ほど執着していない。

 それよりもリーナと再会できなかったことに、焦りを感じていた。



(どうすれば、リーナともう一度会えるだろう?)



 正直、ハガーアミューズメントですぐに会えると思っていた。

 しかし時間が合わないのか、そもそも来なかったのか。結局会えず仕舞。

 それがなによりショックだった。



(今の俺は、Sランクになることよりも、リーナとチームを組むことの方が大事なんだ)



 そもそも、晃人がSランクに拘っていたのは。

 高校に入りチームメンバーを探す際に、自分がSランクの方が集めやすいと思ったからだ。


 晃人が通うことになる、私立真ヶ峰しんがみね高等学校には、マジックシューターズの部活があると聞いている。……稼働して一年のゲームに専用の部があるというのも珍しいが、それだけ流行っているということだろう。


 部活に入れば、きっとチームが組める。Sランクならよりスムーズに。

 それが、晃人がSランクを目指していた理由だった。


 つまりチームを組むことが、第一目的なのだ。

 その手段が、部活に入ってメンバー集めから、リーナとチームを組みたいに変わった。

 だからランクよりも再会できなかったことに、ショックを受けている。


 もちろん入学後は、マジックシューターズの部に入ろうと考えている。

 ランクだって、上げられるに越したことはない。

 上がりそうで上がらないのは、やっぱり悔しいから。


 ……結局、再会もランクも叶わないまま、春休みは終わったが。




 四月、迎えた高校の入学式。

 新入生でごった返す玄関前。貼られたクラス表から、自分の名前を探す。

 五クラス分あるから大変だ……と思ったが、あっさり見付かった。1組だ。


 名前を見付けたならとっとと移動しないと邪魔になるのだが、晃人はぼんやりとクラス表を眺め続けた。



「リーナもこの春から高校なんだよな。同じ学校だったら、奇跡なんだけど」



 教室でリーナの姿を見付け、指を差し合って「あーっ!」と声を上げる。


 何度かそんな、もうそ……奇跡を思い描いていた。

 いや、同じ学校ってだけで奇跡か。さらに同じクラスだったら、それはもう……。



「あ~! ヨミちゃん! 同じクラスだよ同じクラス!

 よかったー、やっぱりヨミちゃんと同じクラスだと安心するよ。中三の時は別々だったしね。あ、でもあれはあれで忘れた教科書借りられて良かったなぁ。でもノートとか見せてもらうにはやっぱり同じクラスの方がいいもんね。これから一年、よろしくね! ヨミちゃん!」



 突然後ろから聞こえてきた、元気な声。

 捲し立てるように、ひとりで話を進めてしまう、この感じは……。



「へへっ、よろしく! ノートくらい、いつでも見せるさ。完璧にしておくからな!」


「ありがとう! さっすが! 頼りになるなぁヨミちゃんは」


「私も同じクラスで嬉しいぜ。



『早瀬 理流那』



 何気なく見ていたクラス表にその名前を見付けるのと、リーナという名前が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。



「リーナ?!」



 名前を呼び、勢いよく振り返る。そこには、驚いた顔の少女。

 髪をまとめて横で結んだサイドポニー。星形のヘアピン。


 間違いない、春休みに出会ったリーナだ。


 水色のブレザーに紺のチェックのスカート、青のネクタイと、この学校の制服姿で目の前にいる。


 隣りにもう一人、長い髪を下の方で二つ結びにした女の子がいて……晃人をギロリと睨んだ。



「なんだこいつ……。リーナちゃん、知り合い?」



 随分男勝りな感じの子だな、と思ったが、それどころじゃなかった。

 睨まれているのがわかっていても、目の前のリーナから目が離せない。



「あーっ! コートくーん?!」



 思わずぶるりと震える。

 奇跡。いいや、奇跡を越えている。

 なにしろ、リーナの名前が書いてあったのは、同じクラスの1組だったのだから。



「運命……か?」


「うん? ごめんね、なんて言ったの?」


「な、なんでもない!」



 思わず口に出してしまった。

 奇跡を越える。運命のような再会。



「そう? でもやっぱり、コートくんと同じ学校だったかぁ。ほら、ここマジックシューターズの部活があるでしょ? もしかしたらって思ったんだよね。まさか同じクラスだったり?

 どれどれ……ああっ! やばい、すごいよ! 1組! ほんとに同じクラスだ! すっごい偶然! あははっ、なんかおかしくなってきちゃった!」



 ツボに入ったのか、ケタケタと笑い続けるリーナ。



「相変わらずだな、リーナは」


「あっははははっ! あ、相変わらずって、ぷぷ、1、2週間ぶりだよ? そんな短期間で変わらないよっ。あーおっかしぃなぁ……。

 そうだ! コートくん、紹介するね! この子はヨミちゃん。わたしの幼馴染みなのっ」



 まだ油断すると笑い出しそうだったが、少し落ち着いたらしいリーナが、隣の女の子を紹介してくれる。


 リーナが笑い出してからも、晃人を険しく睨み続けていた、ヨミと呼ばれた女の子。

 背はリーナより高く、晃人と同じくらい。女子の中ではそこそこ高い方だ。



「しょうがねーなぁ。……渡矢わたや代未よみ。よろしく」


「ど、どうも。沖坂、晃人、です」



 言葉の通り、本当にしょうがなくという感じで名乗る、リーナの幼馴染み。


 リーナと話していた時は、男勝りな話し方でもまだ柔らかみがあった。

 今はもうただただ刺々しい、金属バットでも突きつけられた気分だ。



「で? リーナちゃん。こいつなんなの?」


「春休みにちょっとね。色々あって」


「いろいろー?」


「リーナとはハガーアミューズメントで会ったんだよ。そこで話しかけられて――」


「ハガーアミューズメント……マジックシューターズ、か? リーナちゃん」


「う、うん。そうなんだ~……あはは」


「なるほどな。なんとなく状況がわかったよ、リーナちゃん。

 ……それで、沖坂だったっけ」



 すっと、代未が前に出て、晃人に顔を近付ける。



「なにリーナちゃんのこと親しげに呼んでんの?」


「えっ……あ、それは……」



 殺気――。なるほど、これが殺気っていうんだな。

 妙に冷静なことを考えてしまったが、間近でぶつけられた殺気に、晃人はたじろぐ。



「そ・れ・は? はっきり言えよ、男だろ?」


「り、リーナが、そう呼んでくれって……な、なぁ? リーナ」


「うん? そうだよ~。わたしがコートくんに、リーナでいいよって言ったんだよ」



 くるっと後ろのリーナを見て、パッと笑顔になる代未。


「リーナちゃんはリーナって呼ばれるの、好きだもんなぁ。

 ……だからって本当に呼んだりしないだろ、普通」



 途中で再び晃人の方を向くと、鬼のような形相に戻った。

 男勝りというより、単純にガラが悪い。



「ち、違う! 誤解だ! リーナって呼ばないとタッグ組んでくれないって言うから、呼ぶようにしたんだよ!」


「……は? タッグ?」


「えーっと、そうだったっけ? えへへー……」


「なに?! うそ……だろ? リーナちゃんが……私以外とタッグ、だと……?!」



 リーナの言葉に、代未がよろめいた。



「だ、だいじょうぶか? 渡矢さん」


「う、うるさい! お前、お前みたいなヤツがリーナちゃんと……!」


「あっ、二人とも! 早く行かないと入学式始まっちゃうよ~!」



 ハッと二人は我に返る。

 見ると、周りにたくさんいた新入生はすでにいなくなっていた。



「ちっ。リーナちゃんを遅刻させるわけにはいかないからな。よし、急ぐぞリーナちゃん。んで、あとで詳しく教えてくれ!」


「う、うん。わかったよ、ヨミちゃん。さ、コートくんも急いで急いで!」


「入学式に遅刻とか洒落にならないからな。走ろう!」



 急いで校舎に入る三人。

 走り出す前に一度だけ、代未が晃人を睨んだが、その後は目も向けようとしなかった。





「今の、リーナって呼んでたわよね。しかもマジックシューターズの話をしていた。まさかあの子……。って、あたしも遅刻しちゃうじゃない!」



 影からこっそり一部始終を見ていた少女も、慌てて三人を追うように駆け出したのだった。

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