3「タッグバトル・スタンバイ」


 極大魔法戦争マジックシューターズは、お互いのチームがそれぞれの儀式塔に魔力を注ぎ、先に極大魔法を完成させた方が勝ちというルールだ。

 時間制限は、一試合五分。タイムアップの場合、より魔力を注ぎ込んだ方の勝ちとなる。


 しかし、ある条件を満たさなければ、魔力を満タンまで注ぐことができないというルールがある。そのため全員で儀式塔に魔力を注げばいいというものでもはなく、敵陣を攻める必要があり、対人戦はまず避けられない。


 チーム四人の役割分担と、連携が大事なゲームなのだ。


 ランクが高い人は、例え知らない人と組んだとしても、お互いがそれを理解しているため、自分の役割をしっかりこなし、自然と連携を取れる人が多いと聞く。


 晃人は、その辺りのアドバイスも期待していたのだが……。



「……Cランクかぁ」


「うん? なにか言った?」


「ああ、いいや。なんでもない」



 筒型の筐体の前で、今やってる対戦が終わるのを待つ、晃人とリーナ。



『わたしのランク。Cランクだから』



 先程聞かされた衝撃の事実を、晃人はまだ引き摺っていた。



(でも……あんなに詳しかったのに?)



 詳しくても強いとは限らない、ということだろうか。だとすると、このタッグは意味が無くなってしまう。



「コートくんは、さっきと同じセッティングで行くの?」


「えっ? ああ、うん。今から変えてもおかしくなるだけだろうし」


「それもそうだね~。バランスも大事だから、一つ変えると全部考え直さないといけないからね」


「……リーナは、どういう風にセッティング決めてるんだ?」


「わたし? わたしは最初にカスタム魔法を考えるかな~。自由度が高いから、それ次第で役割もぜんっぜん変わってくるからね。役割毎にいくつかカスタム魔法を用意してるよ。カスタム魔法を二つ選んだら、あとはリング魔法のタイプを決めて終わりかな」


「通常射撃魔法の属性は?」


「わたし、最近いっつも水属性にしてるの」


「なるほど、そこは固定なのか」



 ゲーム中に使える魔法は三種類。


 通常射撃魔法。魔法を撃つには魔力を消費することになるが、この魔法は一番消費が少ない、基本攻撃だ。属性を選ぶことができる。

 ちなみに、消費した魔力は魔法を使わなければ自動回復する。


 リング魔法。発動に条件があり連発はできないが、強力な魔法。攻撃用や妨害用などタイプがあり、選ぶことができる。属性は通常射撃魔法と同じになる。


 そしてカスタム魔法。その名の通り、ベースの魔法を好きにカスタムすることができ、二つセットすることができる。



「セッティングもだけど、魔法のカスタムもスマホのアプリでできちゃうでしょ? だからもう、一日中考えていられるよ~」



 スマホアプリで魔法をセッティングをすると、ゲーム内に反映される。

 そのため、家でゆっくり考えることも可能なのだ。



「ほんとに好きなんだな、魔法のカスタム」


「うん! カスタム魔法って、その人の個性が出て面白いと思わない? 性能を尖らせる人もいれば、使い勝手重視でバランスを取る人もいる。意外なカスタムで相手の意表を突く人もいるよね!」


「そうだな。もちろん、それを使いこなせなきゃ意味がないけど」


「うんうん!」



 カスタムのバリエーションは本当に豊富で、例えば晃人が使っているハイウィングという魔法。

 特殊能力付与、飛行。魔力が続く限り、空を飛ぶことができる魔法だ。

 カスタムで魔力消費を少なくして飛翔時間を長くしたり、飛行速度を上げたりできる。もちろんそのためには、どこか性能を下げる必要がある。どこを伸ばし、どこを削るか。それを考えるのは確かに楽しい。



「ベースとなる魔法をそのまま使う人もいるけど、やっぱりカスタムした魔法をしっかり使いこなしてる人は強いね! 魔法のカスタムは強さに直結してるよ~」


「ああ……俺も、そうだと思う」



 思うからこそ、連敗が続くと、カスタムがよくない、魔法選びが失敗してるんじゃないか、と不安になるのだ。



「あ、そろそろ開幕の動き方を決めておこっか。

 そうだなぁ……。まず、一緒にひとつめの魔石拠点取りに行っちゃおう。なんだかんだでそれが鉄板だしね」


「拠点取らないと始まらないしな。儀式塔、半分までしか魔力注入できないし」



 リーナの言う魔石拠点とは、儀式塔により多くの魔力を注ぐために必要な拠点のことだ。

 この拠点で魔石を起動することで、注げる魔力の上限が増える。



「そうそう。一つ取れば75%、二つで100%。開幕で一つ取れると、だいぶ楽になるんだよね。拠点は敵陣側にあるから、後半だと守りが堅くなっちゃうパターン多いから」


「いつも思うけど、なんで敵陣側に魔石があるんだろうな。自陣側に敵が使う魔石があるんだぜ」


「あれ、晃人くん設定知らない? 儀式塔を完成させるためには、魔力発生源である巨大な魔石とリンクする必要があったんだけど、建設中に、リンクする予定だった魔石を敵国に押えられちゃったんだよ。代わりに敵が使う魔石を押えることはできたけど、自国の極大魔法と魔石の相性が悪くてリンクできなかったの。だから、敵陣側にある魔石拠点を奪い返す必要があるんだよ~」


「そういう設定があるのは知ってるけど、なんかなぁ。……でもまぁ、これってつまり――」


「敵陣側に攻め込んでもらうための理由作り、だね~」


「……だな」



 魔石拠点のルールが無いと、本当にただ儀式塔に魔力を注ぐだけになってしまう可能性がある。

 もちろん、例え魔石拠点のルールが無くても、普通に妨害し合うだろう。

 でもルールで強制してしまった方が、ゲームが面白くなる。それは晃人も実際にプレイしてみてよくわかった。



「というわけで作戦! まずは拠点狙い! もちろん、残りの二人次第だけど。どっちかが魔力注入役してくれるといいなぁ。拠点奪ってから魔力注いでも遅くはないんだけどね~。あとは状況見てやばそうだったら、防衛のお手伝いかな。

 とにかく、開幕で拠点を一つ取る! これを目指していきたいね」


「……わかった」



 開幕で魔石拠点を取りに行くというのは、常套手段だ。

 それを逆手にとって、相手の攻撃を全力で防いでから攻め込むという手もあるが、相当足並みが揃っていなければ成り立たないだろう。守りに専念しすぎると、相手も全員で攻め込んで来るようになり、結局押し込まれて負けるパターンが多い。どこかで攻める必要があるのだ。


 序盤で魔石拠点が一つ取れるかどうかで、その後の流れが変わる。

 魔力注入も75%までできるようになるのは大きい。

 こちらの拠点も防衛できれば、さらなるアドバンテージになる。


 その要点を理解しているリーナは、やはりマジックシューターズに詳しい。



「あ、筐体から前の人が出てきたよ! 行こう、晃人くん! あ、中に入ったらタッグ設定、忘れずにね!」


「ああ……」



 嬉しそうに筐体に入っていくリーナの背中を見送って、晃人も中に入る。



 入ってすぐ脇に台があり、そこにスマホを置く。

 するとプレイヤー確認がされ、自動的にセッティングした魔法が読み込まれるようになっている。


 筒型の筐体内は、半径1メートル強。一回り小さなリング状の手すりがあり、プレイヤーはその内側に入ることになる。


 備え付けのヘッドマウントディスプレイを頭から被り、左手にグローブ着ける。このグローブは片手用コントローラーと一体化していて、各種操作で使用する。

 バトル中の魔法の切り替えや、キャラの移動、通信範囲の切り替えなどだ。


 空いた右手は、もちろん魔法を使うためにある。

 腕を真っ直ぐ伸ばし、狙いを付けて魔法を撃つ。

 正面に限らず、とにかく腕を伸ばした方向に撃つことができるため、ゲーム中はかなり身体を動かすことになる。リングはその支えのためにあるのだ。



「そうだ、まずはタッグを組まないとな」



 ディスプレイには、メニュー画面が表示されている。

 リーナの方からタッグ申請が来ていたので、それを承認。



(……本当に、Cランクなんだな)



 タッグを組んだことで、メニューからリーナのプロフィールを見ることができ、間違いなくCランクだと確認できてしまった。



「タッグ組めたね~。よろしくね、晃人くん」


「…………」


「あれ? おーい、コートくん? 通信の切替はわかるよね?」


「あ、ごめん。……うん、大丈夫」



 晃人は慌ててコントローラーでタッグ通信に切り替えて、リーナに返事をした。



「よかった。じゃ、準備オッケー? そろそろ始まるよ、晃人くん」


「オッケー。……よろしくお願いします。リーナ先生」


「やっぱり気持ちいいなぁ、先生って響き……!」



 Cランクなのは気になるが、ゲームに詳しいのは間違いない。

 きっとなにか事情があるのだろう。


 教わると決めたのだから、余計なことは考えず、しっかり教わるべきだ。

 晃人は右手で自分の頬を軽く叩いて、気を引き締めるのだった。

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