2「殺気の幼馴染み」


「リーナ。再会できたらチームを組んでくれるって話は?」


「え~、ちょっとだけ前向きに考えるってだけで、組むとは言ってないよ?」


「本当に前向きに考えてくれてるのか?」


「もっちろん。ちょっとだけね、ちょーっとだけ」



 体育館での入学式が終わり、1年1組の教室に移動した晃人たち。

 ホームルームも終わりあとは帰るだけだったが、残って話をしていた。


 もちろん、ふたりっきりではない。リーナの傍らには彼女の幼馴染み、代未が立っている。

 腕を組んで晃人たちのやり取りを見ていたが、話が一区切りしたのを見計らって、じろっと睨んで口を開いた。



「沖坂。事情はさっきリーナちゃんから聞いた。でもチームに誘うのはやめろ。嫌がってんだろ? 空気読めよ」


「い……いや、でも」



 やはり晃人に対しての当たりが強い。空気読めという言葉が、これ以上は何するかわからないぞ、という脅しに聞こえた。



「わたし、嫌がってるってわけじゃないんだけどね~」


「ちょっと、リーナちゃん? チームバトルはランクがあるんだぞ?」


「う……うん。わかってるよ、それは」



 リーナが少しだけ俯く。

 やはり『ランク』に引っかかるところがあるみたいだ。


「どうしてランクモードやらないんだ? ……無理に聞くつもりはないけど、できれば教えて欲しい」


「おい沖坂? いい加減にしろよ、てめー。出会ったばかりのお前に、んなこと話すと思ってんのか?」


「うっ……」



 やばい。本能的にそう察知した晃人は、ガタッと後ろに下がる。

 これまでで一番鋭い眼光に睨まれて、額に嫌な汗が流れる。


 だが。怯んでばかりもいられない。


 代未の言いたいことは、わかる。当たり前のことだ。だけど……。



「俺は……好奇心で聞きたいわけじゃない。リーナにチームに入って欲しい。そのためには、ランクモードをやらない理由を聞く必要がある。そう思ったんだ」


「そんなのお前の勝手だろ。リーナちゃんが話す理由にはならねーよ」


「そうかもしれない。だけどそれは、リーナが決めることだろ? どうして渡矢さんが間に入るんだよ!」


「あぁ?! 私はな、リーナちゃんの気持ちを代弁をしてるんだよ! 私は誰よりもリーナちゃんをわかってるんだからな。私の言葉はそのままリーナちゃんの言葉だと思え!」


「そんなの……!」


「まぁまぁまぁまぁ! 落ち着いて、二人とも~」



 気が付けば、ふたりはお互い睨み合い、今にも取っ組み合いの喧嘩になりそうだった。

 間にリーナが割り込み、ふたりを引き剥がす。


 教室には他にも何人か残っている。晃人は自分たちが注目を浴びていることに気が付いた。



「……すまん、リーナ」


「ごめん、リーナちゃん。でも私は間違ってない。そうだよな?」


「ヨミちゃん! もう……。う~ん、そうだね。ランクモードのことは、あんまり話したくはない、かな」


「……そっか」


「ふふん」



 勝ち誇った顔の代未。

 晃人はむっとした顔になるが、本人がこう言っているのだ。引き下がるほか無い。



「でも晃人くん。もう一つの約束忘れてない?」


「もう一つの、約束?」


「うん! クレープだよ! 奢ってくれるって話だったよね?」


「あ、あぁ~……そういえば」



 春休み、タッグを組んだらクレープを奢るという話だった。

 時間がなくて奢れなかったから、今度会えたら、と約束をしていた。



「思い出した? じゃあ早速今から行こっか。よろしくね?」


「ちょっと待った! そんな約束は聞いてないぞリーナちゃん! 沖坂! 金だけ置いてけ!」


「おいおい……。事情知らない人が聞いたらカツアゲにしか聞こえないぞ」


「そうだよヨミちゃん! それじゃ奢ってもらった気になれないよ!」


「リーナ? 大事なのそこか?」


「だったら駅前のどっかでちゃちゃっと買わせようぜ! それでバイバイだ!」


「駅前のどっかって、ハガーアミューズメントは駅ビルに併設されてるんだよ? 中入った方が早いよ?」


「あーっだから! 私が言いたいのは! リーナちゃんがこいつと!」


「それにね、晃人くんに一つお願いしたいことがあって」


「またマジックシューターズを――へっ?」


「ん? 俺にお願い?」



 拳を高く振り上げた代未だったが、リーナの言葉に固まってしまう。

 ちなみに机を殴ろうとしていたんだと思う。たぶん。



「うん、お願い! だからね、一緒にハガーアミューズメントに行きたいんだよ。クレープもあそこのが美味しいからねっ。奢ってもらうならあのクレープがいいな!」


「リーナちゃんがあそこのクレープが大好きなのはよーっく知ってるよ! で? こいつにお願いしたいことってなんだ?! なにをお願いするんだ?」


「こいつって、あのなぁ。……まぁいいや。俺にお願いってまさか、クレープを二枚にしろとか?」


「え、いいの? 二枚にしてくれるの?」


「しないぞ。それは無理だ」


「バカ! 余計な口挟むな! 話が逸れちゃうだろ! あ、リーナちゃん? もう一度聞くけど、沖坂になにをお願いしようとしたの?」


「クレープ二枚……じゃなかった。えっとね、また一緒にマジックシューターズやって欲しくて。もちろんフリーモードの、タッグでね」


「えっ……? あ、ああ! いいよ! ていうか願ったり叶ったりだ! ありがとうリーナ!」


「な、ななななああぁ! なんだってぇ?! どうして、どうしてだリーナちゃぁぁん!! 私はそれを阻止しようと……ていうかお前は喜んでんじゃねぇーーーよ!」



 まさかリーナの方から誘われるとは思ってなくて、晃人は驚いた。

 しかしそれ以上に、代未の激しい動揺と怒りにビクッとなる。



「ヨミちゃん落ち着いて。ちょっと気になることがあってね~。……あ、深い意味はないよ? ほら、あれからどれくらい強くなったのかな~って思ったんだよ。ね? 晃人くん」


「えっ?! そ……そういうことなら、頑張らないとな」



 結局Sランクに上がれなかったし、それほど腕前は変わっていない。

 とはいえ無様な姿は見せられない。リーナをチームに誘うためにも、いいところを見せなければ。



「うぅ……そんなのどーでもいいじゃないか……。どうしてなんだ、リーナちゃん……」



 ショックのあまり、倒れそうになる代未を慌てて支えるリーナ。

 晃人はさっきの仕返しに得意げに代未のことを見るが、気付かれてキッと睨まれた。



「そのドヤ顔やめろ。調子に乗んなよ、てめー……」


「乗ってない、乗ってません」



 本当に、リーナの幼馴染みは恐ろしい。



「じゃあ決まりだね! ハガーアミューズメントに、レッツゴー!!」



 拳を振り上げ鞄を手にし、意気揚々と教室を出ようとするリーナ。

 晃人は慌てて自分の鞄を取って追いかける。



「いいか、沖坂。お前にタッグの座は譲らねーからな! 絶対にだ!」



 代未は晃人を睨んでそう言うと、早足でリーナの隣りに並んで歩き出した。



「タッグじゃなくて、チームに誘いたいんだけどな。

 ……あれ? タッグの座ってことは、渡矢さんもマジックシューターズやってる?」



 今さらなことに気付いて、ぼうっとふたりの背中を見つめる。

 が、すぐに我に返り、後を追いかけた。

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